2003年 3月22日の放送

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  市場の重しになっていたイラク情勢がついに動き出した。ブッシュ米大統領は17日夜、全米向け演説を行い、イラクのフセイン大統領らに対し、48時間以内に国外に出るよう要求。従わない場合には、武力行使に踏み切るとする最後通告を行った。これにより世界に緊張が広がったが、市場では逆に、これまで折り込まれていた“戦争プレミアム”が急速に剥落、まず株式市場が、戦争の短期決着は明らかとの楽観的観測から急騰。一方で“質への逃避”から買われていた債券が急落する荒れた展開となった。同様に為替でも、特に対ユーロでドルが買い戻され、一時1ユーロ=1.1ドルまで売られていたドルは、1.05台での推移となっている。上のグラフは先月末の米株(NYダウ)、米債(10年物先物価格)、ユーロドルレート(指数の上昇はドル高を示す)を100とし、指数化したもの。米株は今月上旬には一時95近辺まで下落したが、その後底値から10%以上回復している。とりあえず、市場では買い安心感が広がっている。

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  今回のイラク攻撃に関する市場の動きを、1991年の湾岸戦争時のそれと比べる人は多い。上のグラフは、湾岸戦争勃発時(91年1月17日)をゼロとし、その前後120日間のマーケットの動きを示したもの(戦争120日前の各レートを100とした)。たしかに、NYダウの動きなどは現在の動きと似ている。湾岸戦争前はかなり売られていたが、戦争開始直後に大きく反発していることがわかる(湾岸戦争当時のNYダウは2500ドル前後。その後98年秋のロシア危機まで、ほとんど調整局面なしに8000ドル台へかけ上がっている)。また為替でも、ドルは戦争開始後に大きく反発している。グラフは対マルクのレート推移だが、戦争直後はややドル安となったが、その後2割以上値を戻している。

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  では、今回も“イラク情勢の重石”が取れれば、株価は再度上昇トレンドに入り、景気は上向くのであろうか。ひとつ注意したいのは、景気動向の鍵を握る消費者信頼感指数が91年当時と比べ、大きく落ち込んでいることだ。上のグラフは、米英独仏の消費者信頼感指数の4カ国平均を89年3月末値を100としてその後の推移を見たもの。湾岸戦争時は110前後と高い水準で推移しており、全体的に消費者の信頼感は高水準にあったものの、90年代後半から2001年にかけて大きく失速、2001年には40近くまで落ち込んでいる。その後回復基調にあるとはいえ、依然90年代前半の水準よりは大きく下がったままの状況が続いており、“イラク不安さえ払拭できれば、景気は立ち直る”と即断するのは、まだ時期尚早と言えそうだ。

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  14日(金)の海外市場は、118円台前半の推移。国連安保理の新決議案を巡り、多国籍間交渉が活発となる中、ドルの買い戻しが出て、全般にドルは堅調に推移、118円26銭で越週した。

  17日(月)の東京市場は117円90銭で取引開始。イラク攻撃の可能性が高まったことを受け、ややドル売りの強い展開となった。しかし海外に入ると、日銀による覆面介入の噂などからドルは下げ渋り、さらに米株が上昇するとドルは反転、118円台半ばでの引けとなった。

  18日(火)の東京市場は118円台後半の推移。海外ではイラクの短期終結をにらみ、一時119円台前半までドル高が進んだが、その後は米住宅着工が弱かったことなどからドル売りが出て、再び118円台に戻されて引けた。

  19日(水)の東京市場は118円台半ばでの小動きが続いた。しかし海外では、米軍の主導部隊がイラク、クェート国境の非武装地帯に進入した、との一部報道にドル買い戻しが強まり、119円台へ上昇。その後は損失覚悟のドル買いも出て、ドルは120円台へ続伸、結局120円55銭で引けた。

  20日(木)の東京市場は120円をはさんだ動き。ブッシュ米大統領は、イラクへの攻撃を東京時間の午前11時半頃から開始。おなじく午後12時15分からは、イラクを武装解除し、フセイン政権の打倒とイラクの民主化を目指した戦いが始まったことを宣言した。市場ではややドルの頭の重い展開となっている。

  いよいよ懸念されていたイラク攻撃が開始されたが、ドル円は株式や債券市場に比べ、あまり大きな動きを見せていない。米株が続伸中であるため、目先はドルの買い戻しが続く可能性があるものの、市場は、本当に短期決戦で終わるのかどうかを見極めつつ、慎重に行動すると思われる。あまり大幅なドル高は見込みにくい。

  G-SECインデックス速報は42.3と、前回比大幅ダウン。“イラク短期終結”と現段階で結論づけるのは時期尚早との意見が出ている。