2004年 3月27日の放送

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  24日、ユーロは対ドルで続落、1.23台から1.2150近辺へ急落した。きっかけとなったのがトリシェECB(欧州中央銀行)総裁の発言。総裁は独紙ハンデルスブラットとのインタビューで、「もし家計消費と内需が拡大せねば、我々の予想をそれに従って変更せねばならない」と発言、市場は一気に利下げ期待で盛り上がり、為替ではユーロ売りドル買いが進み、欧州の債券価格は急騰した。さらに他のECB関係者からも利下げを匂わすような発言が続いている。同日、ウェルテケ独連銀総裁は記者会見でドイツ経済はゆるやかに回復していると述べたものの、「経済成長は外需に寄るところが大きく、内需、とりわけ個人消費は弱い」と発言、トリシェ総裁が指摘したように、個人消費が今後の鍵となるとの認識を示した。さらに、トゥンペルグゲレルECB理事も消費者支出が主な懸念であると25日に述べている。もっとも、ウェルテケ独連銀総裁は「消費拡大のためには、物価を安定させることが大事」とも述べており、その意味ではECBに即利下げを求めているわけでもないようだ。

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  実際、ユーロ圏のGDP統計における家計消費支出伸び率の推移(前年同期比、%)をみると、最近2年間の落ち込みぶりがよくわかる。しかしある意味でその原因は、ユーロ圏諸国が日米の経済構造を反面教師として、極端な“不均衡”を避けるように努力してきたからだとも言えよう。少々景気が悪くても無理な財政政策は取らず、金利も極端には下げずに、欧州は“不均衡のない”経済構造を構築しようと努力してきた。このため公的サービス部門や労働市場等における構造改革が主たる景気浮揚への武器となっているのだが、構造改革は短期的には人々の所得を減少させる方向に働くので、一般の人々は逆に貯蓄に励み、消費を抑制するようになってしまっている。このため経済成長は依然として外需を頼み、内需主導の成長はなかなか実現しない状況となっている。

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  しかし今回のトリシェ発言で、いよいよ追加の金融緩和策が取られる可能性が出てきたことで、為替においてユーロがさらに下落するとの見方が徐々に強まっているようだ。上にあるようにユーロは2月の1.29近辺でいったんピークを打ち、現在は1.20から1.25の間でのレンジ相場が続いている。市場では、ドルの双子の赤字問題が未解決のままとなっていることから、年末にかけてユーロは再び1.30を目指すという意見が依然多い模様だが、今回の利下げ観測の台頭で、やや将来の方向性が混沌としてきたといえる。一般的にユーロのフェアバリューは1.15前後と言われており、その意味ではまだユーロは過大評価されていることにはなるのだが・・・。もっともさらにユーロが安くなったとしても、経済成長を外部経済に依存しているユーロ圏としては、そう悪い話ではないのかもしれない。

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  もしユーロが一段安に進むとすれば、それはドルが反転することを意味し、ここ2年間のドル安相場は終焉を迎え、今後はドル高相場に戻っていく、というシナリオが成り立つことになる。だが、市場ではドル以上に円の買いが活発化しており、どうもドル高相場の再来というより、円独歩高を心配したほうがよさそうな気配となっている。特に今月のクロス円の動きは激しく、ユーロ円は今月のピークから約10円、ポンド円にいたっては高値208円から安値190円まで約18円もの円高地合いとなっている。これまで高金利通貨として人気の高かった豪ドルも対円で急落しており、今後も円買いが強まりそうだ。欧米の株式動向と比べても日本株に対する高値更新期待は依然高く、実需の円買いは根強いものがある。財務省は引き続き、節目節目で介入を続けるだろうから当面は105円の攻防戦が鍵となるが、外人投資家を中心に円高期待は一段と高まっており、いずれは105円を超える円高が到来することも覚悟する必要があるかもしれない。

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  海外の投資家を中心に日本経済に対する期待は非常に強く、目先は4月1日発表予定の日銀短観を材料に円買いが進みそうだ。105円はすんなり抜けそうもないが、中期的には1ドル100円を目指す展開か。財務省の介入もこれまでのような積極介入を止め、少しづつ戦略転換して行く可能性が高い。

  G-SECインデックス(市場アンケート)速報は45.8とやや円高を見込む参加者が優勢。しかしドル反転を見込む向きも少なからずあり、依然市場の見方はまだ二分されている。