2002年 2月16日放送 マーケット・ナビのポイント

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ブッシュ米大統領の訪日を控え、政府のデフレ対策論議が活発化している。小泉首相は13日、総合的なデフレ対策を月内に取りまとめるよう正式に指示した。最大の焦点は、公的資金の再注入と新たな手法による金融緩和措置が取られるかどうかである。インフレターゲットの採用も議論されよう。与党内では積極財政への転換も要求も出ているという。対策の概要は今週内に取りまとめ、18日の日米首脳会談でブッシュ大統領に説明される。

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デフレ対策の最大の焦点のひとつが、不良債権処理のための銀行への公的資金再注入である。小泉首相は再注入について前向きな姿勢を見せているものの、柳沢金融担当相は12日、「(銀行の株主らに対する)財産権侵害の問題があり、自由主義経済の下では考えられない」と否定している。金融危機対応については、15兆円の金融危機対応勘定の発動要件を定めている預金保険法がベースになるが、現段階でこれを発動するのは難しい。また、たとえ公的資金の再注入が実施されたとしても、不良債権を徹底的に処理する結果として行われるのでなければ、市場から評価を得られないだろう。単なる再注入では、株価は今後もずるずると下がり続けるだけだ。

上のグラフは今年1月4日以降のTOPIX時価総額推移。年初300兆円を超える水準にあったものの、2月6日には270兆円を下回るレベルまで低下した。原因のひとつは、1月中旬のダイエー処理。市場は不良債権の抜本処理(=債務者の淘汰)を視野に入れていた為、今回の対応は問題の先送りであり銀行の財務悪化を招くと判断、金融株の下落につながった。

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もうひとつの焦点が、さらなる金融緩和である。竹中経済財政相は12日、不良債権問題の解決加速と金融政策がひとつのパケージとして重要である、と述べた。政府は今後、一層の金融緩和に踏み切るよう日銀に要請して行くつもりなのである。しかし、すでに大量の資金を供給しているのに、さらなる量的緩和は景気浮揚策として有効なのであろうか。

速水日銀総裁の回答は否である。13日の記者会見によると、総裁はさらなる金融緩和の効果について懐疑的である。前回のマーケットナビでベースマネーが大幅に増加しているにもかかわらず、銀行貸出が減少していることを示したが、速水総裁はこの点に関し、「貸出につなげるのはまさに政策であり、構造改革をやれば民間の需要は必ず出る」と述べ、金融政策の範疇外の問題だ、との認識を示した。また、インフレターゲットについても、「成長なくして物価は上がらない。先に物価を上げて、実体経済があとからついてくることはまずあり得ない」と述べている。日銀の量的緩和はもう十分行われている。これ以上緩和しても日銀資産の劣化などの副作用を招くリスクが高まり、弊害の方が大きくなるとは言えないだろうか。

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最近10年間の日銀資産規模の推移を見てみる。92年末には48兆円だったものが2001年末には117兆5千億円まで増え、70兆円近い増額となっている。その背景には国債保有残高の増加がある。92年末には23兆円(総資産に対するシェアは49%)だったが、2001年末には75兆円を超える(同シェア64%)水準にまで膨らんでいる。一方で日本国債は98年以降格下げが続いているため、質の悪化している債券への投資を増やすことに対して、しばしば批判がなされてきた。日銀株(日銀の出資証券)の価格を見ても、89年には一時70万円を超えていたが、現在は60000円レベルとピーク時から10分の1以下まで下落している。その一因として資産劣化への懸念があることは否めない。

しかし、米大統領経済諮問委員会(CEA)の委員などは、「“酒でもケチャップでも”買って流動性を供給すべし」と主張し、政府も同様の考えを示し始めている。資産劣化の問題はこれからますます注目されて行くことになろう。

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11日(月)はドル売り優勢の展開となった。前週末はG7を前に米国がドル高政策を維持するとの発言があるかも知れないとの思惑から、ドル強含みで推移したものの、 結局G7では現状維持のスタンスにとどまったことから、ドル売りが先行した。朝方のアジア市場では135円近い水準でドルは推移していたが、結局133円半ばまで下落して引けた。

12日(火)のアジア市場は133円半ばで小動き。海外では、FBIが対米テロの可能性を警告したことなどを嫌気しドルは軟化、132円半ばで引けた。

13日(水)は132円半ばでオープン後、S&P関係者が「日本国債格下げについて、通常より早く動くこともありうる」と発言したことなどから、133円台までドルは上昇した。その後、ブッシュ米大統領の訪日を控え日本のデフレ対策がとりまとめられるのではないかとの思惑や、リパトリエーションのドル売りなどから132円台に急落した。しかしNY市場に入ると、米小売売上高が良好だったことから再度133円台へ上伸し、荒れた展開となった。

14日(木)は小泉首相がデフレ対応策を検討指示したことを好感し国内株式が続伸したことや、リパトリのドル売りに132円前半まで下落した。その後やや戻したものの、海外でも本邦勢のドル売りを警戒した動きが続き、132円前半で引けた。

15日(金)の東京市場は、132円台の取引が中心。柳沢金融相が公的資金注入に否定的な見解を示したことから一時133円台にのせる局面もあったが続かず、132円後半で取引されている。

今週のドル円は大きく上下したが、週初に135円をブレイクできなかったことで、徐々にドルの頭は重いと見る向きが増えている。以前から警戒されていたリパトリのドル売りが活発化してきたことや、日米首脳会談で日本が腰の入ったデフレ対策を打ち出すとの期待も円買いの材料となっている。しかし、日本のファンダメンタルズ改善にはまだまだ時間が必要であり、130円を下回るドル安円高は見込みにくい。G-SECドル円指数(15日、速報値)は45.5と前週比12.2ポイントの大幅下落。短期的に一段の円高があると予測する市場参加者が増えている。