“風邪”の名称



風邪は正式には、「風邪症候群」といいます。
風邪は主にウイルスが、鼻や喉などの呼吸器系に侵入して感染する病気の総称です。
ウイルスが原因だから、風邪を引いた人が近くにいると、咳などでうつってしまうのですね。
風邪は他にもこんな呼び方があります。
「感冒」
風邪の症状である呼吸器系の炎症疾患を総称して「感冒」と呼んでいます。
これは、ポルトガル語の風邪を意味する“Canbo(カンバウ)”に由来し、ポルトガル語が伝わった1500年代の安土桃山時代から使われているといわれています。
この「感冒」は、昔は「寒冒」と書くこともあったそうです。

“風邪薬”の歴史


「風邪」と考えられる病について、日本の書物に記されるようになったのは、今からおよそ1000年前。

平安時代に書かれた日本書紀と並ぶ歴史書「日本三大実録」。
こちらには、「京の都では、身体を患う人が多く咳もはやり、多くの人が亡くなった…」
当時は、風邪にあたる症状を、「咳が逆さま」と書いて表していたようです。

同じ平安時代の絵巻物にも風邪に苦しむ人のようすが描かれています。
風邪は、昔から人々を苦しめていたようです。

日本では、平安時代から江戸時代にかけて風邪をひいたときによく使うある3種類の食べものがありました。
一体何だと思いますか?
キーワードは、「硫化アリル」。殺菌作用や発汗作用のある成分です。ヒントは3つとも野菜。

1つ目は、日本最古の医学書「医心方」に記されています。
今でもおなじみのその食材とは・・・?
“にんにく”!
医心方によると、にんにくには「風邪を除き、毒気を殺す」とあります。

残りの2つはなんでしょう?
紫式部によって書かれた「源氏物語」に2つめの食べ物の答えがあります。
重い風邪に耐えられず、草を熱して薬として飲む臭いがとてもクサイ・・・。
その正体は、“ニラ”!
ニラもにんにくと同じく風邪で弱った身体に効き目があると考えられていたのです。

では、江戸時代に使われていた3つめの食べ物は?
1712年に儒学者・貝原益軒によって書かれた「養生訓」。
こちらに最後の答えが書かれています。
風邪のときには、「セイキョウ」を薬として、1回にひとかけ飲めば寒さや風邪を防ぐ・・・。
そのセイキョウというのは…?
“ショウガ”!
日本の先人たちが風邪をひいたときに使った野菜で記録に残るのは、にんにく、ニラ、そしてショウガ。
今でも風邪を治すためによく使われているものばかりでした。

風邪の原因の発見


寒〜い日には身体が冷えて風邪を引く・・・。
人々は昔から、風邪の原因を「寒さ」だと考えてきました。

しかし、時々大流行する風邪。
「寒さ」だけでは説明のつかないこともあり、世界中の研究者は風邪の原因を突き止めるために長い時間を費やしてきたのです。

1932年。
ノルウェー北部の北極に近いある島で画期的な研究結果が報告されました。
この島では冬になると海が凍り、船が行き来できなくなって他の島との交流が途絶えてしまいます。
凍えるほどの寒さの中、風邪を引く人はほとんどいませんでした。

ところが、暖かい春になってまた他の島から船が着くようになると、風邪を引く人が出てくるようになったのです。
つまり、風邪の原因は寒さではなく、人から人への感染であることが調査結果として分かったのです。

では、なぜ風邪は人を介して感染するのか?
世界中で研究がすすめられました。
イギリスにある「風邪」専門の研究機関、その名も「風邪研究所」のティレル博士。
彼は風邪を引いた人の鼻水を、他の人に鼻から吸い込ませ、実際に風邪の症状が出るかどうか見るという実験を行いました。
この結果、多くの人が風邪を引き、風邪を引いた人からはかなりの確率で同じウイルスが発見されました。
それが「ライノウイルス」。これこそ、風邪の原因となる代表的なウイルスです。

さらにティレル博士は、それまでに発見されていたアデノウイルス、コロナウイルスといった別のウィルスも風邪を引き起こすことを発見しました。
このことから風邪の症状は、一つのウイルスではなく、複数のウイルスによって引き起こされることが分かったのです。

以来、今日までに風邪の原因となるウイルスが次々に発見され、その数は200以上になるといわれています。

風邪の症状はどうして起こる?


熱や咳、いろんな症状に悩まされる風邪。
私達は風邪のウイルスにどのように感染してしまうのでしょう?

東京臨海病院 副院長・松本孝夫先生にうかがいました。

松本先生:「感染経路は、空気中のウイルスを吸い込む空気感染もありますが、頻度が高いのは接触感染です。」

直接触ったことで移る接触感染。
例えば、風邪を引いている人がオフィスで電話を使ったとします。
すると、受話器には風邪の原因となるウイルスが付着します。
その電話を別の人が使うと、ウイルスはその人の手にくっつきます。
松本先生:「ウイルスが付いた手で、自分の目や鼻をこすったり、粘膜を触ったりして感染することが多いのです。」
そして、ウイルスは生きたまま人の細胞の中に入り込み活動を続けるのです。
では、風邪を引くと咳や鼻水など、いろんな症状が出てくるのは何故でしょう?
松本先生:「粘膜に感染すると、炎症を起こしてしまいます。そうすると、鼻水や喉の痛み、発熱などの症状につながっていくのです。これは、感染に対する身体の防衛反応の一つなのです。」
鼻や口から侵入して細胞に取り付いたウイルスは粘膜の炎症を引き起こします。
すると、炎症と同時に鼻水や咳、痰といった風邪特有の症状が出てくるわけですが、この鼻水は、鼻に付着したウイルスを流し出すために出るもの。
そして、痰は喉のウイルスを外に出すために出るもの、と症状にはそれぞれ理由があるのです。
つまり、これは身体がやっかいなウイルスを外に出すための防衛反応。
だから、熱が出るのにもちゃんと訳があります。
風邪のウイルスが身体の細胞に入り込むと、それを撃退するために血液中の白血球が働きはじめます。
実はこの白血球、最も活発に活動するのは37度前後なのです。
松本先生:「一般的に、風邪は高い高熱が出ませんが、まれに高熱が出る場合があります。そのとき、乳幼児や高齢者のように抵抗力のない人が、高熱が長く続くと体力を消耗してしまいます。この場合は、薬を使って熱を下げる方が良いでしょう。」
風邪は万病の元。特に気を付けなければならないのが・・・
松本先生:「高熱や、激しい咳や濃い色の痰が出る、全身のだるさ、食欲不振などの症状が強くなると、風邪といえども肺炎などの合併症を起こしていないか注意する必要があります。」
日本人の死亡原因で肺炎が第4位となっており、このうち、9割は65歳以上の高齢者です。
抵抗力が落ちてくると、風邪をこじらせて肺炎を引き起こすことが多いので要注意!
風邪を引いてしまったら、上手に薬を使って安静にし、少しでも軽く済ませることが大切です。

“風邪薬”の正しい飲み方


風邪を引いてしまった!熱がある! 喉が痛い! 咳が出る!!
いろんな症状があるとき、一体どんな薬を選べばいいのでしょうか?

薬剤師・高橋洋一さん

高橋さん:「一番重い症状から順番に伝えて頂くと良いです。これによって、薬の成分の配合の比率が違う薬を選ぶ場合もあります。薬剤師にうまく伝えて頂きますと、症状に合った薬を選ぶことができます。」

では、症状別にみていきましょう!
まずは、発熱、喉の痛みを伴う風邪には・・・?
イブプロフェン配合の風邪薬がおすすめ!
風邪のウィルスが体内に侵入したとき、これを撃退する白血球が活動しやすくなるように熱が出てきます。
このように熱は、身体の防衛反応なのですが、発熱が長く続いて消耗するときは、熱を下げる働きがあるイブプロフェンで辛さを取り除きましょう。

イブプロフェンは炎症を抑える働きもあるので、喉の痛みにも効果的。原因となる腫れも鎮めてくれます。

咳や痰が出る風邪には・・・?
塩酸ブロムヘキシン配合のお薬を!
ウイルスが喉に侵入すると、これを外に出そうとして痰がたまります。
このまま放っておくと、痰が奥に入り込んで肺炎を引き起こす可能性もあります。
塩酸ブロムヘキシンは、痰の切れをよくして出しやすくする働きがあります。

さらに、薬剤師さんおすすめの方法が!
高橋さん:「風邪薬と一緒に、栄養ドリンク(滋養強壮剤)を併用すると非常に効果的です。」
滋養強壮剤、いわゆる栄養ドリンクは、風邪で消耗した体力を補い、風邪が早く治る手助けをします。
高橋さん:「滋養強壮剤を選ぶポイントは、カフェインが入っている物とそうでない物とで分けて頂くと良いです。例えば、風邪の症状があっても仕事をしなければならない場合、風邪薬の眠気を打ち消すという意味でもカフェイン入りの物でも良いと思いますが、一日休める場合にはカフェインの入っていない物を選ぶと良いでしょう。」

風邪を引いてしまったら、自分の症状に合わせてうまく薬を使い分けるのが早く治す近道です。
“感冒”という言葉が、ポルトガル語からきているなんて驚きました!
やはり基本中の基本、外出から帰ってきたら必ず手を洗う!!これは大切なことですよね!