2004年 2月28日の放送

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  ここ数年来、公的年金(特に国民年金と厚生年金)に対する信頼度の落ち込みが激しい。急速に高齢化が進む日本では、いずれ年金制度は崩壊してしまうのではないかという漠然とした不安が国民の間に浸透してきている。このような不安は国民年金保険料の納付率の推移に見ることができる(上のグラフ)。納付率とは、当該年度分の保険料として納付すべき月数のうち、実際に納付された月数の割合のこと(=納付月数÷納付対象月数×100)。社会保険庁が昨年発表した資料によれば、90年代前半は納付率は85%前後で比較的安定的に推移していたが、97年度に80%を割り込むと徐々に低下ピッチをはやめ、2002年度には前年度の70.9%から62.8%に急落、大きな話題となった。

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  納付率の低下には景気悪化による所得の低下なども考えられるが、世代間の不公平感も根底にあると言われている。社会保険庁の平成11年版年金白書によれば、今年75歳の人は保険料負担1300万円に対し、年金給付額は6800万円に及ぶと言う。一方、今年15歳の子どもは将来7500万円を負担するにもかかわらず、給付総額は4900万円にしか届かない計算だ。厚生労働省側はこれに対し、①75歳の世代は、公的年金制度がなかったから親の面倒を見なければいけなかった、②昔は道路などが未整備で、社会的インフラの恩恵が少なかった、等を理由にある程度世代間で差が生じるのはやむを得ないとしている。だが現役世代はそのような事情を汲んでも、なお世代間格差が大き過ぎると見ている。

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  一方で、国が管理する年金保険の積立金は巨大な数字に膨れ上がっている。上は民間サラリーマンが加入する厚生年金の積立金(企業の代行積立分は除く)推移。80年度末にわずか27兆円(1兆円未満切捨て。以下同じ)しかなかった積立金は01年度末に約5倍の134兆円に膨らんでいる。そもそもこれだけの巨額の積立金を徴収する必要があったのだろうか。しかも厚生労働省はこの巨額の積立金を取り崩すことは全く考えておらず、年金保険料の切り上げでしのごうとしている。実は、厚生年金以外にも積立金はまだまだあり、国民年金が9兆円、地方公務員共済組合が36兆円、国家公務員共済組合が8兆円など、総額約195兆円の積立金があるのである(01年度末現在)。

  195兆円といえば、天下の日銀の総資産(140兆円)を優に凌駕する金額だ。いずれこの積立金は完全に取り崩さねばならない日がくるにちがいない。

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  様々なシンクタンクが年金改革案を提示しているが、ここでは、2002年12月に経済同友会(以下同友会)が提案した公的年金の抜本改革を紹介する。同友会は公的年金制度は実質破綻状態にあるとし、現状の制度をやめて、新制度を提案している。その第一が全額税で賄われる“新基礎年金”の設立、第二が持続不可能な厚生年金保険の廃止である。

  新基礎年金は、一人当り月7万円(夫婦で14万円)とし、全額消費税でまかなうことを提案している。このため目的消費税12%(現在の5%と併せ、新消費税率は17%となる)があらたに課税されるが、厚生年金保険料(年収に対し労使で13.58%を負担)が廃止されるので、ネットで5.18%の減税となる(=-13.58+12*0.7=-5.18。所得に対する消費性向を0.7として計算)。厚生年金保険料の払い戻しには、これまでの積立金の取り崩しと国債発行を充てることを提案している。

  いまのところ政府は公的年金制度の枠組みを大きく変えることは考えておらず、厚生年金保険料を13.58%から18.30%へ引上げると同時に、基礎年金の国庫負担も1/3から1/2へ引上げることを決定している。しかしこれでは全体で5.77%の増税となり、しかも現実にはこれ以上の増税になる可能性が高い。国民がどこまでの増税に耐えられるのか、世界一の負債を抱える国で壮大な実験が始まろうとしている。