2004年 1月10日の放送

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  年初からドル安が大きく進行している。 米国の莫大な経常赤字問題は以前から指摘されており、決して新しい問題ではないが、為替市場はいよいよこの問題をメインテーマとして見据え始めたようだ。イラク問題なども影響しているのだろうが、金利差の影響も大きい。米国の短期金利は1%しかなく、先進各国では日本に次いで低い。ユーロは2%、英国は3.75%、オーストラリアのコールレートに至っては5.25%もある。このため豪州ドルの対ドル上昇率はこの4ヶ月間だけでも20%に達しており、ユーロの対ドル上昇率16.7%を上回った。
  このようなグローバルなドル安トレンドは、日本円に対しても上昇圧力をかけており、円は9月以降10%近く上昇している。財務省は必死の介入で円高を抑えており、9日の東京市場でも一時108円台まで戻す局面があったが、長期的にはさらなるドル安円高が不可避の状況となっている。

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  特にこのところのドル安ピッチを速めたのが、最近注目度が高いバーナンキFRB理事の発言だ。バーナンキ理事は4日、米経済協会の年次総会でスピーチを行い、ドル危機のリスクは「極めて低い」と述べ、特にドルの価値を対ユーロでだけ測るのは「誤り」だと発言した。市場はこの発言を重視、米国サイドは最近のドル下落を懸念していないとの見方が拡がり、ドルは対円で106円台後半から106円台前半に下落した。

  同様の発言はコーンFRB理事からも出ており、同理事は7日、ドル下落は海外投資家による米資産の需要後退の結果であり、現在までのところドル安は米経済に打撃を与えていないとの考えを示している。
  スノー米財務長官の発言はこれまでの繰り返しで、あまり新味はないものの、6日には米ゼネラル・モーターズ(GM)のリチャード・ワゴナー会長が、デトロイトで開催されている北米自動車ショーで記者会見し、円相場は「1ドル=92円から100円の水準が適当」などと述べている。

  このような一連の発言から、市場は“秩序だったドル安は米国の国益”との見方が主流になってきている。

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  このような環境下、注目されたのが8日に行われた欧州中央銀行(ECB)の理事会。ユーロ高を懸念する声はユーロ圏内部からも出ていただけに、一段の利下げによりユーロ高を回避する、との思惑も台頭してきていた。しかし結果は現状維持となったため、ふたたび“高金利通貨”であるユーロに買いが集中する結果を招いている。
  さらに、トリシェECB総裁は記者会見で、ユーロ高は輸出に悪影響を及ぼす可能性があると述べたものの、一方で、世界的な経済成長がユーロの上昇効果を相殺する、とも発言、表向きにはあまりユーロ高を懸念した素振りを見せなかった。このことも、市場でのユーロ買いドル売りに安心感を与える結果となっている。

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  ではドル安はいつまで続くのか。なにかドル高トレンドに転換するような要因は今後出てくるのだろうか。一部で注目されているのが2月上旬にアメリカで開かれるG7。昨年9月のドバイG7では、“(為替は)もっと柔軟性(More Flexibility)を持つことが望ましい”との表現を声明に盛り込み、これが当面のサポートラインとされた1ドル=115円を突破するきっかけとなった。このため市場では、欧州サイドのリクエストを受け入れ、今度の声明文で一段のドル安を阻止する方向が明確に打ち出されるとの憶測も出てきている。
  だが、米国の金融当局からは基本的に現在の緩やかな(?)ドル安を容認する発言が相次いで出されており、現状から大きく姿勢を転換することは期待しにくい。ドル安が具体的に米国内の債券や株式市場に打撃を与え始めない限り、今度のG7が為替の材料となることは難しそうだ。

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  2日(金)の海外市場は107円近辺での小動きが続き、107円05銭で引けた。5日(月)の東京市場は106円台後半で推移したものの、バーナンキFRB副議長のドル安容認発言などを背景に海外でドル売りが強まり、106円台前半までドルは下落して引けた。6日(火)は東京市場、海外市場とも106円台前半での小動きで推移した。
  7日(水)の東京市場は一時106円44銭まで円安が進んだが、その後は海外市場でドル売りが再び活発化、一時115円91銭までドルは売り込まれた。その後はドル買戻しが強まり、106円20銭で引けた。8日(木)は東京市場、海外市場とも106円台前半での小動きで推移した。9日(金)の東京市場は、106円台前半で静かな動きが続いていたが、午後に当局が突如大規模円売り介入を実施、一時ドルは108円台前半まで急騰した。その後は再びドル売りが強まり、107円近辺での推移となっている。

  当面は上記レンジのなかで神経質なもみ合いが続きそうだ。財務省は9日に大規模な円売り介入を実施したものの、その後はまたドル売り圧力の強い展開となってきている。市場では介入に警戒しつつも、当面このドル安トレンドは続くとの見方が根強い。

  G-SECインデックス速報は33.3とドル安円高派が優勢。一段の円高を見込んでいる。