インフルエンザウイルスの正体は?


毎年この季節になると猛威を振るう、インフルエンザ。
その原因は、インフルエンザウイルス。
実は、私達人間が、このインフルエンザウイルスというものに感染するようになる、はるか前からこのウイルスは、アラスカやシベリアに存在していたのです!

最初に感染したのは、ここに住む水鳥たち。
彼らが、ウイルスを持ったまま飛び回り、その結果、インフルエンザウイルスは全世界に広がったのです。

国立感染症研究所 感染症情報センター・安井良則先生

Q:ウイルスは、水鳥は何から感染しているんですか?
安井先生:「水鳥は池や湖で感染します。それが南の方に飛んでいくのです。」
インフルエンザウイルスは、水鳥から鶏へ、そして、鶏から豚へと伝染!
この時点では、人の細胞に結びつくウイルスではないため、人には感染しなかったのですが、豚の中で突然変異!!
人にも感染するウイルスに進化してしまったとみられています。
その後も、シベリアやアラスカから運ばれたウイルスが形を変えながら、人間の世界で延々と生き残っているわけです。
人間に感染するインフルエンザウイルスの中で毎年猛威をふるうのは、A型とB型。
中でも症状が重くなり、世界的な範囲で流行するのがA型です。
さらにこのA型の中でも、香港型、ソ連型といったタイプの違いがあります。
では、毎年違う型のインフルエンザが流行するのはどうしてなのでしょう?
私達の体には、「免疫」という機能が備わっているのはご存知ですね。
一度感染したウイルスには感染しにくくなる。
しかし、ウイルスのほうも、生き残るために形を変えてしぶとく人間の身体に入り込もうとするのです。
この冬、力をつけているウイルスの形、それがインフルエンザの流行です。

では、今年流行するインフルエンザを一体いつ、誰が、どこで、どうやって特定しているのでしょうか?
なんと、インフルエンザに関しては、世界150カ国もの国々で監視体制が整っているのです。
アメリカやイギリス、そして日本といった先進諸国はもちろんのこと、まだまだ手付かずの自然が残るインド洋の楽園、マダガスカル島や中米に位置するギアナ、東ヨーロッパにあるベラルーシなど、WHOに加盟している国は、ほぼ全てインフルエンザウイルスの監視で協力体制をとっているのです。
安井先生:「A香港型、Aソ連型、B型から流行しそうなものを予測して決めます。」
WHOでは、世界中から集まった情報を分析して2月から3月までに、その年に流行しそうなウイルスを特定。
その情報を元に、世界各国でワクチンが作られることになるのです。
ワクチンの元になるウイルスは、Aソ連型、A香港型、B型の3つからそれぞれ1種類ずつ発表されます。
今シーズン、Aソ連型は、ニューカレドニアで発見されたウイルス。
A香港型は、日本の広島。
そして、B型は、マレーシアで発見されたウイルスがワクチンの元になるものとして発表されています。
日本でも、このWHOの発表を元に国立感染症研究所が研究を重ねて、4月ごろから、3種類のウイルスに効果のあるワクチンの製造にとりかかっています。
インフルエンザの流行を少しでも食い止めるため、世界中が協力して予防につとめているのです。

ウイルス発見の歴史


1918年、史上最悪のインフルエンザが世界を震撼させました。
感染者、なんと4億人。死者、実に6000万人。
当時の世界の人口はおよそ12億人。
そのうち3分の1の人々が感染し、20人に1人が命を落としたことになります。
この脅威のインフルエンザは、スペインで流行っていたことから、「スペイン風邪」と呼ばれました。
スペイン風邪は、一体なぜここまで大流行したのでしょう?
その原因は、第一次世界大戦。
当時のヨーロッパにはイギリス、フランス、ドイツだけでなく、ロシアやアメリカなど世界中からおよそ900万人の兵士が集まっていました。
塹壕など、狭い空間でひしめきあい、戦いに身を投じた兵士達。
ここでいったんインフルエンザが発生すると、あっという間に広まることとなったのです。
アメリカ軍の記録によれば、ヨーロッパに遠征し、死亡した兵士の8割は、戦争ではなくインフルエンザで死亡したといわれています。
多くの兵士達を死に追いやったスペイン風邪の大流行は、結果的に、第一次世界大戦の終結を早めるきっかけになったとさえ言われています。

スペイン風邪は日本にも上陸!猛威をふるいました。
大正時代の日本、1918年からの4年間で当時の人口5500万人のうちおよそ40万人が亡くなったのです。
そんな大惨事に直面して、世界中の研究者達が原因を追求し始めました。

そして、スペイン風邪の流行から15年後の1933年。
イギリスのアンドリュース博士が、ある動物を使ってインフルエンザの原因を突き止めたのです。
インフルエンザにかかった患者の鼻水やだ液を、ある動物に接種したところ、その動物はインフルエンザに感染!
その動物とは、イタチ科のフェレット。
フェレットは、ヒトのインフルエンザに対して反応しやすく、そこからついにインフルエンザウイルスが発見されることになったのです。
ウイルスが発見されると、今度はそのウイルスに対するワクチンを作り出す研究が始まりました。

ウイルス発見から7年後の1940年。
発育鶏卵、つまり中にニワトリのヒナがいる卵にインフルエンザウイルスを注入すると、ウイルスが増殖することが発見され、ここからワクチンの製造されることになりました。
これをもとに世界中で大量のインフルエンザワクチンが製造され、たくさんの国でワクチンの接種が行なわれることとなったのです。

インフルエンザのワクチン


インフルエンザの予防法。
その一番はなんといってもワクチンの予防接種です。
原土井病院 内科・池松秀之先生。

池松先生にワクチンの大切さについて教えていただきました。
池松先生:「インフルエンザにかかる確率が、ワクチンをうつと70%減らせます。1月中旬から2月に流行のピークが来ることが多いです。ワクチンをうって、2週間で免疫力がつきますので、今からでもうったほうが良いでしょう。」

Q:ワクチンは、大人は1回で済みますが、子供が間をあけて2回うつのはなぜですか?
池松先生:「ワクチンを1回だけうっても、免疫の働きが十分に高まらないことがありますので、2回目をうって免疫力を高くします。ですから、6歳以下の子供の場合はワクチンを2回うつのです。」
まだ免疫力の弱い小さな子供は2回うって、より免疫力を高めるということですね。
Q:お腹に赤ちゃんがいる妊婦さんはワクチンを打つわけにはいかないのでは?
池松先生:「妊婦さんの場合は、積極的にうつことをおすすめします。出産の時期にインフルエンザにかかると、重症化することがありますし、出産の危険を伴うことがあるからです。ワクチンの胎児への影響はほとんどありません。」

それでもインフルエンザにかかってしまうこともあります。
もしやインフルエンザでは?と、思ったら・・・
まずは、病院に行きましょう。
今はインフルエンザかどうか、簡単にわかる時代なのです。
診断には、喉の奥の粘膜を調べます。
綿棒で粘膜を取り出して、ウイルスを検出するための薬品に入れます。
もし、インフルエンザに感染していれば、この中からウイルスが見つかるというわけです。
次にこの液体をプレートの穴に落とします。10分から15分、待っていると・・・、
ウイルスに感染していなければ、窓のCのところにだけ線が出ます。
もし、感染していたら、A型のインフルエンザならCとAにB型のインフルエンザならCとBに、線が出ます。
Q:インフルエンザだということが分かったら、どのような薬を使うのでしょうか?
池松先生:「抗インフルエンザウイルス薬は3種類あります。いずれの薬においても、発症(なんらかの症状)が起こってから、48時間以内に使うと効果が大きいと言われています。」
薬には、御覧のようなものがありますが、いずれも発症から48時間以内に使うと有効です。
インフルエンザウイルスは、ヒトに感染すると、鼻や喉の細胞の中で増えていきます。
薬は、ウイルスを細胞の中に閉じ込め、他の細胞にうつってさらに増えるのを防ぐのです。
細胞の中に閉じ込められたウイルスはやがて死滅します。

Q:では、薬を48時間以内に使う理由は?
インフルエンザ発症後、48時間から72時間でウイルスが、鼻や喉の細胞の中で爆発的に増殖します。そうなる前に、薬でウイルスを細胞の中に閉じ込めれば、病気の期間が短くなり、重くなるのを抑えられるからです。

Q:では、インフルエンザにかかったと判断できる、症状とは?
身体の節々が痛い。全身がだるい。頭が激しく痛い・・といった全身症状に加え、突然38度から40度もの高熱が出ることがあげられます。こうした症状が出たら、1日様子を見よう≠ニ思わず、少しでも早く病院で調べましょう。

高熱でつらいときには、解熱剤を使って熱を下げることもあります。
Q:そのとき、注意することは?
池松先生「熱が出ることによって、食事ができない、苦痛がある、気分が落ち込む、などといったことは治癒を遅らせてしまう要因です。解熱剤を使って少し楽になって、自分で食事をする、そういったことが良いと思います。」

抵抗力の弱い高齢者が特に注意しなければならないことがあります。
池松先生:「熱が出ない(37度5分に達しない)インフルエンザが増えています。」

たとえ熱がなくても、身体の痛み、全身のだるさがあればインフルエンザを疑いましょう。
ぜひ、早めの治療をこころがけてください!!

鳥インフルエンザ


2003年、新たなウイルスの登場が世界中に脅威を与えました。
鳥インフルエンザ
肺炎など重い症状を引き起こし、命を奪うこともある凶悪なウイルス。
鳥インフルエンザとは、一体、どういうものなのでしょうか?
このウイルスも、他のインフルエンザウイルスと同じように元々、シベリアやアラスカに存在しており、水鳥たちによって、全世界へ運ばれました。
通常、水鳥たちは、このウイルスを運ぶだけでなぜか、自分たちは発症しません。
ところが、ごくまれに、このウイルスが突然変異を起こし、水鳥や鶏にインフルエンザを発症させていることが分かったのです。
この鳥インフルエンザウイルスに世界中の危機感が高まっているのです。
これまで、鳥インフルエンザは鳥からヒトには直接感染しないと考えられていました。
その頃は、鳥とヒトのウイルスが同時に豚に感染。豚の細胞の中で突然変異が起こって強力な新型ウイルスが生まれ、それがヒトに感染していました。
ところが、いまや、鳥インフルエンザウイルスは、鳥からヒトに直接感染し、命を奪うのです。
安井先生:「普通のインフルエンザウイルスは、肺炎を起こしませんが、鳥インフルエンザは、肺に感染し肺炎を起こしてしまいます。」
今のところ、ヒトからヒトに直接感染するウイルスは、まだ発見されていないということですが?
安井先生:「ヒト型インフルエンザのように、ヒトからヒトに感染するウイルスになる可能性があり、大変危険だと考えられています。」
ウイルスの突然変異!
新たな力を持つウイルスと人間の戦いは永遠に続くのかもしれません。
普段から手洗いやうがいを習慣付けるようにしなければいけませんね。
お年寄りには熱が出ないインフルエンザがあるとは知りませんでしたね。