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第286回 2006年6月24日放送 ウィプロ アジム・プレムジー 会長

インドが急成長を続けている。そんなインド経済の成長の立役者がIT産業だ。この10年間を見てもITサービスの輸出額は、ITバブルの崩壊後も20〜30%の伸び率を維持している。

では何故、インドはITが強いのか。一つは数学が得意な国民性であること。そしてカースト制を超えて成功をつかむことができる手段が教育であり、ITであるという想いだ。インドには技術大学が1234校もあり、卒業生は30万人。IT企業は8000社あり、そこで働く人は100万人もいる。また、11億人に達する人口も成長を支えている。しかも、この内の54%が25歳以下、若い力が大きな原動力になっているのだ。また、15%の人が英語を話すことができ、世界に羽ばたく技術者も多い。アメリカのシリコンバレーには多くの優秀な印僑が活躍しており、そのネットワークもインドITの発展へプラスに働いた。

インドの輸出の内容もここ10年で様変わりしている。10年前の上位5品目は宝石・縫製品・生地といった資源や素材に頼っていたが、今ではソフトウェア・エンジニアリングなど高度な技術を要する分野に変わってきている。また、IT以外では、医学やバイオの世界での躍進が目覚ましく、世界中の医薬品メーカーはインドに進出している。

経済成長は中流階級の拡大を促している。その数、4000万世帯・1.億5000万人で、今後も増加していくだろう。その中で、若い人たちを中心に、車や住宅、化粧品などライフスタイル関連の商品への消費意欲が非常に高まっている。車の販売台数は毎年20%程度増え、中には小さな車から大きな車に買い換える姿もよく見かけるようになった。かつてインド人は日本人のように「貯金する文化」があったが、そんな意識をも変わり始めているようだ。

そんなインドと日本の関係だが、だいぶ距離があるようだ。1980年代後半から90年代にかけ、日系企業の多くがインドから撤退している。しかし、ちょうどその頃、インドでは経済自由化が進められ、日本企業と入れ替わりにサムスン・LG・現代などの韓国系企業がインドに進出してきた。彼らはいまインドで大成功している。かつて犬猿の仲といわれていた中国も経済的な相互依存の関係を着々と築いている。では、日本は?というと、輸出はアメリカの7分の1、輸入は中国の半分以下、日本の貿易全体に占める対インド貿易は僅か0.3%という驚くべき低さだ。

何故日本は、これほどインドとの距離を置いているのか?その理由の一つは「インドに対する苦手意識」。特に言語の問題だ。インドには18の言葉があるが、この内15%の人が英語、30%がヒンズー語、その他にもタミル語など州によって異なる言語を持っている。そのため、現地の人を活用しなければ十分なコミュニケーションがなかなかとれないし、仕事はうまく進まない。しかし、日本の企業は、欧米の企業に比べるなかなか仕事を現地スタッフに任せようとしない。また、インド人は自己主張が強く多弁である。日本人とは真反対で、こういった人々をハンドルすることは簡単ではない。労働争議も少なくない。カースト制も、我々が教科書で倣う4つだけでなく、職業になどによって細分化され、およそ2000のカーストが存在する。これを把握していないと効率的な仕事は出来ない。更に税制が州ごとに違うこともネック。インドは無視できない市場だが、簡単に出てゆける市場ではないのだ。

では、インドは日本をどう思っているのだろう?実はインドの企業トップや政府の大臣などが度々日本に来ている。世界でも有数のIT企業「ウィプロ」の会長で、『インドのIT王』の異名で知られるアジム・プレムジ氏もその一人だ。お父様の急逝で、21歳のときに売上高200万ドルの小さな食品メーカーだったウィプロを引き継ぐと、瞬く間にIT企業に変身させ、売上高17億6000万ドルの企業にまで育て上げた。日本にも8年前から進出している。そんなプレムジ氏は「日本は魅力的な市場で、これから益々魅力的になる」としながらも「難しい市場。経営者はなかなか情報を出さない。関係を構築するのに時間がかかる。英語を話す人が少ない。インドと日本の直行便がない。何よりも企業のトップがインドを訪問してくれないため、分かってもらえない」と、不満も次々と出る。

しかし、プレムジ会長は日本へのラブコールも忘れない。「日本とインドは文化的に似ている所がある。日本語とサンスクリット語のつながりや、家族を大切にし、目上を敬う気持ちなどはインドとよく似ている。」さらに「日本人にとって中国よりインドのほうが働きやすい」と。

インド政府は15の経済特区を設け外資の誘致を目論んでいる。更に今後5年以内に、経済特区の数を150にまで増やすという。もちろん日本の企業には積極的な進出が期待されている。しかし、そうしたラブコールはいつまで続くか。戦前、象の花子さんがインドからプレゼントされ、日本人が一番好きな国はインドと言っていた時代には戻らないかもしれないが、このラブコールが冷めてしまう前に、慎重且つかなりスピーディーに距離を縮めていかなければ、世界から大きく遅れてしまいそうだ。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • カースト制から抜け出すのは、教育とIT
  • インドには技術大学が1234校、卒業生30万人、IT企業は8000社
  • 日本の経営者はなかなか情報を出さない
  • 日本の経営者がインドを訪れない
亜希のゲスト拝見

日本人はインドに対して苦手意識があると榊原教授はおっしゃっていました。思い起こせば、子供の頃、「算数の先生が嫌い」「暗記力がないから歴史はダメ」など、苦手意識が一度芽生えると、私には合っていないと決め付けてしまう所がありました。しかし、大人になってみて「あれ?歴史は面白い」「数学は神秘だ」などと、遅ればせながら気付いてしまい、もっとやっておけばよかったと後悔することはありませんか?

偉そうな事は言えませんが、インドに関しても、「面白い!」と思えば結構出来てしまうこともあるのではないでしょうか。インドのことを[Deep and Heavy]と言うそうで、なかなか奥深い国のようです。しかも「国際会議の議長は(多弁で主張する)インド人より(あまり意見を言わない)日本人にさせたほうがスムーズにいく」と笑い話にされているとか。それだけ正反対な部分が多いそうですが、正反対な夫婦で上手くいっている人がとても多いように、インドと日本は案外いい取り合わせかもしれません。今回インタビューをさせていただいたプレムジさんも「日本人はインドのことを本当はどう思っている」と度々質問され、興味がおありなのは確かです。興味があるということは「チャンス!」かもしれません。考え方が単純でしょうか。