うつ病とは?


「ストレス社会」と呼ばれる現代。
人間関係のトラブルや過労、リストラ、病気など、私達は様々な要因によるストレスを常に抱えています。
こうしたストレスが原因となって、気分が落ち込み、憂うつになる。それは誰にでもあること。

Q:では、そうした気分の落ち込みと、うつ病の違いとは何なのでしょうか?
ひめのともみクリニック 院長・姫野友美先生に伺いました。

姫野先生はストレスが原因の病気・心の病などに関して、数々の著書を出版され、専門医として幅広く活躍されています。
姫野先生:「誰でも気分が落ち込むことはありますが、数日のうちに回復します。ところが、うつ病の方は1日中気分が落ち込み、何もしたくない、何も興味がわかないという症状が続きます。このような症状が2週間以上続いたら、うつ病を疑ったほうがよいと思います。」
落ち込んだ状態が2週間以上続くようなら、それがうつのサイン!

うつ病かどうか、その違いは主に3つの症状から確認します。
1つめは、感情障害。

それまで、大好きで熱中していた趣味やスポーツをしても、「気分が晴れない」「つまらない」「虚しい」としか感じない憂うつ感。
また、「何の感情も湧かない」という、ボンヤリした状態も、感情障害の現われの1つです。
2つめは、行動障害。

積極性や意欲が極度に低下していき、それが行動や態度にも現われてきます。
例えば、仕事や育児に対する意欲が急に失せたり、世間に対する関心も薄れてしまい、新聞やニュースを見るのすら億劫になってきます。
3つめは、自責の念が強くなる事。

物事を悲観的な方にばかりとらえる。これもうつ病の典型的なサイン。
ほんの少しのミスを犯しても、ついつい自分を責めてしまい、「人に迷惑をかけるくらいなら」と、他人に会う事も、ためらうようになります。
これらの症状。それは、特別な人だけのものなのでしょうか?
姫野先生:「うつ病は、生涯有病率は平均してだいたい20%です。つまり、5人に1人が一生のうちで1回はうつ病になる可能性があるということです。」

うつ病になると、生活面でも様々な変調が現れるようになります。
なかでも、鬱病の人に多いのが睡眠障害。
夜中に何度も目が覚めてしまう中途覚醒や、毎日のように明け方、目が覚める早朝覚醒等の症状が現れます。

また、食欲の減退も症状の一つ。
食事が美味しいと思えない、食べても味がしない。やがて、食事をするのも面倒になり、極端な体重の減少を招いてしまいます。

Q:最近、増えているうつ病があるそうですが・・・?
姫野先生:「最近増えているのは、軽症うつ病です。例えば、50代以上の女性で増えているのが空の巣症候群です。」
空の巣症候群とは?
多くの女性は、結婚、出産を経て家庭を築き上げる。つまり、自分の巣を作って行きます。
ところが、50歳を迎えるあたりで、子供は巣から旅立ち、夫も仕事で忙しく、巣に戻って来なくなる。
すると、家庭という巣の中に、自分1人が取り残されてしまう。
何のために巣を作り上げたのか?と感じるようになり、気分が滅入っていくのです。

一方、中年男性の軽症うつ病で増えているのが・・・、
姫野先生:「男性の場合は、燃えつき症候群が増えています。例えば、自分が大きな仕事の責任者になり仕事を一生懸命頑張る。そして、それをやり終えた後、急速に燃えつきてしまい、まさかあの人がというような人が、うつ病となるケースがあります。」
こうした症状があった際は、何科で診療を受けるべきでしょう?
姫野先生:「うつかもしれないと感じたとき、精神症状が強い場合は精神科、身体症状が強い場合は心療内科で診断するのが良いでしょう。」

何か変だな、憂うつだなと感じたら、病院を訪ねてみる。それが、うつ病から身を守る第一歩です。

どうしてうつ病になる?


うつ病になる。それは決して、心が弱いせいでも、他人に甘えているわけでもありません。
うつ病の原因。それは、脳の中にある神経伝達物質のバランスの乱れにあります。

私達の脳。その仕組みを見てみましょう。
人間の脳は、無数の神経細胞から成り立っています。
私達が普段、笑ったり、怒ったり、泣いたりする。
こうした感情は、全て脳の神経細胞の間で起きる情報交換によるもの。
しかし、神経細胞は繋がっているわけではなく、ある物質を使って情報の伝達や交換をしているのです。
その際、情報の伝達を受け持つのが、神経伝達物質。
この神経伝達物質が、次の神経細胞に情報を伝える。
この繰り返しによって、思考や感情が生まれてくるのです。

ところが、精神的に大きなストレスがかかると、神経伝達物質の伝達がスムーズでなくなります。
その結果、情報の組み合わせである感情の表現も、うまくいかなくなり、うつの症状が出てしまいます。

こうした、うつの症状と関係のある神経伝達物質は、主に3つ。
1つ目はドーパミン。楽しさや喜び、快感を表現する物質です。
このドーパミンが減少すると、何をしても楽しくない、興味がわかない、何事にもときめかないといった状態に陥ります。

2つ目はセロトニン。精神状態を安定させ、心を落ち着かせる物質です。
このセロトニンが減ると落ち着きが失われ、イライラする等の焦燥感に苛まれます。

3つめの物質はノルアドレナリン。物事に対するやる気や、集中力を起こさせる物質です。
これが減少すると、やる気が出ず、物事の判断力や集中力が低下してしまいます。

うつの症状。これらの神経伝達物質が、精神的なストレスで減少する事によって、引き起こされるのです。

もし家族や友人がうつ病になったら?


うつ病の症状が現れた場合、何よりも家族をはじめ、周りの人のサポートが大切になります。

では、どんな事に気をつければ良いのでしょう?
例えば、うつ病になった人に励ましの言葉を掛けるのは?

大丈夫、しっかりして!頑張って!・・・・
姫野先生:「それは、絶対に口にしてはいけません。本人も頑張らなくてはいけない、でも頑張れない、頑張れない私はなんてだめなんだろうと思っています。期待に答えられない自分は惨めと感じてしまうのです。励ます言葉をかけるのは、追い込んでしまうため逆効果なのです。」

Q:では、どんな言葉で励ませば良いのでしょう?
姫野先生:「ゆっくり休もうね、辛いことがあっても私がついてるから大丈夫、何か辛いことがあったら言ってね、必ず良くなるからね、など受容的な態度で接するのが良いです。」

Q:家に閉じこもりがちな患者さんの場合、例えば好きな映画等、外出に誘ったり、一緒に散歩をしたり、体を使う運動をすすめるのは?
姫野先生:「出かけるとエネルギーを使い、疲れてしまうので、うつには逆効果です。そういうときには家でゆっくり休んでいる方が実は治りは良いのです。」

Q:食欲がない場合も、あまりすすめてはいけないのでしょうか?
姫野先生:「食事をしないと栄養状態が悪くなり、うつが悪化してしまいますので、食事はきちんと摂るようにしてください。そのときには、食べやすいような形で本人の好きな物をバランスよく3食食べるようにして下さい。」

Q:また、周囲の環境づくりにはどんな音楽や、どんな色使いが良いのでしょう?
姫野先生:「うつの時には、気持ちを落ち着かせる静かな曲、親和性のある音楽が良いです。色は青や緑、パステルカラーなどの落ち着く色が良いでしょう。」

うつ病の患者さんの心はデリケート。周囲の皆さんは細かい配慮を忘れずに、しっかりサポートしていきましょう。

うつ病のクスリ


憂うつな状態が長く続く、うつ病。
その原因は、脳の神経伝達物質がうまく働かないことです。

Q:では、治療には、どんな薬を使うのでしょう?
姫野先生:「うつ病に使うのは、抗うつ薬です。抗うつ薬には神経伝達物質を増やす働きがあります。」
現在、抗うつ薬の中でよく使われているのが、三環形・四環形抗うつ薬。
セロトニン・ノルアドレナリン等の、神経伝達物質を増やす作用があり、重度のうつ病にも効果を発揮します。
ただし、これらの薬は効き目の強力な反面、副作用も大きいという弱点があります。
具体的にいうと、便秘になったり、口が渇きやすくなるのです。

しかし、近年になって、SNRIと呼ばれる抗うつ薬が新たに開発され、広く使われるようになってきました。
SNRIも、セロトニンやノルアドレナリンを増やす作用がありますが、副作用が少ないという長所があります。
Q:その効き目は、どの程度のくらいで現れるのでしょうか?
姫野先生:「抗うつ薬を飲んで、2〜4週間で効き目が出ます。」

Q:その他、抗うつ薬を使う際に注意すべき事は?
姫野先生:「薬を飲み始めたら、勝手にやめてはいけません。症状が安定してから半年間はきちんと服用して下さい。それから徐々に減らして、最終的にやめます。だいたい1年間必要です。突然やめるとリバウンドがきて、もっと治りづらくなりますので、決して薬を勝手にやめることはしないで下さい。」

うつ病は薬を正しく飲めば必ず治る病気です。
医師の指示に従い、正しく服用する事を忘れないで下さい。
自分自身が日頃あまり気付かなかった小さなことにも感動するって大切ですね。
日々笑ったり感動したりしてストレスを溜めないようにしたいですね。