2004年 4月24日の放送

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  先週は、米国において、雇用が増加する中でインフレ懸念も台頭してきたため、金融市場では、米国連邦準備制度よる利上げ期待が高まったきたと申し上げたが、今週2度行われたグリーンスパン連邦準備制度理事会議長の議会証言は、高まりつつある市場の利上げ期待を肯定する内容であった。20日の上院銀行委員会で行われた証言において、グリーンスパン議長は、「デフレの懸念はもはや問題ではない。」と、連邦準備制度の関心はデフレからインフレへすでに移ったことを示唆した上で、翌21日の上下両院合同経済委員会での証言では、「(金利を)ある時点では上げなければならない。」と利上げの可能性にまで言及した。これを受けて、10年物米国債利回りは、今週一時4.486%まで上昇した。金融市場では、8月までに0.25%の利上げがほぼ完全に織り込まれた形となっている。

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  米国経済のリスクがデフレからインフレに移行したことで、米国の為替政策も早晩ドル安容認からドル高に変更される可能性が出てきた。というのは、デフレ懸念が台頭している中では、米国の製品価格が下落するため、ドルは上昇圧力を受ける。これを放置すれば、デフレがドル高を招来し、それが再びデフレ圧力を助長するという負の連鎖、デフレ・スパイラルが生じることになる。この負の連鎖を断ち切るために、米国は、これまでドル安政策を採用してきた。ところが、ひとたびインフレ懸念が高まってくると、米国製品価格の上昇から、ドルは下落圧力を受け、これを放置すれば、インフレ、ドル安、再びインフレというデフレ時とはまったく反対の負の連鎖・インフレ・スパイラルが生じる。したがって、今度は、米国政府に、インフレがドル安を招来することを阻止するために、ドル高政策に転換する必要性が生じてくるわけである。

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 米国の為替政策が変更されつつある兆候は、FRB高官の発言にすでに出てきている。本年初めごろまでは、グリーンスパン議長やバーナンキ理事たちは、口をそろえてドル安を容認してきたが、1月の中旬ころになると、グリーンスパン議長は急に「米国で為替政策の発言は財務長官だけ」と為替政策に関する発言を控えるようになった。また、バーナンキ理事も、2月の初めに、「先行き、大幅な雇用者数の増加が起きる」と3月における雇用の急増を示唆した上で、2月の終わりには、グリーンスパン議長と同様、「為替相場は政策目標ではない」と、これまでのドル安容認の姿勢を改めた。米国政府は、すでにドル高をBenign Neglectするとこまで来ている思われる。

 そういう目で、今週末ワシントンで開催されるG7をみると、為替相場は主要議題とはならないものの、米国の為替政策転換が、どの程度スノー財務長官やグリーンスパン議長の記者会見の中でにじみ出てくるのか、あるいは、こないのか、市場は頭の片隅に置いておくべきであろう。

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 さらに、日本サイドに目を向けると、先週の海外投資家による日本株購入がわずかながら10週間ぶりに売り越しとなったことは重要であろう。大手銀行11行に対し2004年3月期決算に向け実施した特別検査の結果を金融庁が来週発表することや、ダイムラー・クライスラーが三菱自動車から撤退するとの報道のミクロ・レベルのネガティブな材料もさることながら、米国がひとたび金融引き締めに転じれば、国際的な過剰流動性が減少し、これまでわが国の株式市場に潤沢に流入してきた海外資金の流れに、今後、変調が出てくることが懸念される。

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 しかしながら、市場は、今のところ、米国のインフレ、雇用増加、金利上昇をドル買いと捉えていることは事実であり、今後さらに米国市場は、引き続き、「米国の利上げ=ドル高」と捉えている。すでに述べたように、わが国株式市場への資金流入が細ってきている中、今週末のG7を機に、米国のドル高容認姿勢が市場に見透かされれば、1ドル=112円まで円安が進行するリスクがある。4月上旬に発表された予想外に強い3月の雇用統計によって始まったこのドル高の流れに変調が出てくるとすれば、5月7日に発表される4月の雇用統計が再び市場の失望につながるような弱い内容になったときであろう。逆にいえば、それまで現在のドルの堅調さは継続する公算が高い。来週は、108円から112円のレンジのドルの底堅い展開を予想している。しかし、先週も申し上げたが、よく考えてみれば、インフレ、雇用増加、金利上昇は、どれをとっても、実は、ドル安要因である。また、イラク情勢はベトナム化しているといっても過言ではなく、ひとたび為替市場が、これらのポイントに目を向ければ、再びドルが売り進まれる可能性も高い。たとえ、米国政府がインフレ懸念から、ドル高を志向したところで、実際そうなるか否かはまったく別問題であること忘れてはならない。 GSEC指数も31.3となっており、市場参加者の間では引き続き円高見通しが根強い。(しかし、こういうときには、なかなか円高にはならないものですが・・・・。)