2004年 11月27日の放送

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 外国為替市場では、今週もこのところのドル安トレンドが継続したが、ドルの下落は、対円より、対ユーロのほうが急激なものとなった。ユーロは、今週、史上最高値を更新し、1ユーロ=1.33ドル近辺まで上昇した一方、ドル円相場の下落は、102円台の半ばどまりであった。

 これには、1)日本の財務省によるドル売り介入懸念が円の上昇を抑制した一方、欧州中銀が近い将来介入を実施するとの観測は薄い、2)ロシア中銀が、外貨準備におけるドルの割合を落とし、ユーロの割合を上げる可能性に言及したことで、各国中銀が同様のオペレーションを実施しているとの観測が強まった、3)原油相場が反発したことも、ユーロ買いを助長した、等の要因が影響している。

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 今週、ドル売りに弾みがついた主因は、やはり、先週金曜日にフランクフルトで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議におけるグリーンスパン米FRB議長の発言である。議長は、「米国の経常収支はますます維持不可能となり、新たなドルの下落を招来する」と拡大基調が継続している米国経常収支赤字に警鐘を鳴らした。

 また、議長は、「海外投資家は、最終的には、ドル資産の蓄積を調整するか、あるいは、ドル資産の累積リスクを打ち消すために、ドルの高いリターンを求めることになる。その結果、米国経常収支赤字のファイナンス・コストを上昇し、赤字はよりいっそう維持不可能なものとなる。」とも述べている。

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 この議長発言の論拠は、ニューヨーク連銀が最近発表した米経常収支赤字に関するレポートに求めることが出来る。同レーポートは、最近、米国の経常収支赤字が、主に、外国中銀によってファイナンスされてことのリスクに言及し、赤字のファイナンスが、海外公的部門から民間部門に移行するためには、ドル金利の上昇か、米国資産価格の下落、すなわち、ドルが下落が不可避であると論じている。

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 そのような中、市場では、日本の財務省によるドル買い介入の再開がいつになるのかに焦点が集まっている。先々週、この番組で述べたとおり、歴史的にみても、1993年8月、94年4月から95年2月、95年9月、99年12月から2000年1月と、1ドル=100円割れを阻止するドル買い介入が、日本の財務省によって繰り返されてきた。したがって、常識的に考えれば、1ドル=100円より上で介入が再開されるとみるべきであろう。

 しかし、1)米国のドル安容認姿勢が鮮明であり、2)欧州中銀もドル売り介入を実施する可能性が低い上、3)外為市場の介入期待が強い中、4)円買いポジション積みあがりもそれほど大きくなければ、今、介入を実施してもその効果は限定的であり、案外、日本の当局は、介入の再開を100円割れ以降に遅らせるかもしれない。

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 G20におけるグリーンスパン発言を契機に、市場ではドル安センチメントが蔓延している。GSEC指数も14.3%と過去最低の円高水準を記録している。また、今週は、米国の経常収支赤字という構造要因に加え、海外中銀の外貨準備調整というフロー面でのドル安要因も加わった。

 ドル円相場の行方は、まさに、日本当局の為替介入次第であるが、市場の予想に反して、介入再開が見送られれば、来週は、9年ぶりに1ドル=100円割れが実現する可能性も否めない。

 また、金曜日には、米国11月の雇用統計が発表されるが、経常収支赤字が市場のメイン・テーマとなっている中では、その為替相場に与える影響は限定的であろう。ただ、敢えていえば、非農業雇用者数が市場予想を上回った場合、米景気拡大による経常収支赤字の拡大観測が強まるため、ドル売りが加速する可能性がある。