2002年 8月31日の放送

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  米株の下落はようやく一服した感もあるが、経済は今後回復軌道に無事戻るのであろうか。2番底(Double Dip)をつけに行くとの観測がある一方、順調に2.5%から3%の成長に戻るという楽観な見方もあり、意見は定まっていない。

  それにしてもあらためて驚くのは、最近2年間に減少した株式時価総額の大きさである。上のグラフはSP500インデックスの株価時価総額推移(Data:Bloomberg)。97年初は5兆7千億ドルだったが、株価高騰により2000年8月には13兆2千億ドルにまで増加した。2000年の名目GDPは9兆8千億ドルだったから、GDP比で134%まで膨らんだことになる(ちなみに日本の場合、バブルピークの1989年に株式時価総額は630兆円に達し、当時の名目GDPの150%まで達した)。S&P500の株価はその後の景気鈍化を受け、今年7月末には8兆3千億ドルへ減少した。富の損失は約5兆ドル(120円換算で約600兆円)に達している。これは実体経済にどう影響を及ぼして行くのだろうか。いずれ米経済が立ち直るにせよ、回復までの道のりは長そうだ。

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  株式バブル崩壊に伴う景気後退で、今後注目されるのが銀行の貸出状況であろう。貸出は法人向けと個人向けに大きく2つに分けられるが、上は米国の銀行の住宅ローン取組みに対する姿勢の変化を示したもの(Data:FRB)。「過去3ヶ月において、個人住宅ローンへの貸出基準はどう変わったか」という質問に対し、「引締めた」という回答(%)から「緩和した」(%)という回答を引いたものである。プラスが多ければ、それだけ貸出を引締めに転じた銀行の割合が増えていることを示す。

  この調査から見ると、やや“引締め派”が増えつつあるとはいえ、90年代はじめに比べれば依然非常に低い水準にとどまっており、住宅ローン市場へは潤沢な資金供給が続いていることがわかる。グリーンスパンFRB議長は不動産市場がバブルであることを否定しているようだが、GDPの約7割は個人消費に支えられており、その消費は莫大な資産効果が源泉になっている。今後も銀行の貸出し姿勢は注目されて行くことになろう。

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  また南米の経済情勢も引き続き要注意だ。今月4日に米政府はウルグアイへ15億ドルの繋ぎ融資を決定、7日にはIMFがブラジルへ300億ドルの融資に合意したことで、いったん南米事情は落ち着いたかに見える。しかしブラジルの大統領選が終わるまでは、まだ余震が続きそうだ。大統領選は第1回投票が10月6日、第2回投票が10月26日にあり、第1回の上位2人で決戦投票になる。現職のカルドソ大統領は憲法の規定で今回は退くことになっているが、後任者への支持率が低く、決戦投票へすら進めない可能性が出てきている。その場合、カルドソ大統領の緊縮政策は継続されず、財政規律が崩れるのは必至との見方が強まっており、10月までは市場もブラジルに神経質になろう。

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  いよいよ財務省が個人向け国債セールスを強化する。財務省筋によると、最低購入金額も下がり、多くの金融機関で購入が可能になる予定だ。銀行が信頼を失い、株価が低迷を続けるなか、この商品は相当売れるのではなかろうか。第一に、ペイオフ解禁を来年4月に控え、人々は何よりも安全な資金運用先を捜し求めている。ペイオフは実質しり抜けになりそうな可能性大だが、それでも一般の個人投資家は“お国の威光”を放つ国債を何より信用するだろう。お金が郵便貯金からなかなか動かないのもその一例だ。機関投資家でさえ、国債以外に安全な資金逃避先はないと考える傾向が最近強まっている。第二に、金利リスクをはずしている。

  “国債暴落”とか“日本破産”とかいった題材を取り扱う書物は多く、一部の人々は、将来日本がインフレに見舞われ、国債が紙クズになることを心配している。その懸念を排除すべく、財務省は変動金利仕立てにする予定だ。厳密には6ヶ月間は固定金利だが、個人投資家から見れば大した問題ではなかろう。6ヶ月毎にそのときの経済情勢に応じて、金利が更改されるのは魅力だ。第三に、利息収入分が非課税になりそうなことだ。これだけ材料がそろえば、1兆円の販売も可能かもしれない。

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  2003年度は個人向けに1兆円以上発行すると言っても、国債全体のシェアから見るとまだまだ小さい。上のグラフは、普通国債の月別発行残高推移(data:日銀)。一ヶ月だけで、毎回12兆円前後が発行されている。このうち、短期国債分が約3兆5千億円あるが、それを除いても約8兆5千億円は毎月誰かに購入してもらわねばならない。現在個人投資家のシェアは5%前後となっているので、これを米国並み(個人シェアは1割強)に引き上げるには、1年どころか1ヶ月で1兆円近くを個人向けに売らねばならない(8.5 x 0.1 = 0.85)。個人向け販売はまだ端緒に着いたばかりだ。