漢方薬とは?


漢方薬とは、具体的にどんな薬なのでしょう?

三浦於菟先生

三浦先生:「漢方薬とは、昔から使われている生薬を配合したものを言います。例えば、いわゆる紅花(べにばな)と言われるものは漢方的にはコウカと呼ばれ、血の巡りをよくする働きがあります。そして、陳皮(チンピ)。古い皮という意味ですが、これはミカンの皮で、健胃作用があります。このような生薬が何種類か組み合わされて漢方薬として使用されるわけです。」

漢方薬を選ぶ時、大切なのは「証(しょう)」と呼ばれるもの。
三浦先生:「東洋医学的な見方から見た病気の姿・実体を“証”といいます。」

「証」は、問診・視診によって分かった体質や病気の症状、さらに患者の体格を見て、漢方の専門医が判断するものです。
この証はどの薬が適しているかを選ぶ基準にもなります。

漢方薬はいつから使われ始めた?


“漢方薬”。その名は、江戸時代につけられた、日本独自の呼び方。
「漢」は漢民族を意味し、「方」は当時、医術の意味で使われていました。
二つの言葉を組み合わせた、造語だったのです。

漢方薬は、今からおよそ2200年前、紀元前200年代、中国・前漢時代に端を発しています。v
このとき、初めて漢方薬に関する文献が編纂されたのです。
文献の名は「傷寒論(しょうかんろん)」。
病の症状を細かく分け、それぞれの病に適した漢方薬の処方の仕方を細かくつづったものでした。
例えば、同じ頭痛でも、痛みと共に汗が出る場合と、出ない場合では違う漢方薬を使うといった解説がなされています。

こうして、世に広まった漢方薬は、6世紀、日本へも伝わります。
漢方薬に注目したのは、大和朝廷の摂政・聖徳太子。
仏教に深く帰依していた聖徳太子は、貧しい人や病人を救う慈悲の心から、現在の大阪の地に、四天王寺を建立しました。
この四天王寺の境内には、貧しい人々を救うため、施楽院、悲田院、敬田院、療病院と、4つの施設が設けられていました。
このうちの施楽院は、漢方薬の原料となる様々な植物を育て、調合し、そして病の人々に処方する施設でした。

それから200年近く時は流れて、平安時代。
桓武天皇の命により、我が国独自の薬学の文献が編纂されました。
それが808年に完成した「大同類聚法(だいどうるいじゅほう)」。
そこには・・
例えば、咳を鎮める作用を持つものとして「キキョウ」。

強壮作用のあるとされた「トウキ」、腸の働きをよくするとされた「サンショウ」など、多数の生薬の効果、病気の症状に適した処方の仕方、さらに生育地までが詳しく記されていました。


この文献は、中国古代の薬学に頼るのではなく、日本独自の薬学の展開へ向けて、新たな歩みが始まっていた事を感じさせます。

こうして、中国から伝わった薬の技術や学問は、日本の風土や土地柄に合わせつつ、次第に、我が国に根付いていったのです。

漢方薬に使われる生薬の分類


漢方薬とは、生薬が組み合わされたものです。
最古の薬物書「神農本草経」には、365もの漢方薬の材料となる生薬が3種類に分類されていました。


上薬120種は、長期間飲んで健康を保つ薬。
副作用がないので長期間飲むことができます。生命力を高める作用があるもので、病気を予防するための薬です。
中薬120種は、病気を治して元気にする薬。
副作用が弱く、生命力を高めるものと病気を治すものがあります。現在の一般的な薬(市販薬)にあたります。
下薬125種は、病気の治療に使います。効果が強い分、副作用も強いので、病気が治ったら飲むのをやめましょうと言われていたようです。現在の治療薬にあたります。

現在の医療用漢方製剤に使用されている重要生薬のほとんどが揃っています。

漢方薬を積極的に使った有名武将


今から450年程前の戦国時代後期。
漢方薬の開発に熱心だったのは、政治権力を握った有力武将達でした。
この時代、天下の覇権を握ったのが、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の3人。
3人はそれぞれに、薬へのこだわりを見せています。

織田信長は漢方薬だけでなく、西洋の薬草にも、いち早く興味を示しており、宣教師に命じて、海外から薬草を輸入させます。
そして、岐阜県と滋賀県の県境にある伊吹山で薬草を栽培したと言います。今でもヨーロッパ原産の薬草が残っています。

一方、豊臣秀吉は、曲直瀬道三という漢方医を主治医に迎え、自分の健康管理を命じただけでなく、道三の医療活動の手助けもしています。
曲直瀬道三はその著書「啓迪集(けいてきしゅう)」に、古今の医書から知識を集め、自分の経験を加え、まとめあげました。
この時に著された文献が、後に日本における漢方医学の基礎を作ったと言われています。

そして、薬に関して、3人の中で群を抜いて関心を示したのが、徳川家康。
家康は中国から伝わった薬の処方集を、戦場の場においても、常に持ち歩いていました。
家康が肌身離さず持ち歩いた医学書が、「和剤局方」。
平安時代、中国から日本に伝わった書物で、漢方薬の名前、処方量、調合法等が、詳しく書かれています。
さらに家康は、自ら進んで様々な薬の調合も行うなど、「医学の心得」もあったと伝えられています。
自ら作った薬や膏薬を持ち歩くだけでなく、家康は病気になった家来に分け与えたり、戦場で怪我をした家来に、自ら薬を塗ってやり、相手を感動させたという逸話が幾つか残されています。
家康は、家来たちの心をグッと掴むための隠し技としても、薬を使っていたのです。

薬によって病気ばかりか、人の心までも癒す。
天下統一を志す有力武将にとって、薬とは自らの命と権力を永らえさせるための大切な道具でもあったのです。

現在の漢方薬(夏バテ対策)


Q:まず、夏バテの考え方とは?
三浦先生:「夏バテとは大きく分けて2つあります。1つは、暑さによる多量の発汗で起こる急性の夏バテです。熱中症と言われるもので、ひどい場合には意識障害を起こします。もう一つは、長期にわたって夏バテ状態が続き、その結果、胃腸障害が起こり身体がだんだんだるくなってくる慢性的な夏バテです。」

Q:急性の夏バテに効果的な漢方薬は?
三浦先生:「急性の夏バテによって、頭が痛い、体がほてる、汗が出るという場合には、白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)を使います。」

先生が教えてくれたのが、白虎加人参湯。四種類の生薬からなる漢方薬です。

特に重要な成分が2つあります。
白い虎という薬の名の由来となった石膏。体の熱を取る働きがあります。
そして、人参。人参には、衰えた体を潤し、活力を取り戻してくれる働きがあります。

こうした漢方薬は、どのように服用するのでしょう?
漢方薬はほとんどの場合、直接飲む事はありません。30分程じっくりと煎じて飲みます。

Q:次に、慢性的な夏バテに効き目のある薬とは?
三浦先生:「急性との大きな違いですが、慢性的な夏バテの場合、消化機能が低下します。食欲不振や下痢を起こし、その結果、身体が衰弱していきます。」

清暑益気湯は、九つの生薬からなり、暑さで衰えた体力、特に胃腸の疲労回復に効果を発揮する漢方薬です。
特に、暑さに対抗する体力に乏しい、高齢者の皆さんの場合、日頃から飲み続ける事で、夏バテ予防にもなる薬です。

また、現代社会が生み出した夏バテに効く!そんな漢方薬もあります・・

三浦先生:「クーラーの効き過ぎで、胃腸がもともと弱い人は余計に胃腸が冷えて、いろんな症状が起こってしまいます。その場合によく使われる薬が、安中散です。」

安中散は、昔から胃腸薬として名高い漢方薬。
安中散に含まれる桂皮やウイキョウは、冷房で冷えた体を温め、ボレイ・エンゴサクは、胃腸の働きを回復させてくれます。
こうして、体の内部の機能を整え、栄養の吸収をよくする事で、体力を回復させようというわけです。

三浦先生:「漢方薬には2千年の歴史があります。漢方がなぜ良いのかは、この2千年の経験に裏付けられています。その中で確実に効果が良いというものだけが今まで残っているのです。」

2千年の歴史に裏打ちされた実力。
皆さんもこの夏、漢方薬の効果を、夏バテ対策に取り入れてみませんか?

漢方薬の疑問・注意点


漢方薬の疑問、そして注意することは?

Q:漢方薬と西洋医学の薬を、一緒に飲んでも良いですか?
三浦先生:「一緒に飲んでも心配はありませんが、できれば30分以上、間をあけて飲むほうが良いでしょう。」

Q:色々な種類の漢方薬を、一緒に飲んでも大丈夫ですか?
三浦先生:「一番問題があるのがそれです。別々の薬局で処方してもらうと、お互いの漢方薬の何を飲んでいるかが分からず、誤って処方されることがあります。例えば、下剤と通じを止める下痢止めを一緒に飲むのはいけないなどです。」

Q:一日に飲む量や、服用するタイミングは?
三浦先生:「飲む量はだいたい決まっていますので、薬局でも1回1袋になっていますから、量に関しては問題はないと思います。漢方薬を飲む時間は、食前が一番効果的です。薬の吸収が良く、胃腸にやさしいからです。」

Q:最後に、漢方薬を服用する上で最も大切なポイントとは?
三浦先生:「2つあります。1つは、自分に合った薬を見つけることです。自分に合っていないのにずっと飲んでいる方がいらっしゃいますが、副作用が出ることがあるため、おかしいと思ったら飲むのをやめましょう。中止すれば、漢方薬の副作用は治ります。」

Rie’s オフショット


今回、漢方薬を身近に体験するために、夏バテに効果がある薬膳料理(漢方薬を取り入れた料理)を食べに横浜中華街に行ってきました。

私が行ってきたお店は「青葉新館」。
ここで店長おすすめの薬膳料理を作って頂きました。

まず、“大棗蓮子粥(ハスの実とナツメ入りのお粥)”。このお粥には、枸杞子(クコシ)が入っていて、夏バテの時の体力回復に効果があるそうです。とてもさっぱりしていて食べやすいお粥でした。
そして、“タケノコとユリ根の炒め物”。この料理には、百合(ヒャクゴウ)が入っていて、夏バテの精神疲労を改善したり、クーラーで冷えた身体を温める効果があるそうです。また、肉桂(ニッケイ)も入っていて、夏バテ時の食欲不振の改善や胃腸の調子を整えるという効果があります。

続いてのおすすめ薬膳料理は、“薬膳清蒸人参鰻魚湯(ウナギと朝鮮人参のスープ)”です。
ウナギがブツ切りの状態で入っているのは初めて見ました。疲れが取れそうな気がしました。
どれもおいしくて最高でした。この夏は薬膳パワーで乗り切りたいと思いました!

理恵さんが食べていた薬膳料理を私も食べてみたいです。本当においしそうでしたね!
漢方薬は身体に良さそうだなと思っていましたが、やはり思った通りでした。普段から自分に合った漢方薬を飲むというのも良い事ですね。