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第231回 2005年5月28日放送 西松屋チェーン 大村禎史社長

私は小さい頃、「また背が伸びて、この洋服がもう着られなくなっちゃったの!」と母親から言われたことがある。きっと私のほかにも、『子供の早い成長に何とか対応するために、一回り大きい服を縫って何年かもたせよう』作戦を体験した人も多いだろう。しかし、今は違う。今のお母さんには「西松屋チェーン」があるからだ。

西松屋チェーンは、最も子供の成長が早い0歳〜8歳までの子供を対象にしたデザインの豊富な子供服をはじめ、マタニティウェアや紙オムツなど子供関連のものが2万点も品揃えされている。しかも、Tシャツが1枚299円などと値段も破格に安い!だからといって、中古品であったり、品質が悪いわけではない。商品のすべては新品。デザインはプロのデザイナーが行う。こうして「かわいい我が子に、かわいいデザインで、新品で、ジャストフィットな、しかもお手ごろな服を着させたい」という親心をしっかり掴んでいる。少子化なんて何のその、急成長を遂げているのだ。

その成長ぶりは文字通りの右肩上がり。10年前の店舗数は50店、売上高は12億円だったが、2005年2月期には店舗数は421店、売上高が887億円と、8倍にも成長した。西松屋チェーンの前身は、1956年、兵庫県姫路市にお宮参りの衣装や出産準備品を扱う店として誕生した『赤ちゃんの西松屋(株)』。そこから現在の西松屋チェーンへと大きく変貌させたのが、現在の社長の大村禎史氏だ。もともとは京都大学大学院工学研究科を修了し、子供服とはほど遠い日本の製造業の要の鉄鋼業界(山陽特殊製鋼)で働いていた。しかし、1985年に義父の会社を助けるために西松屋(株)に移ったのだ。

当時の会社の規模は店舗数30店、売上高30億円程度の決して小さくはない会社だったが、生産性と効率性を求める製造業を見てきた大村氏の目には、小売業の内情は売上げこそ第一と考える『売上げ至上主義』で、生産性や効率性が重視されておらず、無駄が多く見えたという。

そこで「日本の鉄鋼業の生産システムは日本一」と考える大村社長は、製造業のノウハウを小売業に活用していった。それが「効率性を上げることによって収益性を高め、売上げを拡大させる」という、それまでの小売業には見られなかった戦略だった。そのやり方は驚くほど徹底している。

1)西松屋チェーンでは、全ての商品はハンガーで吊り下げられている。このような陳列方法を採用したことで、客はデザインとサイズがすぐ分かり、子供の手をつなぎながらでも買うことが出来る。一方、店側にとっても、たたむという手間が不要になる。この結果、客1人の店での滞在時間は他社よりも20分間短くなり回転率が高まった上に、1人当たりの購入商品数も平均4〜5点、金額にして3000円程度をキープしているという。

2)西松屋チェーンの大きな特徴が店舗の標準化である。全国どの店舗も売場面積は約200坪、平屋建てで(ワンフロアの方がベビーカーで移動しやすく、商品の出し入れも簡単)、商品の陳列からレイアウト方法も統一されている。通路もベビーカーが通りやすく、店側の棚卸しも楽なように全店2メートルの規格だ。姫路市にある本社から、レイアウト変更などの指示を全店舗にメールを写真付きで送れば、全国の店舗が瞬時にして模様替えを行う。こうした店舗の完全標準化は、本社からの指示の効率性を高めるだけでなく、各店舗にも余計な人件費をかけずに済むため、効率性が著しく向上するという。

3)小売業といえば、複雑な流通システムが問題となることも少なくない。しかし、西松屋チェーンでは、大村社長が自ら、200余りの取引先を回り、一緒に物流改革に取り組んできた。例えば、倉庫のあちらこちらに散らばっていた商品を集め、バーコードで管理することによって、誰でもわかり在庫状態も把握しやすくした。また、伝票ではなく、すべてをPOSシステムで管理している。

4)また、プライベート・ブランドにも力を入れている。取り扱い商品のうちプライベートブランドが占める割合は38.6%。近い将来、その比率を50%まで引き上げる計画だ。最大の理由は高い収益率と客のニーズに合わせてデザインを変えやすいことにある。もちろん、同業他社の中でもプライベートブランドに力を入れる所は増えてきているが、西松屋チェーンの場合、その生産方法がユニークだ。企画や数量のリスクは西松屋チェーンがもち、デザインから生産管理はノウハウのある大手商社にまかせ、生産は人件費の安い中国で行う。つまり、西松屋チェーンはコアとなる技術と経営方針は作るが、後は徹底したアウトソーシングというわけだ。

5)ゾーンマネージャー・エリアマネージャー制度の採用。西松屋チェーンでは、全国の店舗を地域ごとにゾーン分けして、それぞれをゾーンマネージャーと名付けた社員が管轄している。ただし、ゾーンマネージャーがいるからといって、各地域ごとに支社などを設けたりはしない。絶えず担当の店舗を回っているし、どうしても会議を開く必要があれば、近くの公民館などを一時的に借りれば十分という発想だ。効率化の徹底ぶりが伺える。

こうした努力によって、生産性は毎年アップし続けており、5年前の粗利率は29.1%だったが、2005年2月期には33.6%にまで高まっている。しかし、大村社長は「まだまだ行ける」と強気。

さらに、「少子化で子供の数が減っているから物が売れないというのはウソ」と語る大村社長。「今はライフスタイルが多様化し、少ない子供に、両親とそれぞれの祖父母から合計6人分の財布がつぎ込まれる『一児豪華主義』時代なのだ」そうだ。しかも、消費者のニーズは、外出用の高級品を買い求めるケースと、普段着用のリーズナブルな価格のものを買い求めるケースというように、TPOによる二極化が進んでいるという。その2つのうち、普段着用のニーズに完全に焦点を当てることで、まだまだ成長を続けられるという。最後に大村社長は「あと1000店舗は増やせる」と強い自信を見せた。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • 従来、小売業には「生産性」という概念がなかった
  • 製造業のノウハウ導入で小売業を変える自信はあった
  • 少子化で物が売れないのはウソ
  • 現在の子供関連市場は「一児豪華主義」
亜希のゲスト拝見

最近のケータイはスゴイ。色々な機能が付いている。でも私は、全く使いこなせていません。ですから新しいものを買う時は、外見と使いこなせる程度の機能のものを選んでいます。(それでも使い方が分からないものがあります・・・)。そんな「デザインが良く、手頃な機能のもの」が良いと思う私のケータイに対する考え方と、母親が子供の普段着に求める想いとは似ていると思います。ですから、なぜ西松屋チェーンが人気なのかは良く分かるような気がします。

デザインは可愛いのに値段は安いですから、「服を汚さないでね!」などとキリキリする親も減るかもしれませんし、子供の方だって子供らしく外で走り回り、安心して(?)汚して帰って来れるようになるのかも知れません。こうしたことも豊かなライフスタイルですよね。

そんな消費者のニーズに応えている大村社長は、実際にお会いすると、物静かで物事を深く考えるタイプのような印象を受けました。子供服を扱っているというよりは、難しそうな学術書に囲まれているイメージです。しかし、実践していることはスゴイ。少子化でモノが売れないなどと嘆くのではなく、考え方と実行力で大チャンスに変えられることを証明し続けています。ぜひ1000店舗に向って頑張って下さい。