身体で起こる酸化とは?


我々人間の身体は、常に呼吸によって酸素を取り入れています。
酸素は肺から血液によって運ばれ、全身の細胞へと行き渡ります。
人間にとって酸素とは、細胞でエネルギーを作り出すために、なくてはならないものなのです。
実は、酸素からエネルギーが作られる時に発生するのが活性酸素。
活性酸素は、ただ呼吸しているだけで絶えず、増えたり減ったりするのです。

実際に、活性酸素が発生する様子をご覧に入れましょう。
これは、マウスの脳の断面。
特殊な色素を用いて、発生する活性酸素の量が多い方から順に、赤・黄色・緑・青と色が付きます。
このように、活性酸素は、ただ呼吸しているだけで絶えず、増えたり減ったりするのです。
元来、活性酸素は、寿命が来たり、傷ついたりして不必要になった細胞を分解する、体内に侵入した細菌と戦い、排除するといった生きてゆく上で大切な働きを担っている物質です。

しかし、時にはそれが有毒な物となるのです。それは、活性酸素が余りにも増えてしまった場合。

高輪メディカルクリニック院長・久保明先生に伺いました。

Q:なぜ、活性酸素は増え過ぎてしまうのですか?
久保先生:「日光の浴び過ぎや、タバコ、過激な運動、ステレスなどが、活性酸素が増える原因です。」
Q:活性酸素が増え過ぎた時、身体の中で何が起きるのでしょう?
久保先生:「活性酸素はとても不安定な状態であって、相手を酸化させる力が非常に強いと言われています。その酸化される対象となるものは、脂肪やタンパク質など、私達の身体のほとんど全てなのです。そうすると、通常の働きができなくなってくるのです。」

我々の身体の酸化、それは、細胞が酸化するということ。
細胞の膜に発生した活性酸素が増え過ぎると、その影響で膜を作る脂肪やコレステロールなどの物質が次々と酸化します。
酸化すると、細胞の膜には傷がついて正常な状態でなくなります。やがては、細胞自体も壊れてしまいます。
久保先生:「私達の身体で起こっている酸化は、ほとんどの病気の発症に関係しています。特に、動脈硬化の進行に関係があると言われています。」
動脈硬化の原因の1つが、コレステロールの酸化。
コレステロールが血液の中で増えすぎると、余った分は次第に血管の壁の中へと入り込んでしまいます。
すると、コレステロールを攻撃・排除しようと、血管の壁から活性酸素が発生します。
こうして活性酸素は、コレステロールを酸化させます。
そこに白血球や血小板などが集まり、お粥のような物質に変化します。
この物質によって血管が狭まり、動脈硬化が始まります。
このように、動脈硬化を起こしている場所では、血液の塊である血栓が出来る危険も高まります。この血栓が、もしも、血管の中を移動して、心臓の冠動脈に詰まってしまえば、心筋梗塞に!脳の血管を詰まらせれば脳梗塞に!どちらの場合も、命が危険にさらされます。

久保先生:「身体の中では酸化力が強い物が常に生み出されています。そうすると、当然それを抑えてくれる働きがあるわけです。それが、ビタミンC・E・βカロテンです。これらは、酸化の力を弱めてくれるのです。」
酸化を抑えてくれる物質の一つ、それがビタミンE。
ビタミンEには、活性酸素そのものの働きを弱める活性酸素によって酸化が始まっている細胞の膜が、さらに酸化をしないようにするという2つの働きがあり、身体の酸化を防いでくれるのです。

ビタミンEが防ぐのは、活性酸素による酸化だけではありません。
フリーラジカルという物質が体内で発生する事があります。このフリーラジカルは、活性酸素と一緒に作られる物質。しかも、活性酸素よりも酸化力は強く、毒性も非常に高いものです。 そのフリーラジカル、正確にはヒドロキシラジカルと言います。
ビタミンEの中でも、α・トコフェロールには、このヒドロキシラジカルによる酸化を防ぐ働きがあるのです。
こうして、ビタミンEの抗酸化力によって、私達の身体は、心筋梗塞や脳梗塞の危険から守られているわけです。

身体の酸化を調べる検査


私達の身体がどの程度酸化しているかは、血液と尿から分かります。

東京都港区の高輪メディカルクリニックで行われている「健康寿命ドック」という検査には、体の酸化の程度をチェックするための血液と尿に関する検査があります。
久保先生:「通常の検査ではあまり調べられることのない老化やエイジング(加齢)に関連した検査項目を組み立てたものが、当クリニックでは、健康寿命ドックと呼んでいるアンチエイジング関係のドックです。身体の活性酸素に対するやられ具合、それに対する防御の度合いが全て調べられます。」

まず、身体がどのくらい酸化しているかを尿検査で調べます。
その目安は、尿に含まれる、8―OhdG(8−ヒドロキシデオキシグアノシン)の量。
これは、活性酸素による攻撃を、体の細胞がどれだけ受けているかを確認する検査です。
検査値が低ければ低い程、酸化の度合いが低いというわけです。

そして血液検査では、抗酸化力を担う代表的な物質、ビタミンEが体内にどのくらい存在しているか、その量を調べる事が出来ます。
この血液検査では、3種類のビタミンEの量をチェックしますが、中でも特に抗酸化力の強い、α・トコフェロールの量が多ければ多い程、抗酸化力が強い状態に身体がなっているということになるわけです。
自分の身体で、どれだけ強く酸化が起こっているか、どれだけの防御力を備えているかを知ることは、老化予防の第一歩かもしれません。

抗加齢のランチメニュー


四谷メディカルキューブ(東京都新宿区)という病院の中に、レストラン「ミクニ マンスール」があります。こちらでは、健康に関して特色のある試みを行っています。
それは、3年前からランチに、「アンチエイジング・プレート」というメニューを出していること。
こちらでは、病院で出す食事も作っているため、衛生面への配慮から、残念ながらキッチンの中まではカメラが入れません。

「アンチエイジング・プレート」は、「オテル・ド・ミクニ」のオーナーとして名高い三国清三シェフが、毎月「抗酸化」をテーマに、医師や管理栄養士と内容を決定します。
こちらが、そのメニューです。
デザートを含めて6品。
例えば、鴨のローストに添えられたジャガイモは、抗酸化力の強いビタミンCが豊富。
こちらには、キャベツやたまねぎなど、抗酸化力の強い野菜が使われています。
サラダには、ビタミンEが豊富なアボカド、ビタミン・ミネラルが豊富な麦やミックスハーブがふんだんに使われています。

三国清三シェフ:「1月から12ヶ月まで毎月、その月々の旬の食材を使っています。旬の野菜は一番、抗酸化物質を含んでいるので、アンチエイジングの食事をして、一年を通して免疫力の強い身体を作っていこうというものです。40品目以上入っているので、細かい食材を入れるとだいたい80〜100種類くらいあります。」

しかも、嬉しい事に低カロリー。これだけ豊富なメニューにも関わらず、全部でおよそ550kcal(1食 600g) にしかなりません。

三国清三シェフ:「香草の香りは癒しになります。野菜の茹で方もシャキシャキしていますし、マスタードはすっぱいです。そういったメリハリをつけています。甘い・酸っぱい・しょっぱい・苦いをたくみに使って表現しています。そうすると、味にメリハリが出てきます。」

今回のメニューの中で、特に抗酸化力の強いビタミンEをたくさん含んでいるというのが、アボカドのオイル。
オリーブオイルのように、パンにつけて美味しく頂きましょう。

この「アンチエイジング・プレート」は、評判を呼び、病院関係の利用者ばかりでなく、OLさんを中心に一般の方もたくさん見えています。

ビタミンEはどれくらい摂ればいい?


ビタミンEは、ごく当たり前の食生活をしている限り、めったに不足することはないと言われています。
これは、本当なんでしょうか?
久保先生:「ビタミンEは、もともと脂に溶けるビタミンです。肉類などの脂肪に入っており、脂を摂っていれば、ほぼ不足はありません。日本人は、栄養の25%を脂肪から摂っています。ですから、脂に溶けているビタミンEは不足はしていないと考えられます。」

でも万が一、ビタミンEが不足したら身体の中では何が起きるのでしょう?
まず、影響が現れるのは、赤血球。
活性酸素により、赤血球の膜が傷ついて弱くなり、ついには赤血球が次々と壊れてしまいます。
その結果、かかってしまうのが溶血性貧血という病気。
また、ビタミンEの欠乏は、その抗酸化力が防いでいた様々な命に関わる病気のリスクを高める可能性もあります。

では、アンチエイジング効果を意識すると、ビタミンEは一日に一体どのくらい摂ればいいのですか?
久保先生:「約100mgくらいが適切です。」
アーモンドやたらこ、そして、野菜ではほうれん草にもビタミンEがたくさん含まれています。
アンチエイジングを意識したビタミンEの摂取には、こうした食材と、ビタミンEのサプリメントを上手に組み合わせましょう。
久保先生:「ビタミンEの場合、活性酸素などの酸化ストレスを下げるためには、他の抗酸化物質(例えばβカロチンやビタミンC、コエンザイムQ10)と連携(抗酸化ネットワーク)して効いていると考えられています。ですから、ビタミンEは単独で摂るのではなく、他のビタミンと一緒に摂ることをおすすめします。」

例えば、ビタミンEとCは、どんなネットワークを作っているのでしょう?
脂に溶ける性質を持っているビタミンEは、脂肪で出来ている細胞の外側の膜で、酸化を防ぐ役目を担当します。
一方、水に溶ける性質を持つビタミンCは、水分の多い細胞を酸化から守ります。
こうして、細胞全体を守るネットワークが生まれるわけですね。

ビタミンEとCをバランス良く摂ること。それが、アンチエイジングには大切なのです。
活性酸素は身体を酸化させる悪いイメージがありましたが、不必要な細胞を分解したり、侵入した細菌を排除したり、良い面もあったんですね。
食事やサプリメントで抗酸化の働きをするビタミンをバランス良く摂っていきたいですね。