2005年 3月5日の放送

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 私の予想通り、ドル相場は、円とユーロに対して、方向感のない取引が続いている。過去数ヶ月の為替市場を振り返ると、ドル相場は、昨年10月から米国の経常収支赤字に対する懸念が急速に高まり、ユーロドルは、12月30日に1ユーロ=1.3666ドル、また、ドル円は、1月17日に1ドル=101円68銭までドル安が進んだ。

 しかし、年末を境に、米欧が為替安定で合意したとの観測からドルが買い戻され、2月のG7会合を経て、ドル円相場は、2月10日に106円88銭、ユーロドル相場も、2月7日に1.2732ドルまでドル高が進んだ。ただ、その後、ドルは再び反落し、1ドル=105円、1ユーロ=1.31ドル近辺で、方向感のない取引が継続されている。

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 昨夜発表された米国2月の雇用統計によると、非農業雇用者数が前月比262千人増と、市場の事前予想である225千人を大きく上回った。しかし、雇用改善に対する強い期待が指標発表前にすでに盛り上がっていた外国為替市場では、250千人前後の数字が織り込まれていたため、これはポジティブ・サプライズとはならなかった。

 また、失業率が、前月の5.2%から5.4%に悪化したことから、労働需給はむしろ緩和しており、さらに、時間当たり賃金の上昇率も1月の前月比0.3%から2月には同0.0%へ低下し、賃金インフレの懸念も逆に薄らいでいる。

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 一方、日本景気の底入れもみえてきた。昨年、このコーナーで説明したように、現在、日本の製造業の主軸を成す電子部品・デバイス工業の在庫循環をみると、昨年の夏場から、意図せざる在庫積み増し局面入りが鮮明となり、昨年10月以降、在庫調整局面に入っていた。ただ、本年1月には、在庫の伸びも前年比20.2%まで低下してきており、本年の後半には、在庫調整が終了し、再び回復局面に入っていくことが期待させる。

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 とはいうものの、現在、日米の景況格差は鮮明であり、FRBは金融引き締めを継続する一方、日銀が量的金融緩和から抜け出すのは当面ないと見られており、金利差も拡大傾向にある。したがって、景気・金利という循環面に注目するなら、ドルが上昇してもまったくおかしくない状況にある。

 それでも、最近、ドルが方向なく取引されているのは、やはり、ドルがいつか暴落するのではないかという漠然とした懸念がくすぶり続けているからであろう。すなわち、米国の経常収支の赤字は巨額であり、しかも、最近は、そのほとんどが、外国政府が保有する外貨準備によってファイナンスされている。そのような中で、それらの外国政府は、緩やかに外貨準備の通貨構成をドルからユーロにシフトしつつある。

 現在、このポートフォーリオ・シフトは、非常に緩やかに行われいるが、ひとたびそれが急激な動きとなれば、米国の経常収支赤字のファイナンス懸念が浮上に、ドルが無秩序に下落することになる。市場参加者の多くが、この構造的なドルの暴落懸念の可能性を完全にぬぐいきれないがために、ドルが動かないのであろう。換言するなら、このような循環面と構造面の矛盾が、皮肉にも、つかの間のドルの安定をもたらしているといえよう。

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 引き続き、レンジ相場を予想する。ただ、米国2月の雇用者数は事前予想を大幅に上回ったものの、雇用改善期待がすでに高まっていたことや、失業率の上昇と賃金上昇率の低下から、ポジティブ・サプライズとはならなかった。

 来週9日に発表される米地区連銀景況報告(いわゆるベージュ・ブック)では一部に景況感の改善やインフレ懸念を示す内容が示される公算が高いが、3月22日のFOMCにおける利上げ幅が50ポイントに引き上げられるという思惑や、声明文の「金融緩和の削除を緩やかなペースで行う」という件が削除されるという観測につながる可能性は低い。ドル円相場は引き続き104円から106円の狭いレンジで取引されよう。GSEC指数は56.3%と、トレーダーの見方も交錯している。