2001年12月22日放送 マーケット・ナビのポイント

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  トピックスが98年10月の金融危機以来の水準に戻っている。上は各月末値をグラフにしたもの(12月は20日の終値を利用)。98年10月以降99年末にかけて約7割の上昇をみたものの、その後はなかなか回復しない日本経済の低迷を反映し、下落し続けている。98年10月の月末値は1035だが、最安値は同月15日につけた974。今後は現在のレベルを2番底として立ち上がるのか、それとも底割れし、新安値を更新して行くのかが注目される。

  ちなみに日経平均株価は、98年10月9日に12787円まで下げた。この安値を再度割り込んだのが今年3月1日。以来、バブル後最安値を更新する日々が続いた。トピックスは9月の同時テロ事件後でも、984までで踏み止まっており、まだ98年10月の安値を割り込んでいない。   

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  上株価低迷の背景は企業収益の悪化にあるわけだが、その一因となっているのが人件費の高止まりである。上は55年以降の労働分配率推移(全産業)。法人企業統計季報の数字を使用し、企業の営業利益・人件費・減価償却費の合計を分母にとり、人件費の占める割合を計算したもの。

  労働分配率は60-61年の48%を底に上昇に転じ、98年には73%まで上がった。その後徐々に下げてはいるものの、歴史的には高水準にある。とくに最近はユニクロ現象に代表されるように、中国の人件費の安さが喧伝されており、今後は日本の企業も人件費の削減に一段と厳しく取り組まざるをえなくなる可能性がある。

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  上は実質賃金指数の推移。厚生労働省の毎月勤労統計調査から作成したもの。事業所規模30人以上で、現金給与総額を対象とした調査産業全体のものだ。それによると、1995年以降、実質賃金指数はほぼ横ばいを続けている。直近2000年の指数は100.5。上のグラフにはないが、このうち製造業は逆に上昇傾向を示しており、95年以降一度も100を割り込んでいない。2000年の指数は104.1となっている。

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  現在の低株価は98年当時とどう違うのだろうか。上の表は100円割れ銘柄の内訳を見たもの。株価の額面にこだわらず、単純に100円割れの銘柄数を拾い上げたものだが、その数は当時と比べて約3倍に増えている。98年当時は100円割れの銘柄は特定のセクター(金融・保険、建設、鉄鋼など)に集中していたが、今回は幅広く拡散しているのが特徴。日本経済全体に後退色が強まっていることが伺われる。

  ちなみに金融・保険セクターは、98年当時の8銘柄から現在は4銘柄に減少している。これは98年以降、合併等の合従連衡が進んだことが大きい。

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  このように景気後退色深まるなか、日銀は19日に量的緩和を一段と拡大することを決めた。今年を振り返ると、日銀の金融政策は3月に大きな転換期を迎えている。年初から3月までは、従来どおり公定歩合やオーバーナイトの無担コールレートの引き下げが主たるツールだった。しかしその後は短期金利をゼロに戻し、主たる目標を日銀の当座預金勘定残高に置いたのである。実施期間についても「消費者物価指数(全国、のぞく生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで、継続する」とし、実質的にインフレターゲットをマイルドな形で導入するに至った。

  上のグラフはそのような日銀の政策を振り返ったもの。当座預金残高は11月末に9兆2000億円まで上昇、今後日銀はさらに10~15兆円レベルにまで引き上げるつもりだ。

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  17日(月)のアジア市場では、円安容認とも受け取られる黒田財務官の発言等を手がかりにドル買い強まり、一時128円03銭まで上伸。しかしその後の海外市場では、利益確定のドル売り強まり127円54銭まで戻して引けた。18日(火)は、塩川財務相の一段の金融緩和示唆発言を受け、ドルは再度128円台へ上昇。海外市場でもドルは続伸し、一時128円45銭まで買われる。IMFの円安容認見解もドル買いの支援材料となった。引けは127円71銭。またユーロ買い円売りも強まり、115円台に乗せている。19日(水)は、アジア市場では128円台半ばまでドル買いが進む展開となったものの、海外市場では利益確定のドル売りが先行、128円ちょうど近辺での引けとなった。日銀金融政策決定会合の決定内容は円安促進にはならず、むしろ外債購入策を期待していた海外勢に失望感を持たせ、ドル売りを招く結果となった。20日(木)は海外から大口のドル買いが持ち込まれたため、いきなり128円80銭まで急騰、その後いったん128円割れまで戻す局面もあったものの、榊原前財務官の円安を予想した発言が伝わると、128円89銭まで上伸し直近高値を更新した。21日(金)の東京市場でもドル買い需要根強く、129円30銭近辺での取引となっている。

  今後について見ると、財務省が主張してきた円安容認論はかなり市場に浸透してきたと言ってよいと思われる。このところの円安ピッチが極めて早いため、警戒感は強くなっているものの、ドル高円安基調はしばらく続きそうだ。いったん円高局面も迎えても目先は短命に終わる可能性が高い。

  G-SECドル円指数(21日、速報値)は66.7へ上昇、前週の確定値比4.2ポイントの上昇となった。中長期的に見て、さらなる円安を見込む向きが増えてきている。