2003年 6月21日の放送

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  本来、株と債券の価格は反対方向に動くものである。だからこそ投資家は両方の資産を持つことで、お互いがヘッジとして機能することを期待するのである。だが5月下旬から今月12日まで、この2つの資産価格は珍しくカップルを組み、仲良く一緒に上昇した。債券市場がデフレ懸念で悲観的になっているのに、株式市場は金利の低下を好感、楽観的になっていたのである。しかし今週に入り、このカップルは別々の道を歩むことを決意(?)、おかげで債券市場は大荒れとなってしまった。
  上は、米国の債券先物価格(10年)と株式指数(S&P)の6月の動き。13日まではお互いに上昇トレンドを辿っていたが、16日から一変し、特に債券が急落した。同様の動きは、ドイツやイギリスでも見られた。

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  このようなデカップリングを招いた経済指標のひとつが、NY連銀が16日に発表した6月の製造業景気指数。これは、NY州の製造業者を対象にした景気信頼感調査(日銀短観みたいなもの。プラスが大きいほど前月より改善したことを示す)であるが、総合景気指数は26.8と前月の10.6から大きく上昇、2001年の統計開始以来で最大となった。このようなローカルな景気指標が世界の債券市場を震撼させるというのも、なにか滑稽な感じがするが、それだけ債券買いがグローバルに過熱し、景気改善を示すような材料に敏感になっていたということか。
  項目別に見ると、新規受注・出荷ともに前月から拡大しているが、価格項目がおもしろい。 支払価格(Prices Paid)と受取価格(Prices Received)の双方ともマイナスとなっており、価格は下落傾向にあることがわかる。特に受取価格のインデックスは5月がマイナス12.90、6月はマイナス13.90である。景況感の改善が企業収益に結びつくかどうかは、まだ未知数なのだ。

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  もちろん、日本でもデカップリングが起きた。とりわけ、債券市場には激震が走り、価格が急落した(金利は急騰)。上は日経平均株価と10年物国債先物価格の推移。10年債の現物はわずか数日前には0.45%程度で取引きされていたが、19日には一時0.70%を超えるレベルにまで跳ね上がった。
  今回の動きを持って、国債が大天井を打ったかどうかはまだわからない。デフレ懸念は依然として根強いし、国債以外に行き場のないカネがまだ多いことも事実だ。しかし金利はどうあってもゼロ%以下になることはない。人類史上、過去最低の金利を更新しつづけてきた日本国債も、中期的に見れば、大天井圏を形成しつつあると言えるのかもしれない。

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  このようなデカップリングは、金融機関にどのような影響を与えるのだろうか。少々債券価格が下がっても株価が上がれば、全体としてはそれで良いのだろうが、一方で、この3年間ずい分と国債を買い込んでしまったのも事実である。
  上の緑の棒グラフは、全国銀行の保有する国債残高推移(02年度は中間決算期まで)。残高は2000年度から急増、02年度では77兆円を突破し、過去最高である。しかし金利低下のおかげで随分と銀行収益に貢献している。オレンジの折れ線は国債の5勘定尻の推移。5勘定尻とは、債券の売却損益と償還損益に償却損(時価評価損)を足し引きしたネット金額のこと。最近3年間では平均4000億円程度の利益が出ており、銀行の貴重な収益源となっている。あまりデカップリングが進むと、金融機関は新たな火種を抱えることになりそうだ。

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  13日(金)の海外市場は117円台の推移。米消費者信頼感指数が予想を下回ったため、ドル売りがやや強まり、117円45銭で越週した。16日(月)の東京市場は117円32銭でオープン後、117円台での小動きが続いた。海外も動意なく、117円70銭で引けた。17日(火)の東京市場は117円68銭で取引開始。その後はレンジ取引が続いた。海外では、仏銀によるドル買い円売りの動きにドルは118円台に上昇して引けた。
  18日(水)の東京市場は118円22銭で寄付いたが、その後は動意薄い展開。海外では、やや円高が進み、117円85銭で引けた。19日(木)の東京市場は118円18銭でオープンしたが、日本国債の価格急落を受け円売りが先行し、ドルは118円台後半へ上伸した。海外では、外銀のドル買いに一時119円台をつけるも続かず、結局118円30銭で引けた。20日(金)の東京市場は118円台前半でのもみ合いとなっている。
  ドル円は相変わらず動意の薄い展開が続いている。財務省の過去に例を見ない大口の円売り介入の割りには、ドルの頭が重いが、円高地合いでは介入が予想されるため、市場は積極的なドル売りを控え様子見を決め込んでいる。しばらくは上記レンジ内のなか、ドルの当面の上値をトライする動きか。
  G-SECインデックス速報は92.3となり、過去最高水準。相当円安センチメントが強い。強力な介入を受け、ドルはじり高をたどるとの見方が強くなってきている。