“痛風”はなぜ男性に多い?


風が吹いただけで痛い!!突然、強烈な痛みに襲われる病気、痛風。
痛みだけでなく、患部が赤く腫れ上がり、高い熱が出てしまうことも!

こちらは痛風患者のレントゲン写真。
足の親指の付け根がコブのように膨らんでいます。
放っておくと、靴も履けなくなり、歩くのもままならなくなるほど。

痛風は、90%以上がヒザから下に症状が現れます。
圧倒的に多いのは、足の親指の付け根。全体の7割以上がここで発症しています。

患者のほとんどが男性というのも痛風の特徴!
Q:一体、痛風はなぜこんなに男性に偏っているのでしょうか?
千代田朋仁クリニック 院長・赤岡家雄先生にその理由を伺いました。

赤岡先生:「男性に多いのはホルモンの関係によるものです。ホルモンの働きにより、尿酸値が女性は低く、男性は高いのです。」
女性は女性ホルモンのエストロゲンのおかげで,痛風の原因物質、尿酸が身体に蓄積されにくく、逆に男性は女性ホルモンが少ないため、痛風が起こりやすくなるのです。
尿酸とは、私達が活動を続ける限り、どうしても身体から出てしまう老廃物のこと。
この尿酸の結晶が溜まりやすいのは、骨と骨のつなぎ目である関節なんです。
関節のまわりは、「関節包」と呼ばれる袋のようなもので覆われています。袋の中は、関節をスムーズに動かすため「関節液」で満たされています。
この関節液は酸性の物質。そのため、同じ酸性である尿酸は溶けずにここで溜まってしまうのです。

例えばこちら、塩酸の入った試験管をご覧下さい。
ここに尿酸を入れると・・・
同じ酸性のため、溶けずに沈殿していくのが分かりますね。
関節に溜まった尿酸は、一定の濃度を越えると結晶化しやすい特徴があります。
しかし、この結晶が直接痛みを発するわけではなく、身体のある反応により痛みが生じるのです。
赤岡先生:「尿酸が増え過ぎると、白血球が体内の異物とみなして攻撃します。」
尿酸の結晶ができたとき、体内では、それを排除しようとして白血球が集まり、攻撃を開始します。
こちらが、実際に白血球が尿酸の結晶を取り囲んでいる写真。
たくさんの白血球が集まって攻撃しているのが分かります。
このとき発生するのが「プロスタグランジン」という物質。
このプロスタグランジンこそ、痛みや炎症を引き起こす真犯人!
つまり、痛風の痛みの原因は白血球の反応だったのです。

Q:ではなぜ尿酸が体内に増えてしまうのでしょう?
赤岡先生:「プリン体を多く含む食品を食べると、体内で尿酸が増えてしまいます。」
プリン体、これは甘いお菓子ではなく、独特の化学構造を持つ物質。
プリン体はあらゆる細胞の核に存在しているため、私達人間はもちろん、ほとんどの食品に存在しています。
このプリン体は身体に取り込まれると、肝臓で尿酸へと作り変えられます。
つまり、尿酸のもとになっている物質がプリン体なんです。
赤岡先生:「プリン体は必要な分は身体で使われます。分解の最後で尿酸となり、腎臓から排泄されます。」
尿として排出されれば、身体には溜まらず、何の問題もないのがプリン体。

しかし!
このプリン体が増えすぎると、尿酸を排出しきれず、痛風の発作を引き起こすことになるのです。

“痛風”に苦しんだ歴史上の人物


痛風に関するもっとも古い記録。それはなんと今から2500年以上前のもの。
医学の父・ヒポクラテスは、その著書ヒポクラテス全集で、痛風を「Podagra(ポダグラ)」と書き記しました。
これはギリシャ語の「足」と「関節炎」を合わせて作った言葉。
また、ヒポクラテスは、痛風の原因は過食や酒の飲み過ぎなど食生活にあるとすでに見抜いていました。

時は流れ、貴族たちが華やかに暮らした18世紀のフランス。
ブルボン朝最盛期の国王・ルイ14世。彼も痛風に悩まされた1人。
美食家として歴史に名を残すルイ14世の料理は、常に300人を超えるコックによって作られ、毎晩、豪華絢爛を極めたといいます。
その生活ぶりから、「食生活が原因で痛風になったのではないか」と言われています。

当時の痛風にかかる上流階級を風刺して描かれた絵には、上流階級の人々は、痛風で手足に包帯を巻かれてもなお懲りずに贅沢を続けるため、痛風の悪魔が足をかじりにくるという様子が描かれています。
このように痛風は、美食を好む上流階級の人々に多く発症することから、「ぜいたく病」と言われたのです。

他にも、万有引力の法則を発見したニュートンや芸術家ミケランジェロ、進化論を唱えたダーウィンなど、歴史に名を残すそうそうたる人物が痛風に苦しんだといいます。

当時のヨーロッパで流行した痛風の治療法・・・、それは東洋医学で使われるもぐさによるお灸。
非常に注意深く患部を診察し、足とヒザの間に20個のもぐさの塊を30分間置くという方法でした。
この治療法は、ヨーロッパ全土に広まり、「MOXA」の言葉がほとんど全てのヨーロッパ言語に根付いたのです。

一方、我が国日本では、戦前まで痛風患者は少なかったと言われています。
しかし経済の高度成長とともに痛風患者は激増!
現在の患者数はおよそ50万人、予備軍は300万人とも500万人とも言われています。
日本においてその存在すら知られていなかった痛風は、わずか60年の間に誰もがなりうる病気になってしまったのです。

“痛風”のクスリ


身体の中の尿酸が増えることで起こる痛風。
そのクスリは、主に痛みや炎症を抑えるものと、高くなった血液中の尿酸値を下げるものがあります。

痛風の痛み・炎症を感じたときに使われるのは「コルヒチン」。
このクスリは、白血球が働いたときに出るブロスタグランジンを抑制する働きがあります。
足の親指などに痛みを感じ始めたときに飲めば、激痛を未然に防ぐことができます。

尿酸値を下げるクスリとして使われるのは、尿酸排泄促進剤と尿酸合成阻害薬。
この違いは、尿酸排泄促進剤は腎臓に作用して尿酸の排泄する量を増やします。
そして、尿酸合成阻害薬の働きは・・・?
赤岡先生:「肝臓で働き、プリン体が尿酸になるのを抑制します。そのため、血液中の尿酸が下がるのです。」
尿酸値が高い場合、尿酸の排泄が少ない人は尿酸排泄促進剤を、尿酸を作りやすい人は尿酸合成阻害薬を、医師と相談して使い分けましょう。
アルコール類を飲む人はトイレが近くなるとよく聞きますが、それで尿酸が排泄されているのかと思ったら逆でしたね。尿酸の排泄が悪くなるので、やはり摂り過ぎは良くないですね。
痛風は女性に少ないとはいえ、普段の食生活を気を付けなければと改めて思いました。