2004年 4月10日の放送

< 1 >

  中国の人民元に対する切り上げ期待が盛り上がっている。一時そのような期待は後退していたものの、昨年9月のドバイG7声明で『為替レートの更なる柔軟性が、主要な国・経済地域にとって望ましい』と強調されたことから、円と共に人民元への切り上げ期待が再燃した。その期待を後押しするように、昨年12月に米ブッシュ米大統領は米中首脳会談で、人民元の変動相場制への移行について「具体的な前進が必要だ」と発言、中国の温家宝首相に強い調子で行動を求めている。今年に入っても、ゼーリック米通商代表が2月の東京での記者会見で、中国の外為制度に関連して「対応しなければならない問題」と述べ、今月25日に至っては、スノー米財務長官が下院公聴会で、中国の人民元問題に関し、北京駐在の米財務省専門官を近く任命する方針を明らかにしている。

  「中国の為替制度について」(日本銀行調査月報2002年5月号掲載論文)によると、1980年以降の人民元は①二重レートが統一された1994年初までの大幅な下落局面と、②それ以降の事実上のドルペッグの局面に大別できる、という。必要な輸入物資の確保に主眼を置いた「計画貿易」に使用する公定レートと、輸出平均コストに基づいて算出する「内部決算レート」の“二重レート制”が誕生したのは1981年で、後者のレートは50%ほど元安に設定された。その後「内部決算レート」は廃止され、86年以降に企業間の外貨需給で決まる「市場レート」が誕生している。しかしGATT(現在のWTO)加盟条件として二重レートの是正が求められ、公定レートが切り下げられる形で両レートは統一、94年以降はドルペッグに移行した。自由な資本取引は禁じられ、1ドル=約8.28元のレートが維持されているが、若干の変動は認められており、前日から+/-0.3%は変動可能となっている。

< 2 >

  資本取引が限られていることもあり、現在の需給は明らかに元買いドル売りに有利な状況が続いている。経常黒字は200億ドル前後をコンスタントに計上、中国への直接投資は2000年から3年連続で増加基調にある。市場でのドル売りは中央銀行である中国人民銀行により吸収され、結果、昨年末の外貨準備残高はついに4000億ドルを突破、前年比40%アップの勢いとなっている。2001年末の日本の外貨準備高が3951億ドルであるから、こと外貨準備に関する限り、中国はわずか2年前の日本に追いついているということになる。これだけの元高圧力をいつまでもドルペッグで防ぐことは不可能であり、いずれ制度変更することは時間の問題となっている。

< 3 >

 だが、最近の中国通貨当局者の発言を見ると、今は通貨切り上げに消極的であることがうかがえる。当局者は投資家の市場行動をよく把握しており、現在元買い・ドル売りの投機熱が高まっているのを十分承知しているという。そのようななかで、投機家の思惑通りに元切り上げに動くことは、あまり得策ではないと心得ているようだ。

< 4 >

  だが、もし自国通貨の切り上げに動く場合、どのような形で行われることになるであろうか。まず第一に予想されるのが、ワイダーバンド、すなわち人民元変動幅の拡大である。現状は0.3%しかないので、これを例えば1.5%から3%程度に拡大し、その枠内で通貨価値をコントロールして行くことが考えられる。第二の選択肢は新たな対ドルのレートを設定し、それにペッグさせることだ。通貨バスケットにするという憶測もある。現実的とも言える第三の方法は、現行制度の枠内で対応してしまうというものである。

  現在でも1日0.3%の変動は認められているのであるから、例えば、毎日0.3%切り上げれば10日で3%、100日で30%の切り上げることが理論上は可能となる。中国を始め、アジアの金融当局関係者は急激な変動は好まないので、徐々に切り上げて行くという方式は意外と選択しやすいのかもしれない。