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第218回 2005年2月26日放送コクヨ 黒田章裕社長

ダイエーやコクドなど 高度経済成長期を牽引してきた企業が、新しい時代の移り変わりに対応できず苦しい立場に追いこまれている。その反面、新しい時代を幾度も乗り越えながらも成長を続けている老舗企業もある。キッコーマン、ミツカン、虎屋などはいずれも創業100年を超えており、文房具メーカーのコクヨも今年創業100周年を迎える。

コクヨはもともと『国誉』と書いた。創業者・黒田善太郎氏が 越中富山から大阪に出てきた時の「ふるさとに錦を上げたい」という想いが込められている(今でも中国の現地法人では国誉を使っている)。その想い通りコクヨは売り上げ2734億円、経常利益88億円、従業員4191人という文房具大手メーカーに成長。帳簿の表紙作りからスタートした商品数も、今や文房具3万点、オフィス家具も含めると10万点にまで増えた。

そんなコクヨも2001年度には100年間で初めての赤字決算に転落した。それまでは、文房具は景気に左右されない業界と言われていた。失われた10年といわれ始めても、黒字をキープできた。だが、世間でリストラや設備投資の削減が一段落してから、文房具業界に「遅れた失われた10年」がやってきたのだ。幾度も時代の変化を経験していても、「今回はいつもと違う」とコクヨの黒田章裕社長(創業者黒田善太郎の孫で4代目の社長)は感じた。

業績不振の最大の要因はIT革命による物流構造の急激な変化。かつては、商品はコクヨから文房具店にわたり、客は文房具店で鉛筆などの文房具を買っていた。しかし、IT革命により文房具店に行かなくても、メーカーに直接、FAXやE-MAILEで注文できるようになった。この時代の変化はまさにその手法で文房具業界に参入してきたアスクルの躍進ぶりに象徴された。

しかし、コクヨはすぐには新しい時代にシフトできなかった。やはり100年もの間続けてきたコクヨと卸(文房具店)の関係を考えると、卸を飛ばして直接顧客に商品を渡すやり方に移行する勇気がなかったのだ。すると業績は下降しはじめ、創業以来初の赤字となってしまう。

そこで黒田社長は次のような大胆な構造改革に取り組んだ。
(1)海外生産へのシフト・・紙製品の30%は「あっという間に海外に移行した」
(2)16の事業会社に分社化・・・かつては卸に商品を渡してからは、彼らの自由で売ってもらっていたが、こういった卸と資本関係を結びコクヨの意思が反映しやすいようにした。また文房具店、コンビニ、インター・ネットではそれぞれの商 品のニーズやスピードが違うため、それぞれを分けた。
(3)社員の意識改革・・・分社化したことにより「かつては自分のところがダメでも、他の部門が良ければそれでよい」という風潮があったが、分社 化によって、それぞれの実績がはっきりと分かるため、ダメならどうしたらよいのかをそれぞれの会社が考えるようになった。社員にとっても「自分の実績が分かってよい」と好評だそうだ。

こうした構造改革の末にスタートしたインターネット販売『Kaunet』。アスクルより後発なためアスクルが注文の翌日届けるところを、Kaunetは当日に届ける戦略をとっている。

しかし、かつて文房具店で買っていたものまでネット販売にとられてしまう。そこで長年の間に築いた顧客との関係を活用し、今どのようなニーズがあるのかを考えるようになった。「大事なものをとられた分だけ、新しい何かを求める。今、コクヨは大きく変わっている」と黒田社長は見ている。

では、顧客のニーズとは何なのか?まずは商品力。キーワードは、いつでも・どこでも・誰でも使える『ユニバーサル・デザイン』。そこでコクヨは半分の力で使えるステープラー、片手で開けられるファイルなど、健常者はもちろん、高齢者や子供、障害のある方にとっても使いやすい商品を開発している。こういった人に優しい文房具により、学生やサラリーマンだけでなく新しい顧客層も開拓している。

一風変わった商品もある。小さな立方体の消しゴムがくっついている『カドケシ』。角が28か所もあるので細かいところも消しやすい。商品開発に1年もかかったカドケシは大ヒットした。当初の目標の25倍にあたる年間100万個を売り上げた。コクヨの消しゴムの売り上げは全体で300万個、ここに100万個が上乗せされたのだ。「顧客に近づき、ちょっとした発想によるモノづくり」の賜物である。いまではユニバーサルデザインの文房具をおよそ60種類展開している。

コクヨは文房具以外にオフィス家具も手掛けているが、現在、取り組んでいるのがオフィスのワークスタイル全体を提案するソリューションビジネスだ。大きなテーマは『セキュリティー』。社長室のセキュリテイーをしっかりしたいという会社もあれば、特定の人しか見られない個人情報ファイルを作りたいたいという企業もある。こういった様々なニーズにあった商品を提案していくのだ。最近では、こうしたコンサルティングなどのソフトの部分でも収入を得られるようになってきている。黒田社長は、この分野が大きな成長分野になると見込んでおり、将来 はハード・ソフトで半々の利益配分を目指している。

「進化が時代と同じスピードなのは止まっているのと同じ。時代を追い越さなければ進化しているとはいえない」と語る黒田社長。これからの100年を生き抜く秘訣をこう語った。「根本は創業した100年前と同じモノづくり。それを進化させることが大切」と。『温故知新』精神が老舗であり続ける秘訣のようだ。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • アスクルの登場は大きなショックだった
  • 創業100年の間で初の赤字転落
  • 大事なものを取られた分だけ、新しい何かを求め大きく変わることができる
  • 顧客に近づき、ちょっとした発想でできるモノづくり
  • 進化が時代のスピードと同じなら止まっているのと同じ。時代を追い越さなければ進化しているとはいえない
亜希のゲスト拝見

耳に残る「コクヨのヨコク」のコマーシャル。実は10年前、キャッチフレーズを考えようと社員に募集したのですが、最終候補から良いものが見つからなかった。そこで社長が、没になった案を持ってこさせ、その中から『コクヨのヨコク』を探し出したそうです。考えた社員には社長賞が授与されたそうですが、「没にしたものから探し出した私も社長賞が欲しいです」と笑って裏事情を教えて下さいました。

大きな目に、がっしりとした体格のまるで舞台俳優のような黒田社長のご趣味は、バロック音楽や教会音楽を聴くこと。司会者の経験もおありだそうです。そんな黒田社長の次なる野望が中国展開。3年後には100億円事業にする目標です。文房具だけでなく、ソリューション・ビジネスにも力を入れるとのことですが、個人的には、あのカドケシは世界中で人気商品になると思います。いかがでしょう?

それにしても、文房具の世界でもソリューションビジネスという言葉を聴くとは思っていませんでした。ますます業界名だけでは何をやっている会社なのか分からなくなってきました・・・。