2004年 2月14日の放送

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  今週のメインイベントはなんと言ってもグリーンスパンFRB議長の議会証言である。証言前の債券市場は、例によって利上げ言及懸念から売り込まれていたが、グリーンスパンのスピーチ原稿にはしっかりと“FEDは利上げに我慢強くなれる(patient)”との表現が登場、投資家はあわてて債券を買い戻し、株を買い増し、米国の金融市場にはめでたい1日となった。スピーチ原稿の前半は米経済の力強い成長を称えるものになっており、個人消費に加え、企業の設備投資も復活してきたことで、経済の見通しは明るいとしている。

  雇用はあまり伸びていないが、“遠からず改善する”と楽観的な姿勢を示した。このため短期金利は“より中利的な水準へ上昇する必要がある”と述べてはいるのだが、インフレが低く供給余力のある現状では当面金融緩和政策は維持するということのようだ。

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  だが、楽観的で市場に優しいグリーンスパン議長も、財政赤字動向には大きな懸念を抱いている。上は米行政管理予算局が今月発表した米財政赤字見通し。青色が昨年時の予想、オレンジ色が今回の予想である。赤字見込み額は大きく増加しており、2004年度は5210億ドルの財政赤字が見込まれている(昨年の2004年度財政赤字予想額は3070億ドルだった)。

  では財政赤字の何が悪いのか。グリーンスパン議長によれば、まず第一に、今財政赤字の修正に取り組まないと後でもっと大変な事になるという。近い将来、ベビーブーマー世代が徐々に現役を退き始めるため、社会保障費の増大が予想され、いずれ政府が増税せざるを得なくなる可能性を指摘している。第二は金利の急騰リスクである。市場参加者が財政の先行きに不安を覚えれば、債券を売り込む。そうなれば、金利が大幅に上昇してしまい、民間投資を冷え込ませる可能性があるという。経常収支の赤字問題と合わせると、解決はますます急いだほうがよい、というのがグリーンスパンの指摘である。

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  為替については比較的楽観的なコメントが出ている。グリーンスパンによれば、貿易加重平均でドルは2002年のピークから13%下落しているが、インフレに対する悪影響はほとんど見られない、という。上は米国の輸入物価と消費者物価指数(コア)の前年同月比推移だが、原油価格の高騰で昨年初の輸入物価は上昇したものの、その後はドル安の進行にもかかわらず、2%前後の伸びで落ち着いていることがわかる。コアのCPIにいたっては、ほとんど影響がなく、むしろ一貫して伸び率は低下している。グリーンスパンは逆にドル安の効用を説き、輸出増が経常収支赤字の削減に貢献すると述べている。

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  このような議会証言の内容を受け、再びドル安が進んでいる。特に弱含みに推移していたユーロは、先月末から反転し、グリーンスパンの議会証言で上昇テンポにはずみがついてしまった。

  金利は当面上げないとする米国に対し、トリシェ率いる欧州中央銀行(ECB)は“金利は下げない”との姿勢を堅持しており、短期金利が2%しかないとはいえ、米国に比べれば“高金利”通貨であるユーロに買いが集まっている。ユーロ圏のファンダメンタルズは米国ほど良好ではないため、この水準からさらにユーロ高が進むかどうかはわからない。しかしECBが利下げに踏み切るか、為替介入でも実施しない限り、市場はユーロの上限値を試す動きを当面続けそうだ。

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  ドル円は静かな取引が続いているが、相変わらずドル売り円買いの強い展開が続いている。1月から当局は大規模な介入を続けているが、ドルは一向に反発する気配を見せない。105円近辺では激しい攻防があろうが、徐々に下値を割り込むのも時間の問題か。ただし投機筋もドル売り円買いのポジションを増やしており、ドルの急落局面ではドル買い戻しが強まろう。当面はゆっくりとした円高が進みそうだ。

  ユーロ円は再び上昇傾向を強めている。円以外の通貨は軒並み対ドルで上昇しており、円だけが横ばいにとどまっていることによる。このためクロス円は当面堅調に推移すると思われるが、対円ではかなり割高になっており、調整局面の到来もそう遠くないうちにおとずれそうだ。

  G-SECインデックス(市場アンケート)速報は50.0となり、円高派・円安派が同数となっている。