夏目漱石と「肩こり」


皆さんは、肩が“こる”という言葉を最初に使ったといわれているのは誰だかご存知ですか?
それは、明治時代の文豪、夏目漱石です。
漱石は「吾輩は猫である」や、「こころ」などの作品で広く知られていますよね。
その漱石が、明治42年に発表した「門」という小説の中に、肩に対して“こる”という言葉が初めて使われています。
その歴史的な名場面が書かれているのが、この一節です。
『・・・指で圧して見ると、頸と肩の継目の少し背中へ寄った局部が、石の様にこ凝ってゐた。・・・』

肩が“こる”という言葉が使われる前は、肩が“張る”と言われていたそうです。
当時、漱石のこの小説は新聞に連載されていたので、漱石の小説を通じて肩が“こる”という言い方が日本中に広まったそうです。

「肩こり」のクスリの歴史


肩がこる!
この肩こりの症状は、古くから日本人を悩ませ続けてきました。

コリをほぐす方法として古来から行われていたのは「揉み療治」。
今からおよそ1300年前の奈良時代から「揉み療治」はすでに広まっていたといわれています。
奈良時代の大宝律令を改訂して作られた「養老令」では、揉み療治である「按摩」を学問の一つとして位置付け、積極的に奨励していました。

さらに肩こりに効く治療法といえば、日本古来の入浴法「打たせ湯」。
高いところから温泉を肩にあてることで、コリをほぐすマッサージの効果があったのです。

そして江戸時代には、肩こりに効くとクスリと言えば「葛根」。
葛根は葛(くず)の根から作られた漢方薬。
現在でも解熱作用があることで知られていますが、血行を良くして発汗を促す作用があるので肩こりにも効果があるのです。
江戸時代の人々は、葛根を煎じて肩こりの薬として飲んでいたと言います。

日本人を悩ませてきた肩こり。
先人達は、このコリから逃れるためにいろいろな努力を重ねていたようです。

なぜ肩がこる?


一体なぜ肩がこるのか?
つらーい つらーい肩こり、なんとかならないものなのでしょうか?
肩こりの疑問にお答えいただくドクターは、日中友好会館クリニック 所長 関直樹先生。
先生はこれまで数多くの肩こりの方を診察し治療をしてきました。
Q:肩は一体どうしてこるのですか?
関先生:「肩こりのキーワードは緊張です。緊張でも、筋肉の緊張と精神的な緊張があります。」
例えば、長時間無理な姿勢で働いていたり、重い物をずっと持ち続けた場合などは、肩の筋肉、特に首筋から肩にかけてある僧帽筋という大きな筋肉が緊張し、縮んだ状態になります。
筋肉が縮むと、筋肉の中にある血管も圧迫されて収縮し、血流が悪くなります。すると、血管の中に疲労物質である乳酸がたまってきます。
この乳酸が、肩の筋肉いっぱいに溜まってきたときに肩にはいろいろな症状があらわれるのです。
例えば、肩がこわばってきたり、張った感じがする、どうも重苦しい・・・といった肩こりの症状。
そしてこの状態が続くと、筋肉の中の乳酸はどんどん増え続け、肩こりの症状もひどくなります。
実は、この乳酸は筋肉に炎症を起こします。そのため、症状もコリから痛みへ変わっていくのです。
Q:精神的な緊張と肩こりは、どう関係しているのですか?
関先生:「例えば、難しい会議にずっと出席しているとか、あるいはパソコンのキーボードを打ち続けているなど、大事な仕事を間違えずに早くやらなければならないというような精神的なプレッシャーで緊張して、その緊張が脳のセンサーを過敏にするのです。」
長い時間、ただパソコンを打っているだけでも筋肉の緊張で肩がこってきます。
そんなとき、筋肉の中には乳酸がたまっています。そこに、精神的な緊張が加わると、肩のコリを感じる脳のセンサーが必要以上に敏感になり、少しのコリでも過剰に反応してひどく肩がこったと感じてしまいます。
精神的な緊張が筋肉の緊張による肩こりを増幅させているということです。
Q:では、肩こりが女性に多い原因は?
関先生:「一つは体格の問題です。肩こりは、筋肉の質や量に影響されます。」
つまり、一般に筋肉が少なくて、しかも弱い女性は男性よりも肩がこりやすいということになります。胸の重みで肩こりを感じる女性もいるそうです。

肩こりは、筋肉の緊張と精神的な緊張が重なり合って作られているのです。

一人でできる「肩こり」を和らげる方法とは?


手軽で簡単!一人でもできる肩こりを和らげる方法をご紹介しましょう。
関先生:「いわゆる肩こり体操と言われるものがありますけれども、それはストレッチなのです。肩こりには、ストレッチをすると良いです。首をゆっくりグルグルと回すのもストレッチになります。一番良いのは、ギューっと肩に力を入れて、その後ストンと力を抜くという動きです。そうすると、ギューっと筋肉が縮んでスッと力を抜くという動きが自分自身でマッサージをしたことになるのです。」
肩こりの最大の原因は、筋肉の緊張です。
筋肉の緊張によって、肩の血管が収縮し、乳酸が溜まってしまうことで肩こりは起こります。
そこで、自分で肩の筋肉に力を入れたり抜いたりすることで肩の筋肉をもみほぐし、収縮した血管を元に戻すことができるのです。
血管が拡張すれば、血管内の乳酸は血流によって洗い流されます。
その結果、肩こりが和らぐというわけです。

「肩こり」のクスリ


肩こりを和らげる薬。その種類は様々です。
湿布薬、ローションタイプの塗り薬、そして、軟膏。
これらは、肩こりにどんな効果があるのでしょうか?
桑原さん:「肩こりの薬には、血行を良くする薬と、こりによる痛みを和らげる薬が入っているのが普通です。」
湿布薬の代表的な成分は、インドメタシン。
痛みを強める物質が作られるのを抑え、痛みの元を取り除きます。
また、湿布薬には唐辛子の成分カプサイシンも使われていて、その刺激で血行が良くなると肩こりが和らぎます。
桑原さん:「貼り薬が苦手な方には、塗り薬もあります。塗り薬の良いところは、簡単に使えて、清涼感があるところです。」
ローションタイプの塗り薬はさらっとして使い心地がさわやか!
軟膏タイプの塗り薬は、ひどい肩こりにすりこむと効果があります。
ひどい肩こりの時は、肩の筋肉に乳酸が溜まった状態が長く続き、炎症が起こっています。この時、ローションタイプや軟膏の薬を塗ると、その中に含まれたピロキシカムという成分が炎症を鎮め、ひどいこりや痛みを抑えてくれるのです。

また、肩こりのための飲み薬もあります。
主に配合されている成分はビタミンEとビタミンB2。
ビタミンEには、血管を拡張する作用があり血流を改善します。
また、ビタミンB2には、筋肉の再生を助ける作用があります。
そのため、こりによってダメージを受けた筋肉を元通りの健康な状態にしてくれます。
さらに、ビタミンEとB2に加えてγ-オリザノールという成分が含まれている薬があります。
γ-オリザノールは、血流を良くするとともに、更年期における肩や首筋のこりを緩和してくれる働きがあるのです。
湿布薬と飲み薬を一緒に使って効果的に肩こりを和らげることもできます。
薬を上手に使って、やっかいな肩こりとさよならしましょう!
“肩がこる”という表現をした夏目漱石はすごいですね。それまでは“肩が張る”という表現をしていたそうですが、私も昔肩が張ったことがあって、肩がこるということとは感覚が微妙に違うんですよね。
私は昔、肩こりがあったんですが、運動するようになってからこらなくなったんです。やはり、身体の中の状態と関係があったのですね。これから肩がこることがあったら、症状に合わせて薬を選ぼうと思います。