2002年 5月18日の放送

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  政府が景気の底打ち宣言をする、との見方が出てきている。5月の月例経済報告の関係閣僚会議で、景気の基調判断を3カ月連続で上方修正する見通しとなっている。各種景況判断指数が改善の度合いを強めていることに加え、生産や輸出に増加の兆しが出てきたことや、卸売物価が下げ止まっていることなどが背景にあるようだ。
  上のグラフは、内閣府が発表している景気動向指数のうちの先行指数の推移。直近3月の指数は80まで跳ね上がり(50が景気判断の別れ目)、1月から3ヶ月連続で50を上回った。指数は個別の景気指標を3ヶ月前のものと比較して決定されるが、3月は新規求人数と消費者態度指数がそれぞれ約10ヶ月ぶりに改善したことが、指数を一段上へ押し上げた。景気動向指数のうち、一致指数も3月は56.3と改善、前月の40から16.3ポイント上昇した。

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  生産の方はどうか。上のグラフは鉱工業生産指数(季節調整済み)の推移。90年以降、過去2回底打ちしている推移が読み取れるが、1回目の底は94年1月の92.6であり、2回目のそれは98年12月の96.2である。今回は昨年11月につけた90.4からの底打ちが期待されているが、90.4という数字は87年11月(90.0)以来の低水準であり、さすがにここまで下がれば多少のリバウンドも期待できよう。今後は、回復の強さがどの程度かという点が注目されるだろうが、最近2回のピークは、97年7月の107.7と2000年8月の108.3である。

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  しかし、景気回復の鍵のひとつを握る、個人消費の先行きは依然不透明だ。上のグラフは、16日に厚生労働省が発表した、所定内給与(基本給)の年度別賃金指数推移(2000年平均=100)。2001年度の指数は99.3となり、前年度比マイナス0.6%を記録した。基本給の前年比マイナスは前例がなく、企業のリストラは中高年を中心に一段と厳しさを増している。
  政府がもうひとつ景気の先行きに強気になれないのも、このような要因が影響していると言えよう。

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  また企業の倒産件数も、高水準で推移している。東京商工リサーチが、16日に発表した企業倒産状況によると、4月に負債額1000万円以上で倒産した企業件数は、前年同月比プラス2.2%の1611件で、4月としては戦後3番目の高水準だったという。
  倒産件数の増加は失業者の増加につながる。確かに景気動向指数や生産指数など、一部の経済指標は改善を示しているが、経済全体の回復度合いは一時的なものに終わる可能性も残っている。

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  10日(金)は128円台半ばで取引開始後、ムーディーズによる国債格下げ発表が本日にもあるとの噂から、ドルは一時128円73銭まで買われたが、その後は輸出筋のドル売りに押された。海外では、格下げの発表がなかったことや、塩川財務相が「為替は人為的に操作してはいけない」と発言したことから、円買いが進み、結局127円台半ばでの引けとなった。13日(月)の東京市場は127円台半ば前後での小動き。海外では、米株高を受けドルがやや買い戻され、127円台後半で引けた。14日(火)の東京市場は127円台後半での小動きが続いた。海外では、米小売売上高が予想を大幅に上回ったことから、ドル買いが優勢となり、128円半ばでの引けとなった。15日(水)は128円半ばでオープンするも、日本の3月の経常黒字額が前年比で大幅増となったことを受け、ドルは128円近辺へ下落。海外でも、米鉱工業生産が予想より弱かったことや米株が軟調だったことを受け、ドルは127円60銭まで続落して引けた。16日(木)の東京市場は127円台半ば近辺での小動きが続いた。海外では米経済指標が予想より悪かったため、一時127円32銭までドルは売られたが、その後はドル買いが優勢となり、結局128円05銭までドルは上昇して引けた。
 17日(金)の東京市場は128円台でオープンしたものの、海外で発表予定の米貿易収支の金額を警戒してドルは軟化、127円台半ばでの取引が続いている。
  ドル円はレンジ内の動きがもうしばらく続きそうだが、徐々にドルの頭が重くなってきている。市場は、米景気の先行きについての警戒感を緩めておらず、また中東情勢も依然不透明なままだ。日本については、ムーディーズの格下げ決定がいつアナウンスされるかが懸念材料だが、株価や債券は今のところ堅調に推移しており、大きな円売りが起きることは見込みにくい。目先は、上記レンジの下値(円高サイド)を試す可能性が高い。
  G-SECドル円指数(17日、速報値)は30.8となっており、久しぶりに50を下回った。これまではドル高円安を見込む向きが多かったが、現在は逆にドル安円高を予想する市場参加者が増えている。