#23 チャンバラスター 2014年3月12日(水)放送

嵐寛寿郎「鞍馬天狗」&大河内傳次郎「丹下左膳」
ゲスト

映画評論家 佐藤 忠男

今回のテーマは「チャンバラスター」。日本映画史に燦然と輝く二人の巨匠。嵐寛寿郎と大河内傳次郎。その二人がそれぞれ作りあげ今も愛されるチャンバラ映画のヒーロー「鞍馬天狗」と「丹下左膳」。二人が剣先に込めた美学に迫ると共に、戦後に訪れたチャンバラスター知られざる苦難について紹介します。

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チャンバラスターが作りあげた今も愛されるヒーローたち

刃と刃が当たる音、チャンチャンバラバラからチャンバラと言う言葉が生まれ、無声映画の時代から人々を魅了し続けているチャンバラ映画。大岡越前、清水の次郎長、眠狂四郎など幾多のチャンバラヒーローが生まれた中で今も愛され続けるチャンバラヒーロー「鞍馬天狗」と「丹下左膳」。鞍馬天狗は子どものピンチには颯爽と登場し次々と敵を薙ぎ切る無敵のヒーローとして日本中が熱狂。シリーズ40作を超える国民的ヒーローとなりました。演じたのはアラカンこと嵐寛寿郎。一方、丹下左膳は主人に忠義に異を唱える反逆のヒーロー。隻腕、隻眼という異形のヒーローはスクリーンに強烈な印象を残し観客を虜にしました。時代を超え今も多くの俳優に演じられています。その中でも、有名なのは大河内傳次郎が演じたもの。二人がそれぞれこだわりを持って作り上げたヒーロー。作品に込めた美学に迫ります。

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嵐寛寿郎が覆面ヒーロー「鞍馬天狗」に込めた美学

関西歌舞伎の家系に生まれた嵐寛寿郎は歌舞伎の舞台を経て、当時勢いのあった映画界に!そして、いきなりの初主演作が撮影されました。それこそが「鞍馬天狗」。嵐寛寿郎は映画化の際に原作にはないアイデアを次々と盛り込みました。鞍馬天狗の最大の特徴ともいえる「覆面」もその一つ。そのアイデアの元は時代劇でありながら実は意外にもハリウッド映画にありました。「拳銃」を多用するアクションも嵐寛寿郎の鞍馬天狗ならでは。斬新なアイデアを次々と盛り込む一方で殺陣の美しさには自身のルーツともいえる歌舞伎の様式美を取り入れました。様々な要素を取り入れ嵐寛寿郎が作りあげた「鞍馬天狗」は、彼が追い求めた究極のエンターテインメントの形だったのです。

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大河内傳次郎が反逆のヒーロー「丹下左膳」に込めた美学

一方の大河内傳次郎は、嵐寛寿郎とは違いサラリーマンの出。関東大震災を受け仕事と家を失った大河内は「身一つで稼げるものはないか」と新国劇を経て映画界入りしました。当時、映画界のスターたちは歌舞伎出身の俳優ばかり。大河内に待っていたのは仕事がない現実でした。しかし、それでも愚痴ることなく殺陣の稽古をひたすらつづけた大河内。そんな彼を見ていた一人の映画監督がいます。当時、新進気鋭の映画監督として注目を浴びていた伊藤大輔監督でした。伊藤は大河内の人間臭い姿に新たな主人公像を見出し映画の主演に大抜擢したのです。そして作られたのが丹下左膳が登場する「新版大岡政談」という作品。実はこの映画では丹下左膳は主役ではなく敵役でした。しかし、大河内が見せる丹下左膳の反逆のヒーロー像は観客の心を捉え、以後丹下左膳を主役とした映画シリーズが作られました。歌舞伎出身の俳優たちが華やかな立ち回りを見せる中、大河内がこだわったのがリアリティーのある殺陣。飛んで跳ねて転び、どろどろになりながらも相手を斬る姿に、観客はこれまでにないヒーロー像を見出したのです。

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敗戦、そしてチャンバラ禁止令

チャンバラスターにとって苦難の時代が訪れます。それは戦後のGHQ統治下における「十三カ条の映画製作禁止条項」。チャンバラ禁止令と呼ばれています。封建主義や仇討ち、切腹など描かれることが禁止され、チャンバラ映画の最大の見せ場とも言える殺陣シーンが映画から無くなったのです。「鞍馬天狗」と「丹下左膳」が作られることもなくなり、チャンバラにこそ映画最大の面白みがあると考えていた嵐寛寿郎は仕事が激減。苦難の時代を迎えます。戦後から6年が経ち、やっとチャンバラ禁止が解かれました。そして、真っ先に作られたチャンバラ映画が「鞍馬天狗」でした。戦後初となる鞍馬天狗には嵐寛寿郎のあるメッセージが込められていました。一方の大河内傳次郎も戦後初の丹下左膳を演じたいと熱望していましたがその夢は叶わずでした。しかし、55歳の時に再び丹下左膳を演じるチャンスが巡ってきました。実に13年ぶりに演じる丹下左膳。念願叶っての返り咲きではありましたが、大河内の胸中にはある想いがありました。

日比野克彦

日比野の見方「チャンバラ映画」

日比野の見方 ゲストの佐藤忠男氏が、子供時代に学校でよく鞍馬天狗の似顔絵を描いていたという思い出を受け、佐藤氏に鞍馬天狗を描いていただき、そこから作品を仕上げる番組史上初のコラボレーション。
銀幕に映る鞍馬天狗に沸く客席。しかし、その背景にはニヒルでアウトローな丹下左膳が睨みを効かせている。ちょっとウインクしているようにも見える丹下左膳。時代時代で客席を熱狂させてきた二人のチャンバラスター。芸術としてではない文化としてのチャンバラ映画を1枚に。

小川知子

小川知子が見た“巨匠たちの輝き”

なぜ男の子はチャンバラが好きなのでしょう?ナゼ、と聞かれても困るかもしれませんね。我が家の長男も ヨチヨチ歩きの時からホウキや靴べらなど長いものを持ちたがりブンブン振ってましたので….きっと本能なんでしょうね。その“チャンバラ映画”ですが、演じる俳優によって伝わるものが全然違うということがよくわかりました。「鞍馬天狗」と「丹下左膳」について語るゲストの佐藤忠雄さんの少年のような表情が印象的。チャンバラスター2人のエピソードも盛りだくさんで栄光にしがみつかないスターの生き方に好感を持ちました。