榊原・嶌のグローバルナビ


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第409回 2008年11月15日 放送

10月の半ば、長野県の桔梗ヶ原が、実りの秋を迎えました。赤ワイン用のぶどうが実を熟し、収穫の時を迎えたのです。この桔梗ヶ原から、世界でも高く評価される高級ワイン「シャトーメルシャン・桔梗ヶ原メルロー」が生まれます。「桔梗ヶ原メルロー」はメルローという欧州品種から作られるワインで、ヨーロッパの国際コンクールで数々の賞を受賞するほど、品質の高さが世界に認められている日本を代表するワインです。

しかし、高い品質のワインを作り上げるのは簡単なことではありません。メルシャンは高級ワインを造るために1976年に当時日本では珍しかったメルローの栽培を始めました。桔梗ヶ原は雨が少なくぶどうの栽培に適していますが、真冬はマイナス10度以下になる日が続きます。そこで、寒さに弱いメルローを育てるために樹にわらを巻いて防寒対策を行うなどの試行錯誤を繰り返し、良いぶどうを丹念に育ててきました。こうした努力が実を結び、栽培から9年後、1985年に出来たワインが「リュブリアーナ国際ワインコンクール」で最も優秀なワインに与えられる大金賞を受賞しました。この受賞が、日本のワインが世界に認められるきっかけとなりました。

また、メルシャンでは、日本古来のぶどう品種「甲州」の香りを最大限に引き出す研究「甲州プロジェクト」を2000年にスタートさせ、日本のオリジナリティ溢れるワイン作りにも乗り出しています。香りを引き出す鍵を握るのは収穫の時期。従来は、ぶどうの収穫は糖度が最も高い時期に行うもの、とされてきましたが、敢えてその常識を覆し、香りがピークになる時期に収穫を行うことにしました。その方が、香りが最大限に引き出されるのではないかと考えたからです。また、香りの元となる成分、前駆物質を数値化しそのピーク時期を特定することにも成功。科学的な裏付けを得ながら収穫を進めています。最近の研究では、同じ甲州でも畑ごとに香りの成分のピークが異なることも判明。畑ごとに違うスタイルの甲州ワインが作れる可能性が広がってきました。

メルシャンは、2004年から自社でのブドウ栽培事業にも乗り出し、「メルロー」「シャルドネ」はもちろん、日本ではあまり栽培されていない「シラー」や「カベルネフラン」などの新たな品種を育て始めています。10年、20年、その先の将来を見据えて良いぶどうを育てていこうとしているのです。

こうしたメルシャンのワイン作りには一貫した哲学があります。それは『日本庭園のようなワイン造り』です。その意味は、細やかなところまで目が行き届いた、調和が取れたエレガントなワインを造っていく、というもの。それは、繊細で上品な日本のぶどうの特色を生かしたワイン造りでもあります。実は、この言葉、フランス・ボルドーの5大シャトーの一つに数えられる、シャトーマルゴーの最高醸造責任者からのアドバイスです。それまでメルシャンは、世界に対抗するために力強いワイン造りを目指していました。しかし、世界が日本のワインに求めているのは、日本らしさ。日本ならではの個性なのだと気付かされたのです。日本にこだわるメルシャンワインの今後に注目です。

「日本人が持ってる繊細さはワインの世界でも十分出していけるもの。日本料理にも合うし、それを世界にアピールしていきたい 」


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