2005年 3月12日の放送

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 2月5日に行われたG7以降の為替相場を振り返ると、ドルは、主要通貨に対して、2月7日を基点に4.2%下落しており、G7を期に、昨年末以降のドル反発局面が収束し、緩やかながらドル安局面が戻ってきたといえよう。これは、米国の双子の赤字に対する懸念が依然くすぶっている上、最近では、原油価格上昇等がもたらすインフレが、むしろドルにマイナスと為替市場で受け取られ始めたことも影響している。

 ただ、この間のドル円相場をみると、ほぼ横ばいで推移しており、ドルと同じく、円も主要通貨に対して下落している。例えば、円の弱さをユーロ円相場でみると、2月7日以降、4.7%のユーロ高となっている。

 円が主要通貨にに対して下落しているのは、いぜん日本経済は原油価格上昇に対して脆弱との見方があるうえ、3月期末特有のわが国輸入企業による長期の輸入予約が銀行に持ち込まれているためと考えられる。

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 米国経済が好調さを増しているのにも関わらず、ドルが緩やかに下落しているのは、やはり、市場にドル暴落懸念がくすぶっているためであろう。

 現在、世界の外貨準備は3.4兆円にのぼり、その約6割がドルで、2割がユーロで保有されている。現在、各国の中央銀行は、緩やかにドルからユーロへ通貨配分の変更を行っておりいる模様であるが、仮にこの動きによってドルとユーロの通貨比率が同じになると、約7,500ドルのドル売りユーロ買いが外国為替市場で発生する。

 現在、米国の経常収支赤字は年間5,000億ドルを超え、これに加えて、外国中銀によるポートフォリオの入れ替えが一気に出ると、米国から合計1.3兆ドル資金が流出することになり、ドルの暴落は免れない。市場には、現在、このようなドル不安が存在している。

 そのような中、世界最大の外貨準備を保有する日本の首相が、「(外貨準備の)投資先を分散することは必要だと思う」と述べたことは、不用意な発言としか言いようがない。

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 他方で、金融市場が日本経済に対して、楽観的になってきたことは事実であるが、日銀の見方も同様である。

 日銀は、日本景気はまもなく踊り場から再び拡大局面入りするとみており、構造要因として、バブル崩壊後の過剰雇用、過剰設備、過剰負債からの脱却、金融機関の不良債権処理の終了、産業再生機構等による企業再生の進展、また、循環面からは、好調な米中経済、軽微な在庫調整、IT産業の在庫調整の終了といったことが、景気拡大を助長するとしている。

 これに対して、リスクとしては、IT製品需要の変動や、原油価格、為替レートを上げているが、慎重にみても、来年度1.5%程度の成長を見込んでいるようである。

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 最後に、いぜん円は割安水準にあることを指摘しておこう。物価変動を取り除いてみた為替レートを実質為替レートとよぶが(実際の計算式は、名目為替レート(ドル円相場)×米国の物価指数÷日本の物価指数)、2000年1月を基準とした実質ドル円相場を算出すると、現在、121円である。

 これはどういうことかといえば、2000年1月の名目ドル円相場は、月中平均で105円と、今の名目ドル円相場の水準とほぼ同水準にある。すなわち、名目でみると、現在は、2000年1月と同程度まで円高が進んでいることになる。

 しかし、現在の実質ドル円相場が121円ということは、いまの105円は、2000年1月に引き直せば121円であるという意味になる。すなわち、見た目(名目レート)とは異なり、(実質レートで見れば)まだまだ、円は割安ということになる。

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 引き続き、レンジ相場を予想する。双子の赤字によるドル安懸念に加え、原油価格上昇等による米国のインフレ懸念は、金利上昇、株価下落をを通じて、ドル安要因として受け取られている。ただ、日本経済も原油高に脆弱との見方は強く、また、日本経済の本格回復にはいまだ時間を要しそうである。さらに、期末特有のドル買い円売りも出ている。GSEC指数も42.3%と、トレーダーも横ばいとみている。