2002年 4月20日放送 マーケット・ナビのポイント

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  日本国債が再び格下げとなった。米格付け会社のS&Pは15日、小泉政権による構造改革の遅れなどを理由に、日本政府の長期債務格付けを「AA」から1段階引き下げ、「AAマイナス」とすると発表した。格付けの見通しは「ネガティブ」を維持した。
  上のグラフは、ムーディーズとS&P各社の日本国債の格付け推移(格付けの目盛りは、S&P方式のもの)。ムーディーズは98年11月から早々と格下げに動き、昨年12月にダブルAマイナス相当まで落とした。S&Pの格付けは、それを後追いしている形となっている。ムーディーズは本年2月に、「さらに格下げ方向で見直す」と述べており、日本国債のシングルA入りは時間の問題となっている。S&Pの方も、引き続き見通しをネガティブにしているため、いずれムーディーズに追随する可能性が高い。

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  このように格下げに歯止めがかからない最大の理由は、日本の財政悪化にある。上は、年度別の名目GDPに対する国債残高シェア(資料:財務省、日銀。01年度以降は、見込みの数字)。この10年を振り返ると、91年度に36.2%まで低下した国債残高シェアは徐々に上昇に転じ、今後ますます上昇ピッチを早める見込みだ。今年度(02年)末には、99.2%にまで上昇する見込み(01年度以降は、財政融資資金特別会計国債も含む)で、よほど経済が急回復に向かわない限り、一段の悪化は避けられない情勢となっている。

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  S&Pは格下げの理由として、(1)日本の一般財政赤字が今後数年間はGDP比8%のレンジで推移する見込みであり、足元の低成長を考えると、財政の健全性維持に疑問が残ること、(2)4月12日に発表された金融庁の特別検査結果は、期待を裏切る内容であり、その範囲と救済に向けた提案は限定的だったこと(不良債権の引当基準も不適切としている)、(3)現政権が近い将来、年金と健康保険の受給を縮小したり、農業・小売などの規制部門を開放する可能性は低いこと、などを挙げている。
  特別検査や規制緩和の問題、現政権の政策運営能力まで触れるという事は、S&Pは純粋に国の財政事情だけでなく、総合的な要因を見て判断していることを示唆している。

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  このような米国の格付け機関の判断に対し、政府関係者のコメントは様々だ。

黒田財務官:「どうしてそういう格付けなのか、どうして引き下げられたのか全く理解できない。根拠や基準が不透明。」
竹中経財相:「不良債権問題や財政規律問題など、日本経済のリスクファクターを指摘している。」
塩川財務相:「勝手な評価をしているが、無視するのではなく、日本への示唆と受けとめる。」
福田官房長官:「日本経済の実態を反映していない」

  財務省としては、以下の点が不満のようだ。
  第一に、自国通貨建てのソブリン債のデフォルトとはどういうことか、説明がない点。通常は、通貨発行権を有するので、純粋な意味での債務不履行というものはない。第二に、財政指標以外の要素がどれだけ考慮されているか不明確、という点。日本の持つ産業競争力やコンピューター普及率など、経済のファンダメンタルズ全体がどれほど評価されているか、その説明が不十分というもの。第三に、将来の政府の資金繰りがどう評価されているのか、不明確である点だ。日本政府の当面のグロスの資金ニーズは対GDP比でみて、イタリアやベルギーと遜色なく、短期のリスクは強調されすぎている、との見解もある。第四に、自国通貨建てよりも外貨建ての格付けの方が高いとする場合(ムーディーズのケース)、その論拠が不明というものである。

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  MOFが強く反発する背景のひとつとして、他の類似国と日本の経済ファンダメンタルズがあまりにもかけ離れている点が挙げられる。日本は現在ダブルAマイナスだが、見通しはネガティブであり、いずれシングルAに再格下げされる可能性は極めて大きい。現に、ムーディーズは既にその作業に入っている。シングルAにはどんな国があるのだろうか。
  今年の3月28日付の格付けを見ると、ムーディーズとS&PでシングルAプラス相当の国には、エストニア・チェコ・チリ・韓国・ポーランドなど11カ国ある。そのなかの一つに、アフリカにあるボツワナがあったので、その経済指標の一部を日本と比べてみたのが上の表である(資料:日銀、財務省、外務省、ボツワナ政府、World Factbook。データはGDPと経常収支が2000年度、外貨準備高が2001年9月、幼児死亡率が2001年推定、主要援助国は97年もの)。
  ボツワナのGDPは日本の1000分の1以下、経常収支は同100分の1以下、外貨準備高は50分の1以下、そして幼児死亡率は逆に日本の9倍である。もちろん、自動車の生産台数や国際競争力を持つ企業の数だって、ずいぶん違うだろう。日本の財政事情は確かに悪化しつつあるかも知れないが、本当にボツワナや他の中進国と日本を同レベルとして見れるのか、という疑問は残るかも知れない。

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  15日(月)は132円近辺でオープン。黒田財務官が「日本経済より米経済のほうが早く回復しており、円高になる必然性は無い」と述べたことから、ドル買いが優勢となり、132円40銭近くまでドルは上昇した。しかしその後は実需を中心としたドル売りが強まり、131円後半まで急落する展開となった。海外では、S&Pによる日本国債格下げの報道に、ドルは132円前半まで反発、結局132円05銭での引けた。16日(火)の東京市場は国債格下げの影響はほとんどなく、市場では既に折込み済みとの見方が大勢を占めた。132円13銭で取引開始後、終日ドルの頭の重い展開となり、131円台半ばでの引けとなった。海外では、グリーンスパンFRB議長が辞任するとの噂にドル売りが加速、131円20銭までドルは続落して引けた。17日(水)も131円台前半で寄付き後、ドルの頭の重い展開が続いた。機関投資家による外債投資は、期初に予想されたほど出ていない模様。海外でも、日経平均が堅調に推移したことや、発表された2月の米貿易赤字が予想を上回ったことなどを受け、ドル売りが優勢となり、結局130円65銭での引けとなった。18日(木)は130円台半ばを中心に値動きの乏しい展開となった。黒田財務官から「円が強くなる必然性は無い」との発言あったが、市場の反応は薄かった。海外では、徐々にドルの頭が重くなってきたところに、「ミラノの高層ビルに小型飛行機が衝突」との報道が入り、ドル売りが殺到、一時129円57銭までドルは急落した。その後はドル買い戻され、130円ちょうどでの引けとなった。19日(金)の東京市場は、130円近辺での神経質なもみ合いが続いている。
  先週は久しぶりに130円を割ったことで、今後のドル円の動向が注目されてきている。米国の新規失業保険申請件数が予想を上回ったことなどで、米景気回復がそれほど強いものではないとの憶測が強まったことや、ミラノの事件で改めて「有事のドル売り」が確認されたことなどが、ドルの頭を重くしていると言えよう。しかし、日本サイドにも政局の混乱や遅れる構造改革、もたつく景気回復など、好材料はなく大幅な円高も見込みにくいことから、逆にドル買いの好機と見る向きもあるようだ。
  G-SECドル円指数(19日、速報値)は60.7(前回確定値比プラス10.7ポイント)と大きく上昇した。ドルの反発を見込む参加者が増えている。