2003年 5月31日の放送

< 1 >

  今週は株が堅調であった。4月28日に7603円まで下落した日経平均はその後反転、この一ヶ月間で800円以上の上げを演じている。日銀が金融緩和策を講じたこと、政府が株価対策を発表したことなどをきっかけに、輸出株や金融株が買い戻された。財務省の覆面介入により円高が阻止されていることも、株価の押し上げ材料になっている。
  17日にりそなホールディングスが公的資金を申請するとの報道が出たが、市場は今のところ、他の金融機関への影響は限定的と見ているようだ。

< 2 >

  一般に株価は景気の先行きを示すと言われる。では、今回の株価上昇は良いシグナルということだろうか。上のグラフは、在日外国企業に行われた景況アンケート(在日外国商工会議所連絡会が4月に実施)。欧米を中心に2200の外国関連企業に送られ、476の有効回答を得ている。黄色の棒グラフは、今後6ヶ月の日本経済予測についてアンケートしたもので、棒グラフの『改善』とは、経済が「かなり良くなる」(0%)と「いくぶん良くなる」(12%)の合計を示したもの(計12%)。『不変』は「変わらない」と回答した企業の割合を、『悪化』は「やや悪くなる」(38%)と「かなり悪くなる」(3%)との合計を示している。
  やはり日本の景気の先行きについては、警戒感が根強い。アンケートを実施した4月は株価が下落している過程にあったとは言え、『不変』と『悪化』を足すと9割近くに及んでいる。しかしもう少し長期に広げると、彼らの見方も変わってくる。グラフには示していないが、アンケートには「今後12ヶ月の日本経済」についてヒアリングしている項目もあり、そこでは、『改善』が3分の1に増える。そのような楽観的な見方は、日本でのビジネス戦略にも現れている。業務の縮小を考慮している企業は3%ほどしかなく、長期的にはまだ日本経済に自信を持っているようだ。

< 3 >

  やはり、今後の鍵は個人消費の動向であろう。米国は住宅価格の上昇による資産効果が消費を下支えしているが、日本の方は一段と厳しくなりつつある。上のグラフは、厚生労働省が発表した『平成14年 国民生活基礎調査の概況』のうち、年収の推移と伸び率を示したものだ。これまでも何度か述べてきたが、日本経済は97、98年の金融危機以降、本当に大きな転機を迎えたとつくづく思う。この時期を境に、金融機関は国債の購入を急増させ、貸出しを減らし、デフレの時代に本格的に備えたのである。企業の借入金返済が積極化したのもこの頃だ。
  企業は90年代前半は雇用を守りつつ、含み益の吐き出しなどで景気の回復を待ったが、後半からは雇用削減を含めたリストラに着手し始めた。その結果、一世帯あたりの平均所得は99年から大きく凹み始め、94年の664万円をピークに現在(2001年)は602万円へ減少している。まだまだ下がりそうな勢いである。

< 4 >

  この点に関して、もうひとつ気になる点は全ての階層で所得が減少してきている点だ。厚生労働省の調査は、平均所得額を五分位に分け、最も低い第1階級を225万円以下、第2階級を225~396万円、第3階級を396~593万円、第4階級を593~896万円、第5階級を896万円以上としている。
  上のグラフは、このうち第1階級・第3階級・第5階級に属する人々の92年当初の所得が以降どう推移したかを指数化してみたもの。いずれも98年以降下落傾向を強めており、もうしばらくは低下傾向が続きそうである。所得のある人もない人も、ますます貧乏になりそうだ。

< 5 >

  23日(金)の海外市場は、117円台前半で取引開始後、中東勢によるユーロ買いドル売りの動きに円も連れ高となり、116円85銭の円高地合いで引けた。
  26日(月)の東京市場は116円90銭前後での静かな取引が続いた。海外市場は休場。27日(火)の東京市場は116円85銭で取引開始したが、117円近辺でのレンジ取引が続いた。海外では一時投機筋のドル売りに116円20銭までドルは下落したが、その後は介入警戒感から急速に値を戻し、結局117円30銭で引けた。
  28日(水)の東京市場は117円26銭でオープン、その後は117円台前半でのもみ合いながらドル堅調な地合いが続いた。海外に入ると、米国勢を中心に断続的にドル買いが入り、一時119円近くまでドルは値を上げた。引けは118円65銭。
  29日(木)の東京市場は118円台半ばで寄付き後、米国の有力情報会社が大手邦銀に対し悲観的な見方を披露したことから円売りが進み、119円台へドルは上昇した。しかし海外に入ると、輸出筋のドル売りや、対ユーロで大きくドルが売られたことから円高が進み、117円95銭まで下落して引けた。30日(金)の東京市場は、118円台前半でのもみ合いとなっている。
  財務省の強力なドル買いに加え、米国は日本の介入を黙認しているとの憶測も高まり、ドルは対円で値を大きく戻した。当面はレンジ相場が続きそうだが、為替の主役はユーロであり、ユーロの動きが円に影響を及ぼしそうだ。
  G-SECインデックス速報は61.4と中立である50を上回り、ドル高予想が増えてきている。当局の強力なドル買いに、ついに市場参加者も敬意を表し始めた?