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第215回 2005年2月5日放送BMW東京 林文子社長

2004年、米経済紙ウォールス・ストリートジャーナルの『注目の女性経営者50人』に、日本人が唯一人選ばれた。ドイツBMW社直轄の販売店、BMW東京の林文子社長(58歳)である。『男性社会といわれる自動車セールスで卓越した販売手段を発揮していること』が高く評価されたのだ。

といっても、林社長の自動車セールスの人生がスタートしたのは31歳の時。高校を卒業した1965年当時は、『女性は職場の花』などと言われていた時代で、林さんも例外にもれず、繊維会社の事務職員としてお茶汲みやコピーをとる毎日だった。しかし、心の中は「男性のような実績を出せる仕事に就きたい」と思っていたという。

転機が訪れたのは、それから13年後。夫婦で車を買いに行った時のセールスマンの親切な対応に感激し、「車も好き。人も好き。私は車のセールスに関わりたい!」と感じた。早速、営業社員を募集していたホンダに応募するも、女性のセールスマンは少なかった時代なので「女性には無理」と渋られる。しかし、林さんの熱意が勝り念願の自動車セールスマンとなった。

車の知識が少なかった林さんの最初の仕事は、ショールームでの接客ではなく、新規開拓のための外回り。そこで彼女が作ったノルマが「1日100人に会うこと」だった。事務職時代にはもらえず、あこがれていたという名刺100枚と営業カバンを持ち、早速、外に飛び出す。知らない人の家を訪ねるのは大変そうだが、林さんは「人に会うのが楽しく、まったく苦ではなかった。また女性のセールスは珍しかったため良い方に作用した」という。

例えば、日中家にいるのは女性が多い。男性セールスマンなら警戒する彼女たちも、女性の林さんにはドアを開けてくれた。女性である安心感から身の上話をしてくれることもあり、人間関係を構築しやすかったそうだ。次第に「家に訪ねてきた女性のセールマンはいますか?」などとショールームを来店する人が増え始め、林さんはショールームでのセールスを許されるようになった。そして入社翌月にはトップセールスを達成してしまった。

しかし、仕事が忙しく家族と過ごす時間も取りにくくなったためBMWに転職(1987年)。ここでも高い営業成績を上げた林さんは、女性初の支店長(新宿支店)に抜擢され、瞬く間に同支店をベストセールス店にした(年間522台を売り上げた)。1999年、ヘッドハンティングされてフォルクス・ワーゲン東京の社長に就任。2003年8月からBMW東京社長に就任している。

林さんの販売戦略は決して難しいものではない。「女性の感性」と「おもてなしの心」。おもてなしの心とは、双方が幸せに感じることだと言う。客だけでなく、セールスしている自分自身も幸せを感じなければいけないというのだ。例えば、古い車に乗っている客に対しては、「お綺麗に乗っていらっしゃいますね」など、その車が一番良いものだと伝える。決して否定してはいけない。また「今日のお召し物はステキですね。私の夫にも似合うかしら」など、セールスマンとしてではなく生身の人間として接する。そうすれば客は安心し、セールスする側も幸せを感じられる。(男性の場合は言い方を変えないと違和感があると思うが・・)

林さんはBMW東京の社長として、ショールームの展示方法も変えた。かつては四角い部屋の蛍光灯の下に、ただ車が置かれていたのだが、そこに季節の花や絵画、香りまでも演出し、スーッと入店したくなるような空間を演出。「男性は経営戦略などを論じたがるが、女性はもっと感覚的」だからこそ気づいた点だ。こうした心遣いは確実に売り上げに反映するという。

社長就任の要請があった時、前社長は、財務の知識が少なかった林さんに対して、「社長とは従業員の幸せを一途に思っていればできる」と言われ、安心して引き受けたと言う。そんな林流・経営術も基本は『おもてなしの心』にある。

(1)現場主義・・・BMWが販売している6500台以上の1台1台の裏にはセールスマンがいる。全て現場で起きている。だからこそ、全ての支店のどこに何があるのか、従業員の性格はどうか、などを把握していないと現場を元気には出来ない。林さんは各支店のどこに花が飾られているのか、まで把握しているそうだ。

(2)コミュニケーション・・・日本の企業文化はコミュニケーションを二の次にしてしまっている。もちろん、難しい経営理論の勉強も大事だが、人間関係の構築の方が先決。経営論の知識や勉強ができるからといって仕事ができるわけではない。林さんは「部下に対して言うべきことは厳しく言うが、常に上司と部下のコミュニケーションをとっている」

(3)ほめる事から始める・・・「ありがとう」が口癖の林さん。たとえ部下の仕事ぶりがダメな時でも「惜しいわ」と言い、もっとダメな時でも「もう一歩なのに。私は悔しい」などと言うそうだ。確かに、ほめられて嫌な人はいないはず。

人間誰しも、「よし頑張るぞ!」や「全然ダメだ!」など説明できない感情で仕事のパワーが変わってくる生き物。殺伐とし混沌とした世の中だからこそ、林さんのような「人肌経営」が重要となっているのかもしれない。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • おもてなしの心が営業の基本
  • クレームはお客様の心底からの叫び
  • 相手をほめることから始める
  • 自らに課したノルマ「1日100人と会おう」
  • 経営理論の勉強より、生身の人間として向き合う努力が先決
亜希のゲスト拝見

自動車セールスは休日も少なく体力も必要なため、依然として男性中心の世界です。しかし林さんは「むしろ女性にむいている世界」とおっしゃる。女性はガマン強い。「何とかしてあげたい」という母性本能もある。男性のように理屈から入っていくのではなく、「ここはいい感じ」など感覚で全体を見ることもできる。財布の紐を握っている女性と同じ女性の方が、話しやすいし感性も合うなど・・・。そう語る林さんの社長室の窓際にはたくさんの花が飾られていました。

しかし、そんな女性らしい林社長の営業魂を見つけました。男性には分かりにくいと思いますが『靴のヒール』です。細いヒールはカッコイイのですが、正直、歩きづらい。しかし、太いヒールは安定感があって長時間立っていられます。林さんの靴のヒールは低めでかなり太いものでした。現場を回っていらっしゃる証拠では?

実生活では、ご結婚していらしてお子さんもいらっしゃる林社長。「男に負けないぞ!」と肩に力が入っている女性が多い中で、女性のメリットを最大限に生かしている前向きな姿勢を今後も貫いて下さい。