2005年 5月21日の放送

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 今週は米国の4月の物価指標が立て続けに発表された。堅調な米経済を反映し物価の一段高が懸念されたが、コアの指標は生産者物価指数(PPI)が前年同月比で+2.6%、コア消費者物価指数(CPI)が同+2.2%にとどまり、市場のインフレ懸念は一歩後退した。

 上のグラフは昨年1月からの推移だが、エネルギー価格の上昇を反映して総じて上向き傾向を辿ってきたものの、今年に入ってからは横ばい傾向に変わってきていることがわかる(Data:Bloomberg)。

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 特に4月のコアCPIの前月比が横ばい(+0.0%)だったことで、市場ではFRBが近々金融引締めを打ち止めするとの憶測が台頭、債券利回りの低下傾向に拍車がかかった。上は10年物米国債の利回り推移だが、3月下旬から低下トレンドが続いており、現在4.1%近辺まで下がっている。

 最近米国金融関係者の話を聞く機会があったが、彼らによると、一連の利上げにも関わらず長期金利が低下傾向を示していることについて、当局はやや戸惑っているという。10年物米国債利回りが4%に肉薄した時に“謎”だとグリーンスパン議長が形容したのは今年2月だが、1年近くにわたる金利引上げにも、原油高にも債券市場はまったく動じていない。

 以前から構造デフレ時代下では物価の大幅上昇はないと主張してきたが、市場も基本的にはそのような見方を支持していると言えるだろう(Data:Bloomberg) 。

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 米国金融関係者によると、為替の先行きについてはやはりドル安を懸念している人が多い。基本的に巨額の双子の赤字が縮小に向かわない限り、ドルはさらに2割ほど減価せざるをえない、というのが学界の平均的な見方だという。

 グリーンスパンは活発な資本取引が米国の巨額の経常赤字を可能にしたとは述べているものの、それが永久に続くといっている訳ではなく、やはり何らかの為替調整は不可避で、それが関係諸国へ経済的緊張をもたらすのは避けられないと識者は考えている。だが無秩序なドル安など誰も望んでいないし、ドル安は米国の対外資産価値を逆に上昇させるので(米国の対外債務はドル建て、対外資産は他国通貨建て)、ドルの深刻な危機が起きる可能性は小さいという。(グラフData:米商務省、議会予算局)

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 一方アジアについては総じて強気の見方が多いものの、意外と高成長を続ける中国に対するリスク意識が高い。

 プライベートエクィティ(未公開株)投資を行うファンドマネジャー達によると、市場経済の浸透により高成長が示現していることは認めるものの、法的安定性や契約遵守の確実性に対する警戒心が高く、日本に比べ中国への投資は“ハイリスク・ハイリターン”だと言う。政治リスクについても懸念する声があり、市場経済の浸透と一党独裁は最終的には共存できない宿命にある以上、今後どのような事態が起きるのか読みきれないようだ。(グラフData:Bloomberg)。

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 今週は経済指標がいろいろ出た割りには動きが鈍く、「商売あがったり」と嘆くトレーダーも多かった。ドル上昇を予測する参加者は、日本のゼロ金利維持が根拠。資本流出がドルの下値を支えると指摘する。一方円高を見込む関係者は、輸出企業によるドル売りや、やや先行きが不透明になってきた米国経済がドルの上値を抑えるという。GSEC指数は若干ドル高を見込む参加者のほうが多いことを示しているが、しばらくはレンジ取引が続きそうだ。