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第255回 2005年11月12日放送 ポッカコーポレーション 内藤由治 社長

英語3文字が流行りなのか、TOBの次にはMBOと言う言葉をよく耳にするようになった。Management Buy Outの頭文字であるMBOは経営陣が企業を買収することで、企業買収の防止策の1つとして知られている。そのMBOを今年9月に完了し、12月に上場廃止を行う予定なのが『ポッカレモン』や『ポッカコーヒー』で有名なポッカコーポレーションだ。

MBO する決断を下したのは内藤由治社長。その理由は「企業買収を防止するためではなく、根底から企業変革をするためだ」と言う。今回の仕組みはこうだ。まず投資会社のアドバンテッジ・パートナーズが特定目的会社「アドバンテッジ・ホールディングス」を通じてポッカ株を公開買い付けする。その結果、アドバンテッジ・ホールディングスはポッカの親会社となり、ポッカが子会社となる。年内には株式市場からポッカは姿を消す。ということは資金を市場から調達できなくなるが、企業変革を目的としているポッカには資金は必要不可欠。そこでアドバンテッジと銀行が協力して資金面を支える。

それにしてもMBOに至るまで内藤社長はきっと色々と考えたであろう。コーヒー・レモン・スープを主力軸にしているポッカの中でも大きなけん引役となっているのは缶コーヒーだが、熾烈な競争が繰り広げられている飽和市場だ。この戦いの中でポッカのシェアは僅かに3.3パーセント。1位のジョージア(40.1%)、2位のボス(16.1%)から大きく引き離されている。「このままではジリ貧だ。21世紀を生き残れない」と見た内藤社長はMBOに踏み切った。このショック療法で「社員たちが自らの力で立ち上がり、行動する会社へと意識改革を図りたい」と強調する。「会社とは未来永劫に残るため、企業価値を高めるのが使命」と考える内藤社長は、「よそ様のファンドを入れて抜本的に変えようとしている」のだ。

企業価値を高めるためのポッカの強みは本格派に近づけようとする技術開発だ。例えば缶コーヒー。そもそも本格的な缶コーヒーを発売したのはポッカが日本で初めて(それまでのものはミルクコーヒーのようなものだった)。この発明は、創業者が仕事のためにできたばかりの名神高速に乗って、名古屋から大阪へ出張に出かけた時、途中で運転手が疲れ、コーヒーを飲みに車を止めた。これを見て「店に入らなくても、車の中でコーヒーが飲めたら効率的だ」と考えたとのこと。(喫茶店文化が発達している名古屋を本拠地としているポッカらしい考え方!?)そして、その考えは1972年、日本発の本格的な缶コーヒーに姿を変え、日本で初めて世に登場した。そして翌年には世界初の『ホット・コールド自販機』を開発し、ポッカコーヒーの名を世に知らしめた。1988年には、直火ではなく焼き芋のように遠赤外線でコーヒー豆を焙煎できる工場を建設。1996年にはコーヒーの味を落とす酸素を取り除く『脱酸素製法』の開発に成功するなど徹底的に味にこだわって技術を開発してきた。

そして今年、内藤社長も「自信作だ」と力を入れる『アロマックス』を発売。今までの缶コーヒーにはなかった香りにこだわった商品で、コーヒーがもつ800種類の成分を分析して開発した「フレッシュ・ナチュラル・アロマ製法」で淹れたてのコーヒーの香りを実現した力作だ。その香りを楽しんでもらえるように、容器の飲み口に鼻が入るよう大きくしている。ポッカの目指すコーヒーは「家庭で作ったレギュラーコーヒーの味をそのまま実現すること」。内藤社長も「かなり目標とするものになってきている」とみている。

もともとポッカはレモンからスタートしている。創業者がポッカ創業前に名古屋のニッカ・バーの経営を任されていた。当時の日本はカクテルをバーで飲むのが大流行していた。そんな時代の中で、創業者の店の人気カクテルはジンフィズだったが、このカクテルを作るときに必要なレモンはまだ輸入が自由化されておらず、なかなか手に入らない高価なものだったそうだ。そこに目を付けた創業者はレモンの成分を分析し、合成レモンを作り出した(ちなみに今は100%レモン果汁になっている)。そこで考えた社名がニッカ・バーとレモンをあわせて『ニッカ・レモン』。しかし、ニッカとは資本関係がなかったため、『ニッカ・レモン』→『にっかぼっか』(語呂合わせから)→『ボッカ』(でも響きが悪い)→『ポッカ』になったのだ。

この創業のきっかけになったレモンに内藤社長は大きな可能性を見出している。そのキーワードは『健康』。実はレモンにはポリフェノールが豊富に含まれており、またレモンの成分の1つのヘスペリンは脂肪を減らす力がある。さらにクエン酸は体内のカルシウムを吸収しやすくする働きがある。(秋刀魚にレモンをかけるのは味だけではなく、秋刀魚のカルシウムを吸収しやすくすると言う役割もあるのだそうだ)。しかし、そんな健康食品であるレモンは、欧米と比べるとあまり使われていない。だからこそレモンには大きな可能性を見出している。今後は輸入レモンだけではなく、防腐剤を使っていない国産のレモン作りにも力を入れていく考えである。

一方、世界に目を向けると、香港に『ポッカ・カフェ』、香港とシンガポールにトンカツ・レストラン『とんきち』を5店舗も展開している。もちろん今後は中国も視野に入れていきたいと考えている。新しい形のMBOを実行に移し、企業の抜本的な改革を始めているポッカ。12月には上場廃止はするものの、いずれは再上場も選択枠の1つにあるとして、上場廃止後も決算発表会見は続けていくと言う。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 今回のMBOは企業買収防衛ではなく企業体質の大変革のため
  • 社員が自分の力で立ち上がり行動しなければ、会社は変わらない
  • 会社が未来永劫に残るために企業価値を高めることが経営陣の使命
  • 将来的に株式の再上場もあり得る
亜希のゲスト拝見

非常に温和な内藤社長がとても美味しそうにポッカの新商品『アロマックス』をお飲みになっているのが印象的でした。確かにあけた瞬間に、コーヒーにこだわっている喫茶店に入った時のような香りがパーっと広がりました。しかし、缶コーヒーの香りって気にしたことがありませんでした。でも香りがあるのとないのとでは味が全然違う。風邪を引いた時に食べ物の味が分からないように、人間は五感を使って食事を楽しんでいるのがよく分かります。

また、今では当たり前になっていますホット・コールド自販機ですが、なんと特許をとっていなかったそうです。オープンな社風だからと言うことですが、内藤社長は「特許はとっておくべきだった」と小さな声でおっしゃっていましたね。まるで大ヒットした『およげたいやきくん』の印税が歌手にほとんど入らなかったのに似ている・・・。と思わず思ってしまいました。ちなみに新商品のアロマックスに関しては特許取得済みです。よかった!

最後に、非常に私事ですが、高校生のころクラブ活動の帰り道によく飲みました。なんだか、あの少し苦いコーヒーが大人っぽく感じていたからです。12月には株式の上場が廃止され、新しい企業体質作りに力を入れていくポッカですが、きっと私のようにポッカの飲み物に思い出がある人も多いはずです。頑張ってください。