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第273回 2006年3月25日放送 三和酒類 西 太一郎 会長

今、焼酎は大ブーム。どんな店に入っても焼酎は置いてあって、必然的に多くの焼酎メーカーがしのぎを削っていることになる。そうした大競争の中、ダントツの売り上げを誇るのが『いいちこ』を製造する三和酒類で、市場シェアは17.6%、2位(6.4%)との差は倍以上だ。

そんな「いいちこ」の誕生から現在までを見守り続けてきた人が、三和酒類の西太一郎会長だ。熊埜御堂家・赤松家・和田家という三家の酒造メーカーが1958年に合併してできた三和酒類の"社員第一号"として入社したのが西会長(翌年に西家も加わり4社合併になった)。実は合併後の20年間は焼酎ではなく日本酒を造っていた。しかし、日本酒の激しい価格競争で大苦戦。その苦境から脱するために焼酎の製造に乗り出したのである。とはいえ、当時の焼酎のイメージは「安かろう悪かろう」「日本酒は贈答用になるが、焼酎はならない」など、日本酒と比べると評価は低かった。三和酒類内でも「この転換は寂しく、清酒メーカーの負け犬」と感じていた。

しかし転機は1979年に来た。多くの焼酎では米麹が使われるが、三和酒類は麦麹100%の麦焼酎を造ることに成功。従来の焼酎にあった独特の臭みとは違う、林檎のような香のする焼酎が生まれた。それが「いいちこ」だ。西会長らは「売り上げ5億になったら皆でハワイに行こう!」を合言葉に全国を回った。京都の寿司屋で「これは寿司の味を壊さない」といわれ自信が付いたと言う。また、当時の平松大分県知事が『一村一品運動』を推進していて、平松知事自身が「いいちこ」を手に全国を回った。一村一品運動という強力なバックアップを「すばらしく幸せなこと」と西会長は振り返る。

このとき三和酒類は「いいちこ」のブランドイメージ作りにも着手。西会長は日本を代表するアートディレクター・河北秀也氏と出会う。河北氏は「(三和酒類は)金は出すが、口は出さない」、つまり全てを任すことを条件に「いいちこ」のプロモーションを引き受けた。その河北氏が狙ったコンセプトは『口コミで飲まれる酒』。「年収600万以上、30代から40代の日経新聞を読む男性」をターゲットに広告宣伝を展開した。話題を集めたのが「いいちこ」のポスターだ。大自然の中にポツリと目立たなく置いてある「いいちこ」の瓶という絵柄。自然を女性、「いいちこ」を男性に見立て、人と自然の共生をイメージしたと言う。駅に貼ってあるポスターが何枚も盗まれるほどの反響を呼んで「いいちこ」の名は全国区となった。それから27年、毎月作り続けられている「いいちこ」のポスターは、これまでに284枚を数える(2006年3月現在)。

西会長は「いいちこ」の経験から、ヒット商品を生み出す5つの条件を教えてくれた。

  1. 独創的な商品であること(「いいちこ」は麦麹100%)
  2. 商品の値ごろ感(価格以上の満足度を顧客に感じさせること)
  3. 中身が本物であること
  4. 親しみが持てる
  5. 企業側の誠意・誠実さがあること(今の時代はこのことが一番求められている)

「いいちこ」は、この5つの条件全てを満たしていると言う。

三和酒類の企業理念は、「事業目的は会社の継続、儲けはその手段。自分の家族と従業員の幸せを考え、常に「おかげさまで」と周りに感謝の気持を持つこと」だと西会長は話す。そうした考え方は、三和酒類の企業風土にも表れている。まず、創業以来合併した4社出身の役員は、会長・社長・専務と肩書きは違っても待遇は皆同じ。また、役員全員が大部屋に揃って机を並べている。そうすることによって、自己主張よりもお互いの譲り合う心が持てるようになると言う。4つの酒造メーカーが合併して出来た三和酒類ならではとも言えるが、これが合併後の"共同経営"を円滑に行うコツなのだそうだ。

三和酒類では、毎朝7時から会長や社長ら経営トップが掃除を行う。出社してくる社員とのコミュニケーションを図ることが狙いだ。勿論、出社してきた社員も掃除をする。社内がきれいになれば、社員の美意識が高まり、例えば、僅かに歪んだラベルにも気付くようになるなど、より完成度の高い商品作りにつながると言う。「掃除は社内の意識改革を進める一番の方法」と西会長は強調した。

三和酒類のもう一つのこだわりは情報の共有だ。社員は現在318人だが、それぞれがお互いの情報を共有できるよう毎朝朝礼を行う。また、全国規模の商品なのにもかかわらず支社や営業所は設けず、営業マンは大分・宇佐市から全国へと飛び回る。これも全国の情報を社員全員が共有するためだ。

今、本格焼酎ブームで様々な焼酎が市場に出回っている。西会長は、この激しい競争を勝ち抜くには「ライバルと1ミリの差を作ること」が必要だと考えている。そのために「ひたすら美味しい酒を造り、味を向上させる」ことに力を入れている。「いいちこ」は今も進化しているのだ。そんな三和酒類にとっての最大のライバルは、実は他の酒造メーカーではなく自動車メーカーだと言う。西会長は「時間の取り合い」をしていると言うのだ。確かに車を運転する時はお酒を飲めない。「車に乗るより、いいちこを飲もう!」と思わせることが大切なのだ。

「日本人の味覚は世界を制す。そのなかでもその国の文化を色濃く反映するのが酒」と西会長が言うように、世界的な寿司ブームを追い風に焼酎も世界にも広がっている。ウォッカの国ロシアや老酒の国の中国でも「いいちこ」は評判。蒸留酒の中でもアルコール度の低い焼酎はヘルシーと言うことらしい。「いいちこ」はMADE IN USA(宇佐)というローカルな酒でありながら、世界14カ国で販売とグローバルに展開。ローカルでグローバル、『グローカル』な酒・いいちこは世界的な焼酎ブームの火付け役になろうとしている。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 事業の目的は継続、儲けはその手段
  • 掃除は意識改革の一番のコツ
  • ライバルと1ミリの差を作る
  • ライバルは自動車メーカー
  • 「グローカル」、MADE IN USA(宇佐)にこだわる
亜希のゲスト拝見

やはり九州男児だからか、控えめながら、ご自分の意見をはっきり言う方だった。しかも、度々「幸せです」という言葉が発せられるように、周りに感謝する気持ちをとても持っている方。また、会社でもご自宅でも掃除担当という西会長、家庭も大切にされているのだろう。

私は焼酎が世界でも飲まれるようになっていることは知らなかった。西会長がアフリカの寿司屋に入ったときも、「いいちこ」が置いてあって驚いたそうだ。強いお酒を飲むイメージのロシアでも焼酎は飲まれている。確かに色は似ているかもしれないが・・・日本人としては嬉しい。

今では、麦から酢も作るようになった三和酒類、これまたヘルシー志向を追い風に人気が高まりつつある。社内では、「これから酢を作るためにいいちこを作らないといけない時代が来る」という声もあるそうだ。

世間には芋焼酎、黒糖焼酎、そば焼酎など様々な原材料から出来た焼酎が出回っている。しかし、三和酒類は今後も『麦』にこだわっていく。「研究すればするほど、麦は奥が深く可能性が大きい」からだそうだ。麦から後どんなことが出来るのかと楽しみ。

そうそう、先日ネットオークションで、"幻の焼酎"が10万円以上で取引されていた。いいちこが誕生する以前は贈答品にならなかった焼酎だが、今では『箱入りの焼酎』が求められている。焼酎の地位はとても高くなったのだ。