ビタミンCの働き


私達の身体を病気から守っているビタミンC。
でも、身体の中で、具体的にどんな働きをするのでしょう?
高輪メディカルクリニック院長・久保明 先生に伺いました。

Q:例えば、風邪の予防にビタミンCはどう働くのですか?
久保先生:「風邪の細菌・ウイルスを細胞が取り込んで退治します。」
外部から、身体に侵入してきた細菌に立ち向かう、白血球などの細胞は、細菌を食べて殺菌しています。
この時、白血球の中には食べた細菌を消化するため、活性酸素が作られます。
しかし、この活性酸素、細菌の消化と同時に白血球も傷つけます。
この時、ビタミンCは、活性酸素によって白血球が傷つかないよう守る働きをします。
久保先生:「ビタミンCは、殺菌作用の手助けをします。」

ビタミンCには、美肌効果もあるとされますが、そこではどんなことが?
キメ細かく美しい肌。このキメは、コラーゲンによって保たれます。
したがって、肌のコラーゲンが減れば、キメも失われます。
このコラーゲンを作る手助けをするのが、ビタミンC。
ビタミンCの働きで、美しい肌は保たれているのです。

ビタミンCの、この働きには、更に大切な役割もあります。
それは、丈夫な骨を作ること。
骨を丈夫にするために、カルシウムと並んで、コラーゲンは非常に重要なのです。
 
この大腿骨の写真で、細かく映っているのがコラーゲンの繊維。

もし、体内のビタミンCが不足して、このコラーゲンの繊維が十分作られないと、骨は極端にもろくなり、最悪の場合は、ちょっとした衝撃で、このように簡単に折れる事すらあります。
コラーゲンの生成を助けるビタミンCの働きは、骨が年齢と共にスカスカになる骨粗鬆症の予防にも重要な役割を果たしているのです。
更に、アルツハイマー病の予防にも、ビタミンCは深く関わっていました!
久保先生:「ビタミンCとEを多く摂取している方は、アルツハイマー病が少ないという研究発表が数年前に出ています。」
アルツハイマー病は、脳全体が次第に萎縮して行き、脳の様々な機能が失われてしまう病気。
記憶力や判断力などが失われてゆき、物忘れをはじめとする、認知症を引き起こします。
アルツハイマー病の原因は、アミロイドβという不要な物質が、活性酸素の働きにより、脳の神経細胞に溜まってしまうこと。
久保先生:「ビタミンCは、活性酸素の悪い働きを抑えて、不要な物質が脳に溜まらないようにします。それにより、アルツハイマー病を予防します。」

ビタミンCが活性酸素の働きを抑える時、実は、ビタミンC自体も傷ついています。
しかしこの時、ビタミンEの助けがあれば、Cは修復されます。
つまり、ビタミン同士の連携で、アルツハイマー病の発症が抑えられるのです。

更に、心筋梗塞の予防にも、ビタミンCは役立っています。
発作を起こせば、突然の死に繋がることもある心筋梗塞。
それは、心臓に血液を送る血管が詰まってしまう事が原因です。
この、心臓の血管が詰まるもととなるのが動脈硬化。この動脈硬化の進行を早めるのも活性酸素。
ビタミンCは、ここでも活性酸素の働きを抑えて、動脈硬化の進行を抑えます。
それが、心筋梗塞の予防へと繋がるわけです。

ビタミンC≠サれは、命に関わる様々な病から、私達の体を守っている、非常に重要なものなのです。

ビタミンCの発見


人類が大きな船で、大海原を渡り始めた大航海時代。

船乗りたちの間で、歯茎から出血を起こし、次第にやせ衰え、ついには死に至るという原因不明の病が蔓延しました。
その病みとは、「壊血病」。

1498年、アフリカ最南端の喜望峰を船で回り、ヨーロッパ人として初めて、インドへ到達したバスコ・ダ・ガマ。
その成功の陰には、悲惨な犠牲者も・・・。
ポルトガルとインドを往復する航海の最中、160人いた乗組員のうち、実に100人近くが壊血病で命を落としていたのです。
この原因不明の死の病は、船乗りの間で、海賊以上に恐れられていました。

18世紀半ば、イギリス海軍で船医をしていたジェームズ・リンド。
彼の乗り込んでいた船でも、壊血病の犠牲者は後を絶ちませんでした。
船医であるリンドの悩みは尽きません。
「この事態を何とかしなければ・・・」。
1753年、リンドは同じ船の乗組員でも、壊血病になる者と、ならない者がいる事に気づきます。
「壊血病は食事が関係しているのではないか?」
リンドは早速、乗組員を2つのグループに分け、違う内容の食事を2週間続けて食べさせる実験を試みました。
すると、ある食材を食べていたグループには壊血病が発生していない!
その食材とは、レモンやライムといった柑橘類でした!
この報告を受け、イギリス海軍は柑橘類を積極的に食べるよう、乗組員に呼びかけました。
すると、壊血病が劇的に減少したのです。
後に、イギリス海軍が世界の海を制覇し、大英帝国を築いたのも壊血病の予防に成功したからとも言われています。

一方、イギリスと同じく、無敵艦隊を誇ったスペイン。
やはり、壊血病に苦しんでいたスペインでは、植民地から持ち帰った、ある食材が効果を発揮しました。
それは、南米原産のジャガイモ。
ジャガイモもまた壊血病を防ぎ、さらに長い航海でも保存が利く食べ物として乗組員の間で、非常に重宝しました。

しかし、柑橘類やジャガイモのどの成分が壊血病予防になるのか判明したのはなんと20世紀に入ってから。
1910年代、ヨーロッパで、人間の体内で不足すると病気を起こしてしまう成分を、ビタミンとして定義しました。
その後、研究が進み、ビタミンA、Bが相次いで発見されました。

やがて1928年、ハンガリーの生物学者ジェルジが、柑橘類、ジャガイモに含まれる成分、ビタミンCを発見します。
このビタミンC、正式な名前はアスコルビン酸。
実はこの名前は、「壊血病に対抗する酸」という意味にちなんでつけられた物なのです。

老化予防のクスリ ビタミンC


2006年の4月、身体の中でビタミンCが不足すると、老化がなんと4倍も早く進むということを、日本の研究グループが世界で初めて科学的に立証しました。
この研究発表、アメリカで権威のある医学誌に掲載され、現在、世界でも大きな注目を集めています。
その研究チームのお一人に、お話を伺いました。
東京都老人総合研究所・石神昭人先生。

Q:ビタミンCが不足すると、どうなるのでしょうか?
石神先生:「人間の1日に必要なビタミンC摂取量は、厚生労働省の基準によると100rです。それから換算すると、1日に2.5rしかビタミンCを摂らないと、3年後に10人に1人が亡くなる可能性があります。」
石神先生は、人間と違い、身体の中でビタミンCを作ることが出来るマウスを研究することによって、この事実を明らかにしました。
マウスは年を取ると、徐々に身体の中でビタミンCを作る量が減って行きます。
それは、ビタミンCを作るために欠かせないタンパク質が老化とともに減ってしまうため。
正常なマウスと、ビタミンCを作るタンパク質を最初から持たないマウスを比べてみると、ビタミンCを作れないマウスでは、普通に活動するだけで、後ろ足が自然に骨折するという現象が起こっていました。
正常なマウスと比べ、骨が細くもろくなっているのです。
更に全身の骨格を比べても、同じ時期に生まれたはずなのに、ビタミンCを合成出来ないマウスでは、細く小さいのです。
そして、このマウスは、普通のマウスのわずか四分の一の寿命しかなかったのです。
しかも、何かの病気によるものではなく、人間の老衰とよく似た状態で死亡しました。
身体の中のビタミンC不足が続くと、老化は四倍も早く進むのです。
こうして、ビタミンCの十分な摂取が老化の予防に繋がるということが、世界で初めて証明されたのです。
石神先生:「ビタミンCは、筋肉に非常に多く含まれていることが分かっています。しかし、筋肉の中でどのような働きがあるのかはまだ分かっていません。最近の私達の研究で、ビタミンCが不足したマウスは非常に筋力が衰えている結果が出ているため、高齢者の筋力低下はビタミンCの不足が関係しているのではないかと考えています。」
今後、研究が更に進めば、ビタミンCによって体力を維持し、老化を予防できると期待が高まっています。

今まで意識してビタミンCを摂ったことがなかったので、これからは積極的に摂取しようと思います。
ビタミンCは肌に良いということは知っていましたけど、アルツハイマー病の予防にもなるとは驚きました。