2004年 9月11日の放送

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 外国為替市場では、当面、リスクがバランスし、国際的な資本フローが停滞する中、レンジ取引の継続が予想されるが、本年末までを展望すると4つの円安リスクが存在している。もし、このうちのひとつないし複数が現実のものとなれば、ドル円相場が、115円を超えて、120円に向けて上昇する可能性がある。

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 昨日発表されたわが国4-6月期の実質GDP改定値は、大幅上方修正との大方の事前予想に反し、前期比0.4%増から0.3%増に下方修正された。1-3月期の成長率は、同1.6%であったので、成長率は大幅に低下したとことになる。さらに、先行きを展望しても、景気の減速懸念が高まっている。

 わが国経済は、これまで、個人消費、設備投資、輸出に牽引されて、バランスのよい回復過程を歩んできたが、まず、世界経済のスローダウンによって、今後輸出が伸び悩む可能性が高い。また、国内製造業の在庫循環をみると、主力の電子部品・デバイス工業が、すでに、出荷増加に伴って在庫も増加する「在庫積み増し局面」から、出荷の減少に関わらず在庫が増加する「意図せざる在庫積みあがり局面」に移行したとみられ、早晩、減産による在庫調整を強いられることになろう。そうなれば、企業収益は悪化し、設備投資にも悪影響が出てくる。今週木曜日に発表された7月の機械受注(除く船舶・電力)が前月比11.3%減少したことも、近い将来の設備投資減少を示唆している。

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 輸出、設備投資に加え、個人消費にも悪化の懸念がある。すでに、新聞等で報道されているように、来月以降、来年10月までに導入が決定されている社会保障料増額等と国民負担増は1兆円に及ぶ。さらに、現在の惨憺たるわが国の財政状況をみれば、来年度以降、99年度に導入された特別減税が廃止、あるいは段階的に縮小される公算はきわめて高い。

 もし、来年度に特別減税が全廃されれば、今後の国民負担増は5兆円、GDPの1%となり、個人消費に大きな悪影響が出て来ることは必至である。さらに、これが、輸出と設備投資の悪化と重なれば、9兆円の国民負担増によって景気後退となった97年の二の舞になりかねない。

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 第三のリスクとして、中国における政変の可能性が上げられる。9月6日付けのニューヨーク・タイムズ電子版は、中国の江沢民・前国家主席が、現職の国家軍事委員会主席を辞任すると報じた。

 中国ウォッチャーの間では、このところ、温家宝首相のリーダーシップ不足等から、党指導部内で非常に深刻な対立があり、激しい権力闘争が進行中ではないか とのうわさも流れていたところに、このような報道が出てきたため、今後、中国の政変には留意する必要があろう。近い将来では、9月中旬の全人代、四中全会には要注意である。

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 第四のリスクは、11月の米大統領選で、ケリー候補が勝利した場合である。現職のブッシュ大統領の続投になれば、現行の政策が継続されるため、為替市場に与える影響は極めて限定的となるのに対して、ケリー候補の勝利は、市場の波乱材料となろう。

 おそらく、それに対するイニシャル・リアクションは、政権交代ということで、ある程度ドルが下落することとなろうが、重要なのは、市場は、まもなく、新政権の経済政策を織り込み始めることである。

 為替市場では、ケリー大統領が誕生した場合の経済政策は、保護主義的なものとなり、ドル安誘導も辞さないとみているようであるが、私はそうは考えていない。

 ケリー陣営の経済スタッフは、第二次クリントン政権の経済閣僚が中心となっており、したがって、ケリー政権の経済政策は、中西部の製造業に配慮した保護主義的なものというよりは、東部・ウォール・ストリート中心の財政赤字削減とドル高による株価サポートに主眼をおいたものとなろう。

 換言すれば、ケリー候補の勝利によって、一過性のドル売りが収束した後は、新政権の経済政策を織り込んでドルが反発すると考えられる。

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 市場リスクは、非常にバランスしており、国際的な資本フローも停滞している。米国の雇用情勢は、一時に比べ持ち直したものの、長期的にみれば、増勢は鈍化している。また、世界経済の減速や原油価格上昇が米景気与えるネガティブな影響が懸念される中で、インフレ懸念は非常に抑制されている。ただ、Fedは、デフレ権念の収束によって、今後も、着実に金利の引き上げによって、超低金利の正常化を進めていくとみられている。一方、わが国経済も、4-6月期の実質GDP改定値が、予想外の下方修正となったほか、7月の機械受注も大幅に減少しており、景気のダウンサイド・リスクが懸念される。また、対内株投資は、2週続けて2千億円超の買い越しとなったが、これは、一時的な要因によるところが大きい。したがって、ドル円相場は、引き続き108円から112円のレンジ取引を継続する公算が高い。ただ、GSEC指数は、90.0の高水準となっており、ディーラーは、来週、上述のレンジの円安サイドで取引されるとみているようである。