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第254回 2005年11月5日放送 JA富里市 仲野隆三 常務理事

「今日はスーパーで野菜でも買って、パパッと家で作ってしまおう」と思うことがよくある。しかし、その野菜はパパッとスーパーには届けられていなかった。野菜は遥かなる旅をしていたのだ。まず生産農家が野菜を収穫し、袋詰めをしてダンボール箱に入れる。それらは農協に渡り、農協が集めた野菜は農協の上部団体である全農が売り手となって市場で中卸業者に売却する。そこからスーパーなどの量販店や外食企業に行き、ようやく一般消費者の手元に届く。実に複雑で長い道のりを経て、我々の食卓に上っていたのだ。この長すぎる工程のために、消費者のニーズが生産農家に、生産農家の思いが消費者に伝わらない。もちろん野菜の鮮度も落ちる。

大変なのはこの道のりだけではない。生産農家に課せられた規格の規定も厳しい。例えばにんじんはAからCまでのクラスに分かれており、そのクラスの中で更に3Lから2Sまでの大きさに分けられる。と言うことは、にんじん1つが14階級にも分けられているのだ。そのうちスーパーなどが高く買ってくれるのは平均に近い3規格のみ。そのほかは安く買い叩かれてしまう。このルールは、あくまでも流通サイド・小売店サイドに立った考え方だ。要するに大きさを合わせて運びやすくし、小売店での売れ残りが少なくするためだ。

農家が負わされているのはこれだけではない。金銭面でも大変だ。例えば、ニンジン農家の一度の平均収穫量は約4トン。これを10キロで1ケースにすると400ケースできる。それを1ケース500円(安い!!)で売ると、400ケース×500円で20万円の収入になる。しかし、そこから段ボール代、袋詰めの人件費、運送費などの経費を引くと、赤字になってしまうという。そのため規格外の野菜ができた場合、野菜が安すぎてしまい経費のほうが多くなってしまうため、廃棄してしまうことも珍しくない。大きさではなく美味しいものを求めている我々消費者から見ると、この光景はあまりにももったいない。 この利幅の薄さは、世界的に見ても少ないそうだ。

更に我々消費者もこのシステムにより結構お金を出している。農協・全農の手数料は全体の2%、市場の取り分は8.4%、中卸業者は13〜20%、小売店は25〜30%。ゆえに我々は生産農家の段階の2倍の値段で野菜を買っていることになる。このままでは日本の農業は衰弱してしまう。既に就農者数は1985年には543万人だったのが、2004年には362万人までに減少。およそ20年間で180万人近くが減少した。

こうした中で新しい動きも出ている。千葉県の農協、JA富里市(常務理事・仲野隆三氏)は農協の異端児とまでいわれる活動を始めている。本来、農協は既存の流通ルートを守る立場にあるが、このままでは農家を苦しめ、農協の存在意義がなくなってしまうと考えたJA富里市は産直販売やスーパー・レストランチェーンとの直接契約など、流通の多角化戦略に打って出た。

その1つが野菜ソムリエのいる『エフ』という産地直送の新鮮な野菜ばかりが並ぶ店。コンセプトは大きさや形ではなく、野菜本来の味をアピールしていること。新鮮なため、葉付き大根や懐かしい曲がったきゅうりなどが並んでいる。その新鮮さに野菜ソムリエの説明も加わり、その安心・安全でわかりやすいシステムが消費者を惹きつけている。もちろん店の担当者は直接農家に出向き、消費者の声を届けている。こうすることによって、生産者に消費者の「おいしい」という声が届き、もっと喜んでもらえる野菜を作ろうという意欲が生まれるそうだ。『エフ』は、いままでにない生産農家と消費者の顔が互いに見えるやり方なのだ。こういった直販はJA富里市の取扱高は全体の38パーセントを占めているが、「それを50%にする!」と仲野常務理事も自信を見せている。

JA富里市の成功の要因を仲野氏は次のように分析する。

  1. 消費者サイドに立ったビジネスプランが成立してきた
  2. 生産農家と消費者との接点を持つことにより、喜びを得られるようになった
  3. かつてのやり方では、どこで価格が決められているのか分からなかったが、いまでは農家も把握できるようになり、再生産計画が立てられるようになった
  4. 富里市の農地はまとまっているため、集約した農業が行いやすかった という、今までの農業のあり方の正反対のビジネスプランが成功しているのだ。

では、全国の全農・農協はどうなっているのだろうか?取扱量は8兆円から6兆円に減っているにもかかわらず、職員数は1万2000人と変わっていない。日本の貿易黒字は10兆円だが、農産物の貿易赤字は7兆円と、製造業の儲けが農業で消えてしまっているのが現状なのだ。当然、全農解体論なども出てくるわけだが、仲野氏はこの現状をみて「なぜ農家出身の全農の役員が農家の気持ちが分からないのだろう」とジレンマを感じている。仲野氏は、農業改革を説いて全国をまわっているが、次第に「農家・流通・農協・若手の全農社員の間で、変えようというエネルギーを感じ始めている」そうだ。

日本の野菜の品質も、それを作る技術も世界的に高く評価されている。それにもかかわらず自給率は下がる一方だ。日本のすばらしい野菜が無駄にならないためにも、全農を大きく改革し立ち直させるのは急務のようだ。農業問題は地方の問題だけでなく、日本全体の問題なのである。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • ニンジンの大きさは14段階の規格に分かれているが、 スーパーが高く買ってくれるのは僅か3段階だけ
  • 大きさと形にこだわるのは流通サイド・小売店サイドの都合。味や品質とは関係ない
  • 日本の農家の利幅は世界的に見ても小さい
  • 消費者と生産者が接点を持つことにより、お互いが喜びを得られるはず
  • 地方の一次産業が復活しなければ、中央にもお金が回らない
亜希のゲスト拝見

「日本の自給率は下がり続けている」「日本の農業は衰退してきている」ということは、言葉では理解していたつもりでしたが、現状はもっと大変なようです。ニンジンの大きさが14段階にも分けられていたり、ダンボール代までもが農家負担だったなど、これでは日本の農家はなくなってしまうと思いました。しかし、世界は日本食ブーム。やっぱり日本のお寿司には日本のお米が合うし、中国の富裕層の中には日本のコシヒカリをいくら値段が高くても購入している人がいるそうです。やり方次第では世界に大きく羽ばたけるのにもったいないと思ってしまいました。

製造業はもちろん、いまや外食産業も世界に進出している。日本の農作物だって多少は海外に出ているが、もっと出て行けるだけの美味しさがあると思います。海外のスーパーに行くとそのすばらしさはすぐに分かります。考えれば考えるほどもったいない。

ということで、これからも美味しい日本の野菜を食べられるよう、新しい時代を大きく捉えられる坂本竜馬のような人は現れないのでしょうか。そうすれば、我々消費者は形や大きさより、安心・安全・できれば安めの商品を求めていることが当たり前のように分かるはずでは?

JA富里市の皆さん、頑張って『野菜維新』を起こしてください!