週刊報道LIFE

ドナルド・キーン(日本文学者)

70年前、敗北したのは軍国主義者で、勝利したのは日本の民衆でした。戦争中に多くの人命や住まい、そして人びとの仕事の場が失われたことは痛ましく、簡単に忘れることはできないものです。けれども、人びとの不屈の意志と勤勉さによって、新しい日本が生まれたのです。


安いけれど壊れやすそうだと以前は馬鹿にされた日本製品が、品質の良さで海外に知られるようになりました。モノマネだといって長いこと見向きもされなかった日本文化は、世界の中でも特に独創性に富むものと認められるようになったのです。かつては富士山と芸者にしか向かなかった外国人の関心が、日本語にも向けられるようになりました。それまでは日本に住む外国人でさえめったに日本語を学ぼうとしなかったのに、いまでは世界中の大学で教えられています。日本人でなければ覚えられない言葉だとは、もう誰も思いません。

日本人の体格も変わりました。小さいとからかわれたものですが、いまでは若い人たちの身長はヨーロッパ人の平均と変わりません。天然資源に乏しい貧しい国だと、外国の教科書に書かれることもなくなりました。いまや、電気製品がいっぱいの、富める国なのです。国内では生計が立たないからと海外へ移民する話も聞かなくなりました。外国行きはほとんどが旅行です。


戦後の平和と民主主義のおかげで、日本人全体は、現在を日本の歴史の上でも最良の時代だと感じています。もちろん、時には病気や困窮が個々の人を苦しめます。しかし、たいていの日本人はこの国に暮らせて幸福だと信じていますし、どこか他の国へ行ったほうが幸せだろうなどとは思いません。


けれども、もし日本人がこの幸福を軽んじたらどうなるでしょう。経済的・政治的な目的を達するために、あるいは単に戦争の恐ろしさを知らぬゆえに、平和も民主主義も犠牲にして構わないという者たちによって、いかにたやすくその幸福は壊されてしまうか。もしも人びとがそれに気づいていないとしたら。

日本人の幸福を守るには、この国の最も古い呼び名のもつ意味を決して忘れないことです。そうです、「大和」。古来、この国の名は「大いなる平和」と書かれたのです。