2005年 1月22日の放送

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 中国経済の成長率が鈍化傾向をみせている。2003年第4四半期には、前年比9.9%に達した実質GDP成長率は、昨年始め以降、鈍化傾向をたどり、国家発展・改革委員会(国家発改委)のマクロ経済研究院によれば、本年第4四半期の成長率は同8.0%程度まで鈍化するとみられている。

 その結果、国家発改委は、昨年の成長率が、2003年の同9.3%から、同9.1%に鈍化するとみている。さらに、本年においても、投資や輸出の伸びが低下するため、成長率の鈍化傾向は継続し、国家発改委は、本年の成長率を8.0-8.5%程度と見通している。

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 経済成長率鈍化の主因は、金融引き締め政策である。中国では、昨年始め以降、景気過熱によって、インフレ率が上昇し、昨年2月に前年比2.1%であった消費者物価上昇率は、6月には、同5.0%まで上昇した。

 これを受けて、中国政府は、4月以降、融資の窓口規制や、投資案件の認可見送りを通じて、金融引き締めに転じ、その結果、M2でみたマネーサプライの伸びは、2003年11月の前年比20.3%から、昨年8月には同13.8%まで低下した。さらに、昨年6月以降、消費者物価上昇率が、6ヶ月連続して前年比5%台で推移したため、中国人民銀行は、 10月29日に金融機関の預金及び貸出し金利を0.27%引き上げている。

 また、同銀行は、2005年のM2の伸び率をおよそ15%に維持するとの見解を示しており、金融引き締め路線は、今年も継続される模様である。

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 そのような中で、外国為替市場では、中国人民元の切り上げ期待が高まっている。中国元は、94年1月に、1ドル=5.82元から8.72元に切り下げらた後、97年のアジア通貨危機の際の再切り下げ期待を乗り切り、現在では、1ドル=8.28元近辺で推移している。

 この結果、中国の貿易収支の黒字額は急増し、昨年12月には111億ドルに達している。このような元の過小評価と貿易黒字の急増を受けて、先進国からの通貨切り上げ圧力が強まり、外国為替市場では切り上げ期待が観測が先行しているが、私は、中国人民銀行が実際に切り上げを実施するのは、国内レポ市場や外国為替の先物市場の整備が完了した2007年以降とみている。

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 通貨切り上げを実施するうえで、最も重要なことは、タイミングもさることながら、実は、そのタクティクスであろう。結論から先にいえば、もっとも望ましい切り上げ手法は、市場が期待している上昇率を大きく超えた切り上げを一気に実施し、市場の力を利用して、逆に元高オーバーシュートの是正を行うことである。

 この方法をとれば、短期間に、通貨をフェア・バリューに安定させることが可能となる。一方、いちばんまずい手法は、時間をかけて徐々に切り上げを行うことである。この方法をとると、外国為替市場では、累積的に再切り上げ期待が高まり、前述のケースより大幅かつ長期間の元高オーバーシュートを招いてしまい、結果的には、通貨をフェア・バリューに安定させるために、長期間を費やしてしまうことになる。中国人民銀行は、このあたりの市場メカニズムをよく熟知しており、実際に取られる手法も、前者になると、私は考えている。