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第239回 2005年7月23日放送 大和総研 清田瞭 理事長

郵政民営化・少子高齢化・年金問題・人民元の切り上げなど、今の日本経済は様々な課題を抱えている。しかし、足元の企業業績は好調だ。主要企業300社合計の経常利益は2001年度を底に順調に回復している。大和総研の見通しでも今年度は4期連続の増益で、その水準はバブル期をはるかに上回っている。「来期の予想も増益。市場もそろそろ織り込みだすだろう」と語るのは、大和証券グループ本社副会長で大和総研理事長でもある清田瞭氏。1969年に大和証券に入社して以来ずっとマーケットを見続けている清田氏に日本経済の行方と課題について聞いた。

人民元の切り上げ
今年7月21日、中国人民銀行が人民元の切り上げを発表した。その幅は約2%と小幅にとどまったため、為替市場は少し円高に動いたが、すぐに冷静を取り戻した。切り上げのタイミングは市場予想より早かったものの、いつやるかを待っていた状況だったため、その点では予想通りといえよう。重要なのは中国政府が世界の世論に耳を傾け、切り上げを行うことによって、中国が自由主義経済圏に入ったとアナウンスをしたこと。とはいえ、中国の一人当たりのGDPはまだ1000ドルの「発展途上国」。「先進国」になるにはまだ時間がかかりそうだ。

国内経済
政府も「日本の経済は緩やかに回復している」との考えを示しているが、今回の回復は、企業のリストラ効果などだけではなく、世界の中での日本の役割が大きくなってきたことも示している。例えば、中国の国家プロジェクトにも日本は大きく貢献している。日本はデフレ脱却のステージに入っているといえそうだ。

最近の傾向を見ると、企業の勝ち組と負け組みが鮮明化している。大和証券が発表している「業種別の天気図」を見ると、「晴れ」の業種は素材関連、工作機械、自動車、商社など。「曇り」は銀行・造船、「雨」は電機・通信・空運などとなっている。ただ、最近は業種で大別することが難しくなっている。つまり同一業種でも個別企業ごとに格差が広がっているからだ。

M&A
ライブドアによるニッポン放送株の買収問題で敵対的な買収が注目を集めている。しかし、「敵対的」という言葉の使い方は難しい問題も含んでいる。つまり、現在の現経営陣にとっては敵対的であっても、株主や従業員にとっては必ずしも敵対的ではないことだってあり得る。

世界的な潮流でみるとM&Aは沈静化の傾向にあるが、日本ではようやく活発になってきたところだ。色々な背景があるが、株式の持合構造が崩れ外国人投資家の割合が高まっていることが1つの大きな要因と言える。M&Aというだけでマネーゲーム的な連想をされがちだが、経営戦略上有効な手段の1つでもあることは理解が必要だ。

敵対的買収に対する防衛策についても話題になっているが、ポイズンピル、役員定員の縮小、ホワイトナイト、株式分割、株式持合いなど様々な対抗手段がある。しかし、どれが一番効果的かというと、まさにケース・バイ・ケース、それぞれの企業によって有効な対策はまちまちだ。企業経営者にとって最も大切なことは、その防衛策が企業価値の向上に本当につながるのか、適正なルールに従ったものであるか、株主の意思は、過剰防衛にはなっていないか、ということをしっかりと見極めることだ。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 日本経済はデフレ脱却のステージには入っている
  • これまでの景気回復とは異なり、同一業種内でも企業格差が拡大しつつある
  • 経営者にとって敵対的な買収が、必ずしも株主や従業員にとっても敵対的とは限らない
亜希のゲスト拝見

姿勢を変えず、ゆっくりとお話いただいたように感じましたが、いざVTRを見直してみると全て分かりやすく、内容も濃く、そのまま本になるほど整理されたお話でした。難しい内容をあれだけ分かりやすくお話できるのは、並大抵の頭脳の持ち主ではないことが私にもすぐ分かりました。

そんな清田さんは、入社した直後に円がフロート制に移行したり、オイルショック直前にアメリカのワシントン大学に留学されたりと、マーケットを通じて激動する世界経済の中に身を置いてこられたことと思います。そうしたビジネス経験のなせるわざでしょうか、人民元の切り上げについても今回のM&A騒動に関しても、沈着冷静に捉えていらっしゃるのがとても印象的でした。私も、そんな落ち着いた姿勢を身につけたいですが、まだまだ経験不足ですね・・・。