2004年 3月6日の放送

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  2002年初以来続いていたドル安トレンドの終焉を思わせるようなドル高がここ数週間続いている。上のグラフは先月からのドルの対円、対ユーロの動き。先月半ばまでは特に対ユーロでドル安が継続していたが、下旬から反転、ドルが大きく値を戻していることがわかる。対円でもほぼ時期を同じくしてドル高が始まっている。先月18日発表された2003年第4四半期の日本のGDPが、前期比年率で7%に達したため、市場は大きくドル売り円買いに傾いたが、当局は大量のドル買い円売りを実施、ついにドル安トレンドの乗せることができたようだ。2月の底値から見ると、ドルは対ユーロで5.5%、対円で5.0%のそれぞれ上昇となっている。

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  ドル反転の理由については諸説あるが、ひとつには投機筋のドル売り円買いポジションが溜まりすぎ、ドルが多少でも上昇し始めた場合、トレーダーによるドル買戻しが活発化しやすい地合いになっていたことが挙げられるだろう。上はシカゴの先物取引所で取引されているドル円レートの投機筋のポジション推移である。年初来、ドルが安定して下落基調にあったため、投機筋は7000億円前後のドル売り円買いポジションを維持してきた。ポジション規模は過去の推移から見てもかなり大規模なものであり、相当な円高を見込んでいたことを推測させる。このため、ドルが下落トレンドから上昇トレンドに大きく転換したと判断するや否や、彼らは一気にドル買い円売りに走り、市場でのドル反転の動きを大きく助長することになったのである(資料CFTC)。

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  では今後もドルは長期的に継続して上昇して行くのであろうか。今後の行方を占うにはまず、ユーロと円を分けて考えねばならないだろう。ユーロについては、今年1.29ドル近辺まで上昇したが、今回の下落で当面の天井をつけたとの見方が出てきている。ひとつには、1.29ドル近辺でフランスのシラク大統領はじめユーロ圏の各国首脳から相次いでユーロ高を牽制する発言がでたため、1.30を超えるユーロ高は到底容認されないとの認識が市場で広まったことだ。もうひとつは最近のグリーンスパン議長の発言から、米国の利上げの時期が近づいてきたとの認識が強まったことだ。政策金利は依然ユーロのほうが高いが、利下げの可能性が残る通貨と利上げしそうな通貨では、後者のほうに買いが集まりやすくなる。このため欧米の金融政策の行方が鍵となる。第2の注目点は、市場の焦点が、米国の2つの赤字問題から欧米間の景気格差に徐々にシフトするかどうかだ。このところのドル安で米国の貿易赤字は早晩改善に向かうとの見方が強くなっている。また日米の景気が力強く推移しているのに比べ、ユーロ圏は景気回復の遅れが目立っており、今後は市場がこの点をもっと重視する可能性があろう。第3は米欧の政治関係の行方だ。イラク戦争前は“古くさいヨーロッパ”発言で両地域間の関係はかなり冷え込んだ。このため米国はわざとドル安を促進することで、ヨーロッパをユーロ高でいじめたとの見方があるほどだ。しかしブッシュは次期選挙をにらみ、欧州との関係改善に動くと見られており、そうするとある程度欧州サイドを配慮した為替政策を取る可能性も出てこよう。

一方、ドル円についてはまだ見方が分かれているようだ。目先ドルは堅調との見方が多いものの、もう少し長期で見ると、ドル円は再び下落に向かうとの見方は根強い。現在のドル高円安も、介入で押し上げられている部分もおおく、市場は現在の巨額介入がいつまで続くのかに注目している。115円近辺までドルを押し戻すことに成功すれば、今後は“普通の介入”に戻る可能性も出てこよう。

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  長期的にはともかく、目先はドルは対円で堅調に推移するとの見方が増えてきている。ファンドを中心としたドル買戻しがまだしばらく出そうなことや、当局の介入が引き続き強力に行われていることがドル一段高の見方を支えている。しかしさらなる円安局面では、本邦輸出筋のドル売りや海外投資家の日本への証券投資が活発化すると見られ、徐々にドル高のテンポもスローダウンしよう。

ユーロ円についてはやや荒れた相場が続きそうだ。ユーロ円のさらなる上昇を見込む向きは少数派だが、かといって、下落地合いにもなく、やや攻めづらい展開となっている。当面はレンジ取引か。

G-SECインデックス(市場アンケート)速報は70.8となり、円安を見込む市場参加者が増えている。