クスリのすべて

昔のクスリ作りを体験!!

〜長谷川理恵さんが江戸時代創業の薬局を訪ねました!〜


小田原 景色

今日は、小田原で江戸時代から続いている薬屋さんを訪ねました。
神奈川県小田原市。江戸時代には東海道の宿場町として栄えた
所です。
薬

長谷川:「あっ!こちらですかね?薬って書いてありますよ、大きく! 創業寛永10年って、相当古いですよね。
看板


これ見て!反対から読むようになってますよ。
昔にタイムスリップしたみたいな感じがしますね。」
小西薬局 外観

ここ小西薬局は、寛永10年(1633年)創業。
350年以上の歴史を誇る薬局です。

引き出し

長谷川:「早速中に入ってみましょう!!
うわぁ〜、すごい天井が高い!造りも昔のままですね。
ずら〜っと引き出しがある!」
小西さん

小西さん:「いらっしゃいませ」
生薬取り出す

長谷川:「こんにちは。このたくさんある棚は、中にはまだクスリが入っているんですか?」

小西さん:「はい、今でも現役ですよ。」
今でも売られているという薬をご主人に見せて頂きました。
お灸の原料となっているモグサや胃腸の働きを助けるクチナシや、解熱作用のあるジリュウなどがありました。
長谷川&小西さん2S

長谷川:「どういったお客さんがこのクスリを買いに来るんですか?」
小西さん:「近所の方で昔から使っていらっしゃる方や、
おばあちゃんからよく効くよと聞いてお使いになっている若い方もいらっしゃいます。」

道具類

また、歴史を感じさせるのは引き出しだけではないんです。
秤

昔のクスリを作っていた道具がずらりと並んでいました。
薬研

長谷川:「これは何ですか?」
小西さん:「これは、薬研(やげん)といいまして、漢方薬の原料の生薬を細かく潰すための道具です。」
長谷川:「大昔からそのまま使っている道具なんですか?」
小西さん:「はい、ずっと使っていたんですよ。」
乳鉢

長谷川:「へぇ〜!では、これは?」
小西さん:「これは薬研で細かくした生薬を、もっと細かくするための乳鉢です。」
金属でできたこの乳鉢を持ってみると・・・、
長谷川:「うわっ!重〜い!結構ずっしりときますね。」
小西さん:「これ、使い込んできたので底の部分が出っ張ってしまっているんですよ。」
出っ張り

長谷川:「わぁー本当だ!真ん中がポコっと出っ張ってますね!
でも、この乳鉢、相当年季が入ってますね。」
ここで、この道具と生薬を使って何か作れないかお願いしてみました。
8種類の生薬

小西さん:「では、うちで作っている健康茶を作ってみますか?」
長谷川:「お茶ですか!是非作ってみたいです!」
ということで、今回私は薬研と乳鉢を使って、カキノハや小田原でとれたミカンの皮など8種類の生薬が入ったお茶を作らせてもらうことにしました。
薬研で潰す(2S)

まず、大きい生薬を薬研に入れて細かくします。
長谷川:「昔の人はこうやって地道にひたすら潰していたんだな〜って思うと、今は便利ですよね。でも、こういうのも良いですね!」
薬研UP

長谷川:「すっごい良い香りがしてきた!」
乳鉢で潰す(2S)

続いて、乳鉢に細かくした生薬と、他の生薬も入れてさらに細かくします。

乳鉢UP

長谷川:「いろんな香りがしてきましたよ!8種類も入ってますもんね。
だんだん心がこもってきますね。ゴマすりみたい!
こんな感じでいいですか?」
お茶入れる(2S)

そして、完成したお茶を早速飲んでみました。
お茶飲む長谷川

長谷川:「さっぱりしてますね!全くクセがないです。これ、冷やしてもおいしいですね、特に夏場は。
昔の人は、周りの植物を使って漢方薬を作っていたんですね。
特に小田原はミカンが有名ですから、ミカンの皮まで使ってね。」

今回お茶でしたが、昔のクスリ作りをちょっとだけ体験できたような気がしました。


"クスリ"の歴史 〜クスリはいつ頃から使われていた?〜


「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」
昔から美人のたとえに、よく使われる言葉ですが、この3種類の花には共通点があったのです!
実は、全ての花がクスリとして使われているのです。

望月眞弓先生

その薬について、共立薬科大学医薬品情報学講座 教授・望月眞弓先生に伺いました。

芍薬

望月先生:「古くから漢方に配合されていて、婦人病のクスリなどに使われていました。
例えば芍薬については根を使うのですが、痛みを取ったり、筋肉のこわばりを取ったりします。」
牡丹

牡丹は、漢方では婦人病の症状で現われる肩こりや腰痛のクスリ。
百合

百合も、咳止め・炎症を抑えるクスリに使われているのです。
何気なく使っていた美人の形容にも、体に良いクスリとの関わりが隠れていたとは驚きです!
では、人類が歴史に記録している最も古いクスリとは・・?

それは、今からおよそ6000年前の紀元前4000年頃、
メソポタミア文明を築いたシュメール人が、粘土板に書き記しています。
そこに描かれたクスリとは、抗炎症作用のあるカミツレ、消炎・鎮静作用のあるナツメ、
発汗解熱作用のあるケイヒなどでした。これらはいずれも、メソポタミア地方原産の植物。
人類最古のクスリは、どれも身の周りでよく見かけた植物だったのです。

さて、メソポタミアから4000年経った西暦100年頃。
現在の中国で、今度は人類最古の薬物書が書かれました。
それが、「神農本草経」。ここには、カンゾウ、トウキ、そしてダイオウなど、365種類もの薬物について、それぞれの効果や副作用が記されています。
そればかりか、様々なクスリの組み合わせによる薬効も記されており、非常に実用性の高い書物でした。
事実、これらの薬は2000年を経た現在でも、漢方薬として使われています。
「神農本草経」こそ、東洋医学の基礎を築いた書物なのです。

一方、我が国に目を転じると、日本最古の書物と言われる「古事記」に、クスリにまつわる話が残されています。
おとぎばなしで知られる「因幡の白ウサギ」が実はその一つ。大国主命(おおくにぬしのみこと)は因幡の国、現在の鳥取県で傷ついた兎と出会います。その兎を助けようと考えた彼は、まず真水で兎の体をよく洗い、それから、蒲の花粉を傷口に塗り込んだのです。
蒲は主に水辺に生える植物ですが、実は花粉に止血や鎮痛の作用があり、それが古代の日本でもすでに知られていたのです。

さらに飛鳥時代に入ると、仏教と共に中国のクスリの知識が日本に入ってきました。
それを一般に広めたのは、この人、聖徳太子。
聖徳太子は仏教の信仰を広めるため、現在の大阪に四天王寺を建てました。その境内には、
仏教施設だけでなく、クスリの製造、調合、処方を専門に行う施設もあったとされています。
そして、そのクスリにより、病に苦しむ多くの人が助かったと伝えられています。
太古の昔、身の周りの植物から作られて始まったクスリの歴史は、現代へと脈々と受け継がれているのです。



近代医学の歴史を変えた画期的なクスリの発見


私達に多大な恩恵をもたらし、人類存亡をも左右したと言える偉大な二つのクスリの発見があります!
それは『抗生物質』と『ワクチン』。
望月先生:「抗生物質は、菌を殺して撃退するクスリです。ワクチンは、病気を予防するためのクスリです。
     抗生物質とワクチンができたおかげで、感染症から人類が救われたと言っても過言ではないでしょう。」

病気の原因となる菌を撃退するクスリ、それが『抗生物質』。
抗生物質が発見される前、敗血症や赤痢といった、直接、死につながる感染症だけでなく、
ごく小さな傷口から入ったばい菌でさえも、化膿して人の命を奪うケースが少なくありませんでした。

世界で初めての抗生物質。それは1928年、イギリスの細菌学者・フレミングが、アオカビから発見した「ペニシリン」。
この発見をキッカケとして、抗生物質の開発と研究が世界中で一気に進みました。

そして、1944年。日本人の平均寿命をなんと10年も延ばすという画期的な成果をもたらした抗生物質が発見されます!
それは結核菌を撃退する「ストレプトマイシン」。
結核は空気感染で次々と伝染し、日本でも長年に渡り、死亡原因第一位を占めていた
恐ろしい病気でした。そのため、アメリカのワックスマン博士によって発見されると、
瞬く間に全世界に広まりました。
日本でも、結核による死亡者が劇的に減ったのをはじめ、多くの命と人生をストレプトマイシンが救ったのです。

この抗生物質と並び、歴史を変えた偉大な発見が、病気を予防する薬、『ワクチン』!
ワクチンが生まれたのは、18世紀終盤のヨーロッパ。
この当時、「死の病」と恐れられていた天然痘が、世界中至る所で大流行していました。
例えばドイツでは、年間3万人もの人々が命を落としていたのです。
この天然痘に対するワクチンを発見したのが、イギリスの医学者・ジェンナー。
彼は弱い天然痘の菌を、あえて人の体内に侵入させるという、当時としては衝撃的な方法を用いて、病気にかかるのを防いだのです。
それが種痘。世界初のワクチンです。

やがて1882年には、フランスの細菌学者・パスツールが、死亡率の非常に高い狂犬病に対するワクチンを開発!

さらに1890年には、ドイツのベーリングと、日本が誇る細菌学者・北里柴三郎が、共同でジフテリアと破傷風ワクチンを開発!
以後、結核予防のBCGワクチンをはじめ、ポリオワクチン、日本脳炎ワクチン、さらに今日でも非常に身近なインフルエンザワクチンなど、現在、私達も恩恵を受けているワクチンが次々と登場したのです。

さて、抗生物質やワクチンは、菌やウイルスといった、人間の体内にない成分を元に作られたクスリでした。
しかし、近年になってから、体内で足りなくなった成分を人工的に作り出し、多くの人々を救うクスリも現われました。
その代表が、糖尿病の治療には不可欠なインスリンです。
インスリンを必要とするのは、糖尿病の治療。糖尿病は放っておくと動脈硬化や失明など、非常に危険な状態を招いてしまう恐い病気です。
現在、インスリンを必要とする糖尿病患者は、日本だけで実に247万人にも上っています。

こうして、クスリの歴史上に残る偉大な三つの発見、『抗生物質』、『ワクチン』、『インスリン』は現在も多くの人々の命を救い、守っているのです。





これからのクスリはどうなる? 〜テーラーメイド医療〜


21世紀の医療を変える薬!それは一体・・・?

望月先生:「クスリに対する反応は個人個人で差があります。
そうした個人差をあらかじめ調べた上で、その人に適したクスリを選んで、その人に適した量で使って頂くことを『テーラーメイド医療(個別化療法)』と言います。」

『テーラーメイド医療』・・・それは具体的に、どんな内容なのでしょう?

その基本は、個人の体質を調べるところから始まります。
私達人間は、それぞれ顔や背の高さが違っているように、体質も人によって異なっているもの。
こうした体質の違いを作り出しているのは、私達の全ての細胞の中に存在する遺伝子。
テーラーメイド医療では、遺伝子を調べて、個人個人に対するクスリの効きやすさや、副作用の出方を把握。患者さんそれぞれの体質に、最も合ったクスリを処方します。

また近年、病気そのものに関しても、遺伝子の違いが分かってきました。
例えば、がんについていうと、現在、治療に使う抗がん剤が効果がある人はおよそ30%前後。逆に副作用は、高い割合で発生するとされています。これは人により、がんの細胞が異なるためと言われています。
この違いも、遺伝子が原因。つまり、がん細胞の遺伝子が事前に分かっていれば、それに対して最も効き目のあるクスリを選べるわけです。

望月先生:「それぞれの患者さんのがん細胞を調べて、使おうとしている抗がん剤の効果が出るかどうかをあらかじめ予測することができるのです。
それは、すでに市販化されていて医療機関で使われている抗がん剤の中にも存在します。」

どうしても、副作用というマイナスイメージのつきまとう抗がん剤ですが、あらかじめテーラーメイド医療で効果が分かってさえいれば、抗がん剤は最も有効な切り札ともなり得るのです。
このように、テーラーメイド医療の普及は、がんをはじめ、多くの病気に対する新たなクスリの製造や処方に関して、大きな期待を集めています。

歴史を見てみると、昔の人達の発見のおかげで今元気でいられるんだなと感じました。今日に至るまでの歴史にはいろいろな背景があったのですね。
ますます"セルフメディケーション"って大切だなって思いました。

〜長谷川理恵さんが江戸時代創業の薬局を訪ねました!〜