ストレスからくる腹痛のクスリ

"過敏性腸症候群"とは?

フリップ

ストレスや環境の変化から腹痛や下痢、便秘を起こしてしまうことを「過敏性腸症候群」といいます。
この病気に悩む人はとても多く、欧米では人口の10%から20%、日本ではまだ統計がありませんが、およそ2割の人がこの病気だと言われています。


"過敏性腸症候群"の症状


あいたたた・・・!急にお腹が痛くなってきた!また下痢かもしれない!便秘でお腹が張って痛い!
下痢や便秘に苦しむ「過敏性腸症候群」。 いつ出てくるかわからないこの症状に悩む現代人が増えています。
これは、一体どんな病気なのでしょうか?

小橋恵津先生


駿河台日本大学病院・小橋恵津先生に伺いました。
小橋先生:「過敏性腸症候群とは、一般的に、大腸がんや大腸ポリープ、大腸炎というような器質的な腸の中に何かができてという病気ではなくて、腸管の運動機能異常で腸が早く動いてしまったり、ゆっくり動いてしまうことによって起こる、機能障害と言われる病気の一種です。」

機能障害の過敏性腸症候群。
その症状は、便秘型・下痢型・交代型の三つに分けられます。
腸イラスト

その@・便秘型とは?

腸の中の便を移動させるのが、腸の蠕動運動。
便秘型の場合、腸が収縮した状態のときに痙攣を起こし、腸の動きはとたんにゆっくりになります。
腸が収縮



すると、便が腸に長くとどまっていることになり、便秘になってしまうのです。
腸が伸びた状態

その反対が、A番目の下痢型。

このタイプは、蠕動運動をしている腸が伸びきった状態のときに痙攣を起こし、腸の動きが、通常よりもずっと早くなってしまいます。すると、便が短時間で移動するため、下痢を起こしてしまうのです。
ひどくなると、朝の通勤途中に電車内で痙攣が始まり、停車駅ごとにトイレに駆け込むという悲惨な状態になることもあります。
過敏性腸症候群、Bつ目は交代型。

例えば、下痢が2日続くと思ったら、今度は便秘が4日続き、その後、また下痢になるというように、便秘と下痢が交互に起こるタイプです。
小橋先生:「下痢型になるタイプは男性が多いと言われていて、便秘型は女性が多いと言われています。
交代型は、男性と女性のどちらが多いか、今のところは分かっていません。
どちらかというと、下痢のタイプの人が、次に便秘になりやすいということもあるので、そういう点からは、男性に多いという感じもしますが、どちらとも言えません。」

この過敏性腸症候群の最も大きな原因が、「ストレス」!

では、どうしてストレスが、腸の動きに影響を与えるのでしょう?

小橋先生:「普通、人間は食べるとすぐに、腸や胃は自律神経の働きで、自然に動き出すという仕組みを持っています。
ただ実はそれだけではなく、嫌な感じやストレスがあると、自律神経のバランスが悪くなって、それが腸に刺激をします。そして、下痢になったり、便秘になったりするのです。」

腸の蠕動運動をコントロールしているのは、自律神経!
自律神経


脳がストレスの刺激を受けると、その刺激は自律神経を通して腸の神経に伝わります。
すると腸は正常な蠕動運動ができず、痙攣を起こして、腹痛や下痢、便秘を起こすのです。
脳と腸はお互い深く関わり合っている!
この密接な関係は、近年の研究でますます明らかになってきました。
腸脳相関

小橋先生:「脳で感じたこと、それが腸管に刺激するということを、腸脳相関と言います。
人間の感情、怒りやイライラ、ストレスを感じると、腸管にセロトニンという物質がたくさん刺激を与えます。それによって、腸管の動きが興奮したり遅くなったりします。」

セロトニン

脳がストレスを感じると増えてくるセロトニン。この物質が腸で受け取られると、腸の動きは必要以上に活発になります。

また、腸で受け取られる量が少な過ぎると、腸の動きが悪くなり、過敏性腸症候群が起こります。
ストレスと腹痛の研究は、現在も続いています。


"ストレス"という言葉は、いつからあった?


ストレスから来る腹痛。
この症状についての古い記録が、1861年のアメリカにありました。
当時のアメリカは南北戦争、真っ只中!
戦いが日に日に激しさを増す中、軍医であった、ダ・コスタは、兵士たちの身体に起こる、ある異変に気付きました。
心臓には何も病気がないのに、動悸や息切れ、めまいなどを起こす兵士がどんどん増えていたのです。
また、これらの症状を起こす兵士の大半は、ひどい下痢にも悩まされていたのです。
特に悪いところはないはずなのに、なぜ心臓や腸に変調をきたすのか?
ダ・コスタは、戦争を通して味わう「死の恐怖」が精神的な重圧になって、このような症状を起こしていると報告しました。

この時はまだ、「ストレス」という言葉は、医学用語として使われていなかったのです。 
ストレスとは、物理学や工学の分野で使われていた専門用語。
本来は、「外から力が加わったとき物体に生じるゆがみ」を意味します。
「ストレス」という言葉を初めて医学的に使ったのは、カナダの生理学者、ハンス・セリエ。
セリエは、ラットを使い、寒さや不安、騒音など、ラットが苦痛と感じるあらゆる刺激を与える実験を行いました。
その結果、ラットは胃に潰瘍ができたり、副腎が肥大するなどの変調をきたしたのです。

「ストレス・シンドローム」、これが、1936年にセリエが発表した研究結果のタイトルでした。
セリエは、「ストレス」という言葉を、「外的な刺激が加わった場合に生じる身体の中のゆがみ」として使ったのです。

ストレスは、医学的に捉えられ、その後、ストレスが原因と考えられる様々な社会問題が起きました。
1950年代、アメリカで自動車工場のオートメーション化が進んだ時代。
機械が導入されると、工員達は流れ作業の中で、限られた仕事だけを行うようになってしまったのです。
すると、彼らの間で、腹痛と下痢に悩む声が頻繁に起こるようになりました。これはまさに、環境の変化によるストレスからくる腹痛と考えられます。

現在、アメリカ、ヨーロッパ諸国では、人口の10%〜20%が、過敏性腸症候群と言われています。
わが国では、1950年代まで、「ストレス」という言葉は物理学の用語としてしか使われていませんでした。
当時の広辞苑を見ると、「ストレス」の解説は、たったの一行!「ストレス」に医学的な意味はなかったのです。
60年代に入り、世はまさに高度経済成長期!このころから、「ストレス」という言葉が、当たり前のように使われるようになります。
2002年の調査では、日本人の9割がストレスという言葉を使っていると答えています。

「ストレス」が原因で体調を崩す・・・、
「ストレス」は、いまや、現代人とは切り離せない言葉になっているようです。




"過敏性腸症候群"のクスリ


ストレスからくる腹痛、「過敏性腸症候群」には、どんなクスリが有効なのでしょう?

下痢と便秘。一見正反対の二つの症状の両方に効果があるクスリあるんです。
小橋先生:「一種の海綿のような構造になっていて、腸管の水分を吸い取ることで、便をある程度の重量にして出すという薬があります。」
便の水分を吸収

ポリカルボフィルカルシウム」というのが過敏性腸症候群でよく出るお薬。
これは、下痢のときには、便の水分を吸収してかたい便を作り、
腸の水分を吸収

反対に便秘のときには、腸が水分を吸収しすぎてしまうのを防ぐので、便がやわらかくなります。
小橋先生:「眠れないなど、いろんなストレスが多い場合には、軽い安定剤を使うことによって、腸管の痛みなどが取れてきます。」
安定剤は、自律神経の興奮を鎮めるため、過敏性腸症候群の原因となる、腸の痙攣そのものを抑える効果があります。さらに、腸の健康を保つために、整腸剤を使うこともあります。
腸の中には、乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌と、大腸菌などの悪玉菌が存在してお互いにバランスを取り合っています。
悪玉菌が増えすぎると、便秘や下痢を起こしやすくなります。
整腸剤は、善玉菌を殺すことなく、悪玉菌を殺して、腸の調子を整えるクスリです。

過敏性腸症候群になりやすいタイプの方は、食べ物にも注意が必要です。

小橋先生:「便秘の方の場合には、野菜類をたくさん食べて、食物繊維を増やすことも大切です。
下痢の人の場合には、冷たいものやアルコールは、腸管の動きを早めてしまうので、下痢がますますひどくなります。見合った食事が重要です。」

密接な関係にある脳と腸。
ストレスがお腹に出やすい方は、クスリを上手に使い、日常生活も見直してみましょう!

必要以上にストレスを自分の中に溜め込まないようにしたいですね。
あまり気にしないでおくことも一つの手なのかなと思いました。
私は毎日マラソンをしているのですが、身体を動かして汗を流すことでストレスが溜まらないのだろうと思います。身体を動かすことはオススメですよ!