2002年 9月7日の放送

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  今週最大の経済トピックと言えば、やはり株価下落であろう。4日、日経平均株価は一時的とはいえ9000円割れを示現、じつに1983年8月以来の水準にまで戻ってしまった。83年当時、実質GDP(95年基準)はわずか339兆円で現在の6割程度しかなく、1ドルは240円前後であった。
  バブル崩壊後、政府は数々の景気対策を打ち出してきた。「総合経済対策」・「緊急経済対策」など総額100兆円を超える財政政策を実施、呼応するかのように日銀も6%あった公定歩合を0.1%まで引き下げた。金利政策が限界までたどりつくと、新たに量的緩和策に踏み切った。さらに、公的年金を利用した株価買支え(PKO)に加え、2月には空売り規制まで踏み切って株価下落を回避しようとした。しかし、結局支えきれずに落ちてしまっている。財政政策、金融政策も限界までやり尽くした感があり、今後は構造改革の推進により潜在成長力を高めるしか手はなさそうだ。しかし、構造改革は一朝一夕にできるものではなく、株価の本格反騰にはまだまだ時間がかかる可能性が高い。

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  株価が今後も低迷を続ける可能性が高い理由は他にもある。それは、最近の金融情勢の変化である。3日、銀行の貸出約定平均金利が発表された。上のグラフは国内銀行が新規に約定した貸出金利の最近の推移(短期と長期を合わせた総合。データ:日銀)。7月の貸出金利は1.734%となり、前月から0.128%ポイントの上昇となった。この金利は2001年9月に1.478%まで低下したが、このところ上昇基調をたどっており、今後も上がる可能性が高い。
  国内銀行の総貸出残高は全体で435兆円あり、7月分の上げ幅(0.128%)は一ヶ月間で464億円の金利収入アップにつながる。収益の改善が喫緊の課題となっている銀行にとって、貸出金利の引き上げは急務であり、今後も行内格付けに基づいて企業を選別し、リスクの高い企業には高金利を適用するように行動するだろう。
  だが、借り手側から見ると、これは金融引締めと同じである。資金調達コストの上昇は企業価値を下げるので、株価にはマイナスに働くことになる。

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  また、貸出量も減少の一途を辿っている。上のグラフのオレンジの線は、1981年以降の銀行貸出残高の前年比伸び率推移(四半期毎、データ:日銀)。90年代半ば以降、伸び率はマイナスに転じている。国内銀行の貸出残高は97年末に513兆円でピークを打ち、今年6月末は435兆円にまで減った。これは92年当時の残高にほぼ等しいが、今後もさらに減るだろう。
  このような銀行行動は、景気サイクルのトレンドを増幅する要因となる。上の青い棒グラフは、名目GDP金額の前年同期比伸び率の推移(データ:内閣府)。80年代(81年第一四半期~89年第四四半期)、名目GDPの前年同期比伸び率は平均で6.2%であったが、同期間の銀行貸出の平均伸び率は9.1%もあり、名目GDPのそれを大きく上回った。景気が良くなると人は楽観的になり、財布の紐が緩くなる。銀行も同じで、景気の実勢を上回る勢いで貸し込んだことが、必要以上に景気を上昇させてしまったことがわかる。
  しかし90年代半ばに入り、今度は景気が長期低迷する可能性が高まると、銀行貸出は前年比マイナスに転じた。そのマイナス幅は徐々に大きくなっている。今年第2四半期のケースでは、名目GDPは前年比マイナス1.6%にとどまったが、銀行貸出はマイナス4.6%に達した。現在は80年代と逆の事象が起きており、銀行の貸出抑制が必要以上に景気を落ち込ませるリスクが高まっていると言えよう。  このような現象は日本だけでなく、欧米でも見られる現象であり、銀行の貸出行動が景気サイクルを助長する一因となっている。これも株価の本格反騰を難しくする要因と言えよう。(参考文献:Banque de France論文: “The Financial Cycle” )

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  8月30日(金)の海外市場は、118円台での動きが中心となった。ドル売りがやや優勢の展開だったが、米シカゴ景況指数が予想を上回る数値となったため、ドルの買い戻しが活発となり、118円40銭で越週した。2日(月)は118円47銭でオープン。朝方、日経平均が9500円を割り込んで下落したことからドル買いが進み、一時118円台後半までドルは上伸した。その後は実需筋の売りに押され、118円台半ばまで戻す展開となった。海外はNY市場が休場のため、薄商いとなるなか、ドルは118円前半までじり安となった。3日(火)の東京市場は117円台後半で寄付き後、同レベルでのもみ合いが続いた。日経平均株価はバブル後最安値を更新するも、反応薄。海外では、米ISM景況指数が予想より弱かったためドル売り強まり、117円台前半での引けとなった。4日(水)は117円12銭でオープン。この日は日経平均が大幅続落し一時9000円を下回ったため、特に対ユーロでの円売りが進み、ドルはじり高となった。海外でも、NYダウが堅調に推移したこともあり、ドルは続伸。118円ちょうどで引けた。5日(木)は118近辺で寄付き後、日経平均が反発したことや輸出企業のドル売りに一時117円台半ばまでドルは下落した。海外に入ると、米系金融機関の大口のドル買いを受け、ドルは反発に転じ、118円台前半まで買われて引けた。6日(金)の東京市場は、118円台前半でのもみ合いとなっている。
  世界的な株式下落を受け、債券市場は大相場となっているが、為替は落ち着いた動きが続いている。グローバリゼーションの浸透により、世界経済同時不況のリスクが高いことから、ユーロ・ドル・円のいずれも買いにくい状況となっている。目先、ドル円は120円近辺では輸出企業によるドル売り、115円近辺では当局によるドル買い介入を警戒し、動きにくい展開が続こう。
  G-SECドル円指数は50ちょうどとなり、市場の見方はまったくの中立状態だが、全体の意見としては、「来週はナイン・イレブンを迎える(同時テロ事件からちょうど1年)ため、新たなテロ勃発を警戒して、週前半はドルはやや頭の重い展開となろうが、その後は持ち直す」との見方が多かった。