斎藤アナが老化を体験


今回、斎藤哲也アナウンサーが、高齢期擬似体験システムを使って実際に老化を体感しました。
70代後半から80代の動きを体感できるセットです。
まずは腰にベルトを巻きます。腰と膝を結びつけて固定します。膝に分厚いサポーターを巻くことで、筋肉の衰えを再現するのです。
そして、眼鏡をかけて視野の狭さ・色覚変化を再現します。
さらに、高い音が聞き取りづらくなる老人性難聴を体感するために、耳あてを付けます。

斎藤アナ:「これ、支えがないと立ち上がるのがとても大変なんです。」
斎藤アナ:「年を取って、身体が衰えるというのはどういうところからくるのですか?」
東京都リハビリテーション病院 院長・林泰史先生に伺いました。

林先生:「身体の形から見ますと、まず姿勢です。そして、膝の筋肉が弱り、自由に足を動かせなくなります。それから、外からは分かりませんが、視力・聴力の低下です。」

斎藤アナ:「普通に歩くのが大変です・・・」
林先生:「関節があまり動かないというよりも、筋肉が衰えて大きく動かせなくなります。そうなると、1.5センチくらいの段差も障害になってしまうのです。家の中の段差は、若い頃から住み慣れていますからあまり危険と思わないのですが、実際はそういった所でつまづいたり転んでしまったりします。」

簡単なところでも転びやすくなってしまう・・・となれば、階段では??
斎藤アナ:「まず上を向くのが大変なので、まず何段あるか見るのができないですね・・・」
通常なら一番上まで見える階段ですが、前かがみの姿勢のため、グッと視野が狭まってきてしまいます。」

斎藤アナ:「自分ではスピーディーに上がっているつもりなんですけどね・・・」
林先生:「駅などの人ごみの階段は特に危険なので、注意が必要です。」

今度は下り・・・

斎藤アナ:「これは恐いです・・・ただでさえ前傾しているのに、さらに前傾になるから。杖だけだと不安になりますね。下りの方がむしろ大変です。」
なんとか一歩一歩慎重に階段を下りるという感じでした。

続いてやってきたのは、交通量の多い交差点。

20メートルくらいのそんなに長くない横断歩道で、青信号になった瞬間に歩き出しているのですが、周りを見る余裕がないんです。
非常に視野が狭いので、大きな車が来ていることも分からないんです。足元だけを見て、時間内になんとか渡りきるのに精一杯でした。
斎藤アナ:「あれ?いつ赤になったの?」
自分としては、余裕で渡ったつもりだったんですが、信号は赤になっていたんですね。本当にびっくりしました。

続いては、千円札を使って自動販売機で飲み物を買ってみましょう。
早速、自動販売機の前に大きな障害物、段差があったのです。わずかな段差ですが、これが大変なんです。
斎藤アナ:「これだけ自動販売機に近づくと、一番下の段しか見えない…。」
広い所では何ともないのですが、近いづいてみると上の段が見えないんです。

そして、もう一つ難関が・・・!
千円札を入れるところが高い位置にあったため、一苦労だったのです。
斎藤アナ:「いつもは何気なくやっていることですが、こんなに大変だとは思いませんでした。」
お釣りも取るとき、もし落としたりしたら拾うのが大変ですもんね。
周りに人がいたら、慌てたりしてまた大変ですよね。

現在の70代・80代の方は本当にお元気な方が多いですが、今回老化を体験してみて、いろいろ大変だということが分かりました。

“クロトー遺伝子”の発見(1)


続いては、鍋島陽一先生。

先生は、老化に関する遺伝子、クロトー遺伝子を発見しました。
「クロトー」とは、ギリシア神話の神、ゼウスの娘にちなんで、先生が名前を付けたそうです。
では、鍋島先生のクロトー遺伝子の発見に至る人生とは?

京都大学医学部。京都の中心地に程近い、恵まれた環境にあるこのキャンパスには、伝統を感じさせる多くの研究棟が立ち並んでいます。
鍋島陽一教授の研究棟を訪ねました。

鍋島先生が発見したのは、老化に関係するという「クロトー遺伝子」。
先生、まずはそれを見せて頂けるでしょうか?

鍋島先生:「遺伝子というのは見えるものではありませんが、我々が人様に見せるときは、このように見せています。この長い部分が遺伝子で、この横の部分がクロトー遺伝子。全く目には見えないものです。」
・・・と説明して頂きましたが、もう一つピンときません。
そもそも見えないものをどうやって研究するのでしょう?
遺伝子解析の現場を見せて頂くため、鍋島研究チームを訪ねました。
鍋島先生:「遺伝子の配列を示している画で、波を見れば遺伝子の順番が分かります。」
4色の波形が、遺伝子の配列を表しているそうです。
コンピューターが解析した遺伝子の配列は、こうして打ち出されます。
この4色の波形から、遺伝子の種類を知ることができ、それで遺伝子の研究ができるそうです。
鍋島先生が発見したクロトー遺伝子は、この解析によって、13番目の染色体の中にあることが分かっています。
それにしても先生は、どうして、この目に見えない遺伝子の世界に飛び込んだのでしょうか?
昭和21年、新潟に生まれ、自然の中でのびのびと育った鍋島先生は子供の頃から、あるものにとても興味を持っていたといいます。
鍋島先生:「蝶を集めていました。特に、ギフチョウとウスバシロチョウを集めていました。それほどたくさん持ってはいませんでしたが、これらは美しいなと思っていましたね。」
当時、まだ小学生だった鍋島先生は、蝶を見ながら考えました。
“同じ蝶なのに、なぜいろんな大きさやいろんな形があるんだろう・・・?”
“同じ種類の蝶でも、春に生まれた蝶と夏に生まれた蝶では、なぜこんなに色が違うんだろう・・・?”
鍋島少年は、蝶の魅力にどんどんのめり込んでいくのです。
そんな彼を見ていた当時の担任の先生がこう言いました。
「君はとても洞察力が秀でているね。きっと研究者に向いているよ。」
これが、鍋島先生の原点でした。
鍋島先生:「どうやってこの地球上で、こういう生物がたくさん生まれてきたか。子供の頃の興味や疑問などを持ち続けていましたね。」

昭和41年、新潟大学医学部に進学。
当時は遺伝子の構造が発見され、細胞を遺伝子レベルで考える時代に突入した医学界のちょうど転換期。
そんな中、鍋島先生は臨床医ではなく、研究者の道を歩むことを決意するのです。

そして、昭和58年。鍋島先生は、当時の遺伝子の常識を覆す大発見をしました。
当時、一つの遺伝子からは一種類のたんぱく質しか作られないと考えられていました。
ところが!
鍋島先生は、一つの遺伝子から複数のたんぱく質が作られることを証明してみせたのです!
鍋島先生:「遺伝子に関する概念を変えられたら、それは素晴らしいと思って研究していたら、一個の遺伝子から複数のたんぱく質が作られるということが分かりました。それは私にとって興奮でしたし、ものすごく嬉しかったです。」
遺伝子の概念を変えた鍋島先生の発見。
科学雑誌「nature」に掲載され、一躍、世界に注目される研究者となりました。
鍋島先生の発見は、いまや、世界の科学者達の間で常識として定着しています。

“クロトー遺伝子”の発見(2)


一躍、世界的に注目を浴びる研究者の一人となった鍋島先生。
鍋島先生:「私は真実が分かってしまえば、次の瞬間にはもういいやと思ってしまうところがあって、そんなに長く喜んでいるわけではないんですね。真実が分かったら、次の興味のほうが重要なんです。」

鍋島先生の新たな興味をひいたのは、研究中のマウス。
生後2週間のマウスの中に、先生は他とは違う、少し変わったマウスを見つけました。
一体、何が違うのか?
その骨を調べてみると、正常なマウスと比べて、短くて、しかも細い。さらに、骨密度も低くてまるで年老いたように骨がスカスカになっていたのです。
そして、脳の組織を調べてみると、正常なマウスの脳には、黒く小さな粒が見えます。これは、成長ホルモン。生後2週間のマウスには、成長ホルモンがいっぱいです。
しかし、異常なマウスの脳には、成長ホルモンの量がとても少ないことが分かったのです。
まるで、年をとって、もう成長がとまったかのようです。
さらに、血管を調べてみると、異常なマウスの大動脈は、ボロボロになって断面で見ると、このように血液の通り道が狭くなる動脈硬化を起こしていました。

つまり、異常なマウスには、人間の老化の症状によく似た症状が出ていたのです。
鍋島先生:「加齢で現れてくるような症状に近いものがたくさんあったものですから、非常に注目されました。」
異常なマウスは、正常なら持っているはずの、ある遺伝子を持っていませんでした。
鍋島先生はついに老化に関する遺伝子を発見。「クロトー」と名付けました。
鍋島先生:「非常に嬉しかったのですが、遺伝子の構造とマウスで起こっていることの間に、大きなブラックボックスがあって、どうしようかということを実はそのとき思っていました。」

クロトー遺伝子の大きな謎を前に、暗中模索の中、鍋島先生は京都大学に迎えられます。
ここでさらに研究が重ねられ、クロトー遺伝子の働きは徐々に解明されていきました。
鍋島先生:「クロトー遺伝子は、身体を一定の状態に保ち、健康な状態を維持するために機能している遺伝子です。主に、カルシウムの制御に関わっています。」
カルシウムといえば、まず思い浮かべるのは骨。もちろん、カルシウムのほとんど、およそ99%は骨に存在しています。
そして、残りの1%のカルシウムは血液の中にあり、血液中を移動しながら全身のあらゆる細胞に出入りして、細胞の活動を調節しているのです。
クロトー遺伝子は、そのカルシウムの出入りを調節する司令塔のような役割を果たしています。
そのため、「クロトー遺伝子」を持たないマウスは、カルシウムを正しく働かせることができません。
その結果、老化によく似た症状が起こってしまうのです。
鍋島先生は、こちらの研究室で、後進の指導にも力を注いでいます。
同じフロアで、研究者達はそれぞれのテーマに沿って違う内容の研究にいそしんでいます。
それぞれの研究をサポートする鍋島先生。
鍋島チームの一人、助教授の星野幹夫先生は、小脳を作る遺伝子を研究しています。
星野先生からみた鍋島先生は、一体どんな存在なのでしょうか?
星野先生:「まだ漠然とした研究、まだ芽の段階で、『あっ!これは面白そうだ』とか、『これは今一つ、つまらないかもしれない』ということを、動物的な勘で鋭く指導して下さいます。そのあたりの嗅覚というのは、なかなか我々も真似ができないなと思います。」
吉田松生先生は、どうして体内で毎日精子が大量に作られるのかという研究に取り組んでいます。
吉田先生:「あまり細かいことは言わないけれど、大きな心で、おかしいことがあるとポンとはっきり言ったりなど、ボスとして素晴らしいと思います。」
川内健太先生の研究テーマは大脳の神経細胞です。
川内先生:「鍋島教授の場合は、好きにやって、それをそれぞれの仕事としてやれと。それだけの環境を全部整えてやる、というなかなか珍しくて、僕らのような若い人達にとって、とてもありがたいです。」
若い研究者に研究の場を与えながら、鍋島先生自身も、自分の研究を続けています。

先生の今後の研究課題は?

鍋島先生:「クロトー遺伝子は、"αクロトー"と"βクロトー"の2種類あるのです。」
αはカルシウムを、βはコレステロールや血糖を制御する。研究の結果、クロトー遺伝子の新たな事実が判明してきました。
鍋島先生:「コレステロールの量や血糖値というのは、我々の老化、加齢に伴う疾患に関わることはよく分かっていることですから、βクロトーを解した様々な仕組みが分かれば、新しい治療法や診断法、病気の理解が進む可能性があります。そういった意味で、何かこれまでの予想を超えたことが分かる可能性があるなと、私共は期待しています。」

パーキンソン病の原因となる遺伝子を発見した、水野美邦先生。
老化に関係の深いクロトー遺伝子を発見した、鍋島陽一先生。
このお二人の偉大な発見が、新しい治療法への大きな一歩となるのです。
新しいものへの探求を怠らず、先生方は努力家なんだなと思いました。
先生方の日々の研究の積み重ねは素晴らしいですね。