2004年 9月25日の放送

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 今週火曜日に開催されたFOMCにおいて、市場の予想通り、FFレートの誘導水準は、それまでの1.5%から0.25%引き上げられ、1.75%となった。

 しかし、会合後に発表されたFOMCの声明を読むと、FRBは、景気情勢判断をわずかながら軟化させたとみてよいであろう。すなわち、9月8日のグリーンスパン議長による議会証言の時点では、景気について「牽引力が戻ってきた。」と断定的に述べられていたが、9月21日のFOMC声明では、「景気拡大の牽引力が戻ってきたようにみえる。」と、appearsという表現を用いて、明言を避けた形となっている。

 さらに、雇用情勢に関しても、9月8日の議会証言では、「8月に非農業雇用者の増勢が回復した」ことが強調されたが、9月21日のFOMC声明では、「労働市場の情勢は緩やかに回復した。」と、回復が緩やか(modestly)であるとやや弱めたれた。

 したがって、年末までには、11月10日、12月14日に2回のFOMCが開催予定となっているが、これを受けて、市場では、そのうちどちらかのFOMCで0.25%の利上げが再度実施され、年末のFFレートの誘導水準は2%となるという見方がさらに強まっている。

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 今週水曜日には、財務省が日本の8月分の通関貿易統計を発表したが、貿易黒字額は、季節調整済みで7月の1兆2百億円から、1兆4百億円に小幅拡大した。

 しかし、貿易黒字の推移をやや長いスパンでみると、本年5月の1.12兆円(6ヶ月移動平均)から8月には1.04兆円(同)に減少傾向を示している。また、8月の輸出入額を3ヶ月前比年率の伸びでみると、輸出は5.0%減少しているのに対し、輸入は23.3%の大幅増となっている。

 すなわち、貿易収支が悪化してきているのは、原油価格の上昇による輸入金額の増加もさることながら、グローバル・スローダウンを受けた輸出数量の悪化も徐々に表れてきている。したがって、今後、貿易黒字の減少は、GDP統計における純輸出の悪化という形で、日本の経済成長率の低下要因となってこよう。

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 今週は、30日水曜日に、経済産業省が、わが国8月分の鉱工業生産速報値を発表するが、生産指数は、6月に前月比1.3%減少した後、7月も同横ばいとなっており、このところ調整色が強まってきている。

 一方、8月末に7月速報値を発表した際、経済産業省が公表した8月、9月の予測指数は、それぞれ前月比1.5%増、0.6%増となっているが、前々回に述べたように、このところ、「意図せざる在庫積み増し局面」に入った電子部品・デバイス工業が上昇の主因になっているなどから、これらの生産予測は未達になる可能性が高い。

 市場では、8月の生産指数を前月比0.7%増と予想しているが、7月に引き続き実績値が市場予想を下回ると、新たなネガティブ・サプライズとなり、円が売られる公算が高まる。

 また、先週述べたとおり、10月4日に発表される日銀短観9月調査も、製造業の業況判断DIが、2003年3月調査以来の低下となると予想されており、来週は、この日銀短観の予想値を相場が織り込む動きもみられよう。

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 一方、来週金曜日(10月1日)には、ワシントンでG7会合が開催される。  世界経済のインフレなき安定成長に対する最大のリスクとして、原油価格の上昇が主要議題として取り上げられる公算が高いが、ジオポリティカルなリスクや、OPECの生産計画に対してG7が成し得ることは、極めて限定的である。

 また、今回は、中国から、金人慶財政相、周小川人民銀行総裁が、G7通常会合終了後の特別会合に招待される。もちろん、中国の為替制度に関しても議論されるとみられるが、中国の当局者が招待される主因は、もはや中国抜きに世界経済を議論できなくなっている現状にあろう。人民元の切り上げが大きく取り上げられる可能性は低い。

 さらに、現在、先進諸国の通貨間で大きなミスアラインメントはなく、したがって、為替相場は、主要議題には含まれない可能性が高く、共同声明の為替に関する部分も据え置かれ、今回のG7会合が、為替相場に大きな影響を及ぼすことはなかろう。

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 今週は、北朝鮮のミサイル疑惑や原油価格の高騰から円安圧力が強まったが、いぜん、市場のリスクは、均衡状態を維持しているとみられ、国際的な資本フローも停滞している。

 FOMCは、いくぶん情勢判断を軟化させたが、市場の予想通り0.25%の利上げを実施した。したがって、米国サイドから要因によって、この均衡したリスク・バランスが崩れるためには、10月8日に発表される米国9月分の雇用統計を待たざるを得まい。

 一方、日本サイドからは、今週発表された貿易収支に加えて、来週の鉱工業生産、再来週の日銀短観とネガティブ・サプライズが積み重ねられる可能性が残されており、この場合、ドル/円相場は、112円まで円安が進展する公算が高い。

 一方、今回のG7は為替市場にテーマになる可能性は低いため、109円から112円のレンジを超えた大幅な相場変動はいまだ望めまい。