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第178回 2004年5月15日放送

長谷川至氏

多くの企業が「選択と集中」や「中国展開」に注力する中で、「多角的経営」と「ASEAN戦略」という独自路線によって絶好調なのがヤマハ発動機である。売上高1兆円を超え、売上、利益ともに2年連続で過去最高を記録している。

ヤマハ発動機といえばバイクの会社というイメージがあるが、実はバイクだけの会社ではない。バイクで培った「壊れない・壊れてもすぐ直せる」の精神から、マリンレジャー用のボートや漁業用の船外機事業、ゴルフカーなどの特機事業なども手がけている。そして驚いたことに、バイクの技術を応用して産業用ロボットまでも作っている!
更にビックリしたことは、売上構成を見ると、半分以上がバイク事業だが、営業利益の内訳はゴルフカーなどの特機事業の方がバイク事業より多い。長谷川至社長は「私達の基幹はバイク」というが、もはやヤマハ発動機はバイクメーカーではなくなってきているようだ。

5/15だが、時代の流れは「選択と集中」。長谷川社長は「アナリストからヤマハ発動機は間口が広すぎるのではないか?」と指摘されることがあるという。それに対して「1つ1つキラッとしているから、多角的にやっていてもいいではないか。こういう変わった会社があってもいいと思う」と答えているそうだ。確かにそれぞれキラッとしている。出荷台数を見ると国内・海外で1位となっているものが多い。

世界ナンバーワンになるために、長谷川社長は会社設立から50年近く守ってきた社内の壁を壊した。その壁は、設計・製造・調達の間に立ちはだかる組織の壁だ。ヨーロッパ・アメリカに計17年過ごした社長にはその壁がよく見えていたそうだ。「これでは効率が悪い。しかし、どうすればいいのか?」と頭を抱えていた時、若い社員から「このタテ社会をヨコにしたい」との提案があった。同じことを考えていた長谷川社長は「この提案に乗るしかない」とGOサインを出した。

5/15社内改革第1号の商品はバイクのアルミのフレーム。このフレームは今までバラバラにパーツを作っていたが、これを1つのパーツで作る「一体型アルミ鋳造」にするというもの。1ヶ月のシミュレーションの後、実行に移した。この時、長谷川社長は上手く行くか「怖かった」というが、それまで4メートルも必要だった溶接が50センチで済んだ。また70も必要だった部品は僅か8つになった。しかも安定感と乗りやすさも向上した。設計・製造・調達の間の見えざる組織の壁を打ち破り、一体となって製品開発に取り組んだことこそが、大胆な改革に結びついたというわけである。

ヤマハ発動機の業績が好調なもう1つの要因がASEAN戦略である。ASEANの人口は5億人。この大きな市場はまだまだ伸びる魅力的な市場とみている。ASEAN諸国では生活水準の向上が著しい。1人当たりGDPが1000ドルから3000ドルの時にバイクが売れるそうだ。その点でASEAN市場はまさに有望なバイク市場となっている。

5/15さらに法的なインフラも整ってきている。今まで国と国の間には規制があったため、国境を越えて自由に物を運べなかった。そのためバイクも、国ごとに仕様を変える必要があったという。しかし、ASEANという経済ユニットが固まり、物を自由に国から国へ移動することが出来るようになったことから、今まで不可能だったASEAN共通モデルのバイク「MIO」が誕生した。共通モデルの投入は、コストの削減、大量生産を可能にしている。こうした動きがアジアでのバイクの売上急増につながっていたのだ。

もちろんヤマハ発動機は、中国市場にまったく目を向けていないわけではない。今まで中国の北京や上海など都市部の高所得者層を相手にしていたヤマハ発動機だったが、中国政府の政策で、こうした都市部での新車のオートバイを売ることが出来なくなってしまった。そのため所得の低い内陸部へのシフトを余儀なくされた。それだけにライバル企業に比べて出遅れたほか、低価格モデルの開発も遅れ気味だったが、現在急ピッチで追撃しているという。

ただ、中国ビジネスで頭を痛めているのがコピー商品である。ロゴが「YAMAKA」と微妙に違うものから、「YAMAHA」とまったく同じロゴを不正使用しているケースまであるという。こうした問題はあるものの、中国市場が有望であることには変わりがない。ヤマハ発動機では、ASEAN市場をしっかり固めつつ、中国市場に対してはじっくりと腰を据えて取り組んでいく考えである。

語録 〜印象に残ったひと言〜
  • キラッと光る製品を多く抱えていれば多角的経営でも構わない
  • 特色があれば、一風変わった会社があってもいいではないか
  • 従来の組織を壊すのはやっぱり怖いが、それをやらないと30%もコストを削減することは難しい
亜希のゲスト拝見
長谷川至社長の印象をひと言でいうと「どっしりと構えた人」。スタジオでは目の前に人ではなくカメラが並ぶ異空間。初めて来られた方はやはり緊張されるようですが、長谷川社長にはその緊張感が全く感じられない。これまでのゲストの中でも、一番椅子に深々と座られた方だと思います。横浜国立大学ヨット部だったことを彷彿させる体つき、ご実家がお寺だからか、とても落ち着いた語り口でした。

そんな長谷川社長に、放送後、素朴な疑問を投げかけました。「ヤマハ発動機の親会社はヤマハ楽器。オートバイとピアノ。何か共通点はあるのですか?」
実は戦時中、ヤマハ楽器はプロペラの合板を作っていました。戦後、その技術を生かし、ミシンかオートバイの会社を作ろうと思ったそうです。結局、当時の経営者がバイク好きで、オートバイの会社にしたそうです。しかし、もしミシンの会社だったら、ヨットマンの長谷川社長は入社していなかったのでは?社長になり、売上1兆円企業になっていなかったのでは?そう思うと運命って面白いですね。これからも、キラッと光るものを大切に、YAMAHAの名を世界中に轟かせてください。