#03 2014年4月25日(金)放送 『みだれ髪』明治に恋愛を歌う 与謝野晶子

与謝野晶子

今回の列伝は明治の情熱歌人「与謝野晶子」。やわ肌、乳・・晶子が歌った過激な女性の本音「みだれ髪」に、明治の文壇に大論争が巻き起こる。一躍時代の寵児になるものの、その人生は、かつての師匠であった夫鉄幹からの嫉妬、そして13人の子育て・・波瀾万丈の日々であった。

ゲスト

ゲスト 歌人
東 直子
ゲスト 劇作家
マキノノゾミ
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やは肌の あつき血汐に ふれも見で
さびしからずや 道を説く君

(私のやわらかい肌に触れもしないで、お説教ばかりして寂しくないの?)

まるで男を誘惑するかのような歌は、女性が恋愛を口にすることすらはばかられた明治時代、「結婚=家の存続」と考える明治の人々を驚愕させた。詠んだのは、うら若き女性歌人・与謝野晶子。明治時代一大センセーションを起こした歌集「みだれ髪」の作者です。晶子の言葉は、人々を魅了し、また批判された。

その人生には、あまりにも一途な恋の物語があった。時代の波に流されず、恋を貫き、それを歌にしつづけた与謝野晶子のエネルギッシュな人生を読み解きます。。

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恋愛への憧れ

明治11年。晶子は大阪、堺にある有名な和菓子商の娘として生まれた。「結婚=家の存続」と考えられていた明治時代、商家の箱入り娘である晶子は、将来、有力な家に嫁に行き、商売をよりよくするための存在として育てられた。女学校では、学問より家事や裁縫を学び、夜になると出歩かないよう部屋に鍵をかけられた。そんな中で少女は、ひそかな楽しみを見つける。それは夜、家族が寝静まったとに読む古典文学。特に源氏物語は数え切れないほど繰り返し読んだ。恋愛が許されない中で、めくるめく王朝の愛の物語が、晶子の恋への憧れを育んでいった。

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運命の人・与謝野鉄幹

21歳のとき、晶子は創刊されたばかりの文芸誌「明星」に夢中になる。短歌の革命児・与謝野鉄幹が主宰する明星は、花鳥風月ばかり歌う短歌の伝統を破り、青春の思いを若者がロマンチックに歌い上げていた。それは恋に憧れる晶子の心をひきつけた。そんなある日、大阪で開かれた歌会で、晶子は鉄幹に出会う。理想を高らかに語るその姿、さらに「いい歌を作りたいなら恋をしなさい」という自由な思想の鉄幹に、晶子は恋をする。しかし鉄幹に恋したのは晶子だけではなかった。歌会に参加したもう一人の女性歌人・山川登美子もまた鉄幹に思いを寄せ、さらに彼には東京に内縁の妻までいた。複雑な恋模様に晶子は巻き込まれていく。

「みだれ髪」誕生秘話

遠く離れた東京の鉄幹に、思いを届ける術は短歌だった。晶子は鉄幹への思いを歌を読み、明星に投稿した。離れているからこそ、歌は大胆に、そして官能的なものになっていった。

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病みませる うなじに細き かひな巻きて
熱にかわける 御口を吸はむ

(風邪を引いた鉄幹にあてた歌
「腕枕して、あなたの乾いた口を吸ってしまいたい」)

春みじかし 何に不滅の命ぞと
ちからある乳を 手にさぐらせぬ

(「人生は永遠ではないのだからと、
自分の張りのある胸にあなたの手を導く」)

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歌を通じて晶子と鉄管はお互いの思いを確認しあった。そして晶子は決意する。いずれ知らない人と結婚しなければならない故郷を飛び出し、身一つで東京の鉄幹のもとへ向かったのだ。鉄幹も晶子の思いを受け入れ、2人は結婚する。そのとき鉄幹はあることを勧める。恋をしている間に作った情熱的な短歌を歌集にまとめること、「みだれ髪」の出版だった。「みだれ髪」は出版されるや、若者に絶大な支持を受ける。しかしその一方で女性が恋愛を高らかに歌ったその内容は、文壇の一部の評論家たちには批判され、酷評された。「みだれ髪」が起こした一大センセーションの中、歌人・与謝野晶子は一躍その名を知られるようになってゆく。

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しかし「みだれ髪」の出版は、晶子の結婚後の生活に意外な結果をもたらした。晶子は時代のスターに、一方、夫の鉄幹は歌人として忘れられた存在になっていった。鉄幹は自信を失い、家を出ては浮気を繰り返すようになってゆく。あまりにも違った結婚の理想と現実。晶子にとっても、この恋をあきらめようかという時が幾度とあった。そんな中、晶子はある行動に出る。自らの短歌を書いた屏風を売り、お金を集め、かねてから鉄幹が憧れていたヨーロッパへ送り出したのだ。異国の地で新たな刺激を受けた鉄幹は再び精気を取り戻す。その様子を手紙で知り、「君もおいで」という言葉を読むと晶子は無我夢中で鉄幹を追いかけヨーロッパへと向かった。そして晶子は恋を取り戻したのだ。

2人は11人の子供に恵まれ、生涯を伴侶として過ごした。「みだれ髪」から始まった恋を、晶子は大切に守り、恋に生きることのすばらしさを自らの人生で証明した。そして「みだれ髪」は傑作となったのだ。

六平のひとり言

正直言って、最初は、「恋多き歌人なのかな」、ぐらいにしか思ってなかった。
ところが、実際は、全く違ってた。
精神的にも、肉体的にもものすごく強くて、
それでいて、ユーモアもある。
いやぁ、すごい女性です。

佐藤渚の感動列伝

与謝野晶子にとっての歌は、溢れ出る恋心を開放するツールのようでした。自身の恋模様など恥ずかしくて親しい友人に打ち明けるのがやっとというものだと思いますが、彼女は歌にして全て吐き出してしまう、何とも大胆な女性です。思いの丈を言葉にすれば、モヤモヤとした感情がスッキリと楽になるのかもしれませんが、う〜ん、、真似は出来ませんね。やはり恥ずかしいものです。