榊原・嶌のグローバルナビ


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第363回 2007年12月22日 放送

12月6日、2007年ポーター賞の授賞式が行われました。ポーター賞とは、競争戦略論の世界的権威であるハーバード大学のマイケル・ポーター教授の名を冠した賞で、独自性の高い戦略で高収益を上げている日本企業を表彰するものです。7回目となる今回は、無印良品ブランドを展開する「良品計画」、デニム生地の生産を手がける「カイハラ」、そして皮膚科の外用剤の製造販売を行う「マルホ」の3社が受賞。このうちカイハラとマルホは非上場で、例年に比べ規模の小さな会社が受賞したのが今年の特徴です。

良品計画は1980年に西友のプライベートブランドとして誕生して以来「わけあって、安い」をコンセプトに商品展開をしてきました。そのわけとは、商品の本質を見極め、製造工程のムダを省くことです。例えば、サンドイッチ工場で廃棄されるパンの耳の部分を菓子にしたり、枕や布団カバーの生地には、漂白や染色の工程を省いた生成りの生地を使用したりと、あらゆる工夫を凝らして製造コストをカットしています。

また、広島県で1893年(明治26年)に創業した「カイハラ」は、絣(かすり)で培った藍染の技術を活かしてブルーデニムを生産。紡績、染色、仕上げまでの一貫生産を行っています。このカイハラデニムは、中国やアメリカで生産されているものよりも価格が高いのにも関わらず、ユニクロやGAP、リーバイスなど多くのメーカーに採用されていて、国内の市場シェアは50%に及んでいます。

そして「マルホ」は皮膚科で処方される塗り薬と貼り薬の製造販売に特化。7兆円という医薬品市場の全体のわずか4%というニッチな皮膚科関連の市場で、圧倒的な存在感を誇るスペシャリティーファーマーです。

このうちカイハラとマルホが選ばれたのには明確な理由があります。ポーター教授は来日した際に行われたインタビューの中でこう語っています。「カイハラとマルホのように戦略が明確でありさえすれば、規模の大小に関係なくグローバル経済の中で勝ち残る競争力を持てる」と。

また、ポーター教授は、世界経済が激動期に入った今こそ経営戦略が問われると警鐘を鳴らします。「世界経済が揺れ動いている時こそ問題に過剰反応せずに、自分達の基礎的条件に集中するチャンスであり、小規模でも自分達がどの分野で競争力を発揮できるか、強さの源泉はどこにあるかを見極めた企業が勝ち組となる」と指摘します。

更に「商品市況の高騰や物価の上昇に伴って企業は製造システムを再構築する必要がある。製造費の安い時代には取引先の近くに製造拠点を置き、色々な場所に分散するのが効率的だと考えられていたが、今後、物価の上昇に伴い製造コストが高くなっていくことを考えると、製造拠点を集約し製造コストを抑えていく必要がある」と言うのです。こうした時代の変化を察知し、これまでの常識に囚われずに戦略を組み立てていくことが求められるようです。

ポーター教授に、2008年の日本企業の課題を聞くと「ビジネスと社会貢献=CSRの融合」との答えが返ってきました。例えば、環境問題への取り組みを企業のPRと捉えるのではなく、ビジネス戦略の延長線上に、或いは同一線上に地球環境への貢献を位置付けることが求められているというのです。良品計画のように必要のない製造工程をカットし、ムダのない商品を展開することはその代表例と言えそうです。

また、ゲストの竹内弘高教授は、2008年のキーワードとして「エクストリーム・Extreme」という言葉を掲げています。エクストリームは日本語で極端な、過激なといった意味ですが、竹内教授は、資源エネルギー価格の高騰や格差の拡大などの問題を背景に、2008年は激動の年になると予測。そんな1年を表す言葉が「エクストリーム」だと言います。こうした先行き不透明な時代こそ企業経営の真価が問われる時であり、改めて戦略を見直す時なのかもしれません。

今後、企業経営に求められることはガッツ
ノーガッツはノーグローリー
今の経営陣は怯えているが“Change or die”
=挑戦しなければ生き残ることが出来ないくらいの危機感が必要


グローバルナビがスタートしたのと同じ年に産声を上げたポーター賞も、今年で7回目を迎えました。この賞を象徴するハーバード大学のマイケルポーター教授に、毎年、インタビューをさせて頂いているのですが、今回はお会いするや否や「日本の政府とも社会保障制度についてディスカッションをしました」と熱く語っていらっしゃいました。いまアメリカの社会保障制度の研究に力を入れられているようです。

もう一つ盛り上がったのはお子様のお話。二人のお嬢さまをお持ちのポーター教授、姉がペンシルバニア大学、妹はハーバードを蹴ってプリンストン大学に進学されたそうで、「家が静かで寂しい」とおっしゃっていました。以前、誰かが「ポーター教授は家族が大好きだ」と言っていましたが、確かに日本での滞在は大抵一泊か二泊。早く家族のいるボストンに帰りたいということだったのかもしれません。やっぱりできる人は家族も大切にしなきゃいけませんね。

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