2005年 5月14日の放送

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 今週もまたまた中国元の切上げをめぐって噂が飛び交い、トレーダーは上へ下へと忙しい日々が続いた。早ければ5月1日にも切上げとの観測があったものの、それが実現しなかった2日以降はもみ合いに終始していたドル円市場だったが、11日、東京市場の後場に人民日報の英語オンライン版が“ペッグ制の変更が来週発表される見通し”との英文記事を掲載、それまでドルは戻り基調にあったものの一気に反転急落、一時105円を割り込む展開となった。

 しかし数時間後には“誤訳”としてウェブから削除され、再びドルが買い戻されるという荒れた展開になった。真意はさだかではないが、中国政府が市場を試したとの噂まで出て、ディーラーは元騒ぎに辟易気味になっている。

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 相次ぐ切上げ騒ぎで市場は徐々に慣れ始め、元切上げは既に折り込み済みだから今後は逆にドルが上昇する、と見るトレーダーも増え始めてきた。人民日報騒ぎ前後に相次いで発表された米経済指標もそれを後押ししている。

 10日に発表された3月の貿易収支は550億ドルの赤字(季節調整済み)にとどまり、前月から9%強の改善を示した。輸入が前月比2.5%減少する一方、輸出は1.5%増加した。ドル安の影響で輸出が好調だったことが赤字縮小に貢献した。これにより第1QのGDPは3.1%から4%近くへ上方修正されるとの指摘も出てきている。

 また12日に発表された4月の米小売売上高も予想を超える伸びを示した。上の折れ線グラフは、直近3ヶ月の伸び率を年率換算したものの推移。3月は6%へ落ち込んでいたが4月に再び7.5%の伸びを記録し、利上げにもかかわらず個人消費は堅調に推移していることを示した。

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 そこで注目され始めたのがFRBによる次回(6月30日)の利上げ幅。5月3日のFOMC声明文で次回の利上げは決定的となったが、今週は強い経済指標が続いたので、FRBが一気に0.5%引上げるのではないかとの憶測が台頭、これもドル買いにつながった。もともとFRBは米経済を強気に見ており、一時米株の急落で市場で“引締め打ち止め”論が出た時もクールに対応してきた。

 10日にはダラス連銀のリチャード・フィッシャー総裁が講演を行い、5月3日の利上げ時は市場の悲観論を認識していたが、「それに動かされることなく利上げに踏み切った」と述べた後、米景気はソフトパッチではなく、「スィートスポット」にあるとも発言した。セントルイス連銀のウィリアム・プール総裁も翌日、「米景気は4月に劇的に改善した」と発言しており、たとえ6月の利上げが0.25%にとどまったとしても、当面FEDの面々は強気姿勢を継続しそうな勢いである。

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 以上のような背景から、目先はドルが堅調に推移しそうな見込みだが、今後はドルユーロの動きも注目されそうだ。昨年末1.36台へ乗せたのを境にユーロは徐々に頭の重い展開が続いていたが、今月に入って下げピッチを速めており、市場でもさらなるユーロ下落を見込む向きが出始めた。その根底にあるのが、米国との経済格差だ。例えばドイツ政府は先月、2005年経済見通しを1.6%から1.0%へ大きく引下げている。同国の6大経済研究所はそれよりさらに低い0.7%を見込んでいるという。労働市場に改善がいっこうに見られないほか、原油高が家計の購買力を削ぐことが懸念されているのだ。

 そのような環境下、12日にユーロ圏やドイツの第1四半期GDPが発表された。結果は予想を上回る伸びを示し(上のグラフ)、ユーロの前期比伸び率は0.5%、ドイツは同1.0%へ達している。だが先行きについては依然として厳しい見方が多く、しばらくはドルが堅調に推移しそうな展開となっている。(Data:Bloomberg)

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 市場参加者の見方はややドル高を見る向きが増えてきた。米経済が好調で利上げのテンポが速まる可能性が出てきていることや、北朝鮮問題などを材料にドルの一段高を見ている。テクニカル的にもドルインデックスが高値を更新してきていることも強気材料となっている。一方、ドル安を見ている向きは、基本的に104円から107円程度のレンジ相場として現状を捉えている。現在のドル上昇もポジション整理による要因が大きいとの見方だ。勢いからするといったん108円近辺まで伸びそうだが、中長期的な観点からドルの先行き不安も根強く、現在の局面では108円を大きく超える円安は難しそうだ。