2001年12月1日放送 マーケット・ナビのポイント

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低下を続ける消費者信頼感指数

  9月、10月と下落を続けていた米国消費者信頼感指数は、11月は予想外の悪化となった。指数は82.2(1985=100)となり、10月の85.3からさらに低下した。82.2は94年2月以来の低水準。現況指数は107.2から93.5へ低下したものの、期待指数は74.6から70.7へ上昇している。自動車などのが売れ行きが好調だったこともあり、これほどの悪化は予想されていなかった。

  コンフェレンスボードの関係者によると、失業率の上昇と相次ぐレイオフ声明が信頼感を低下させている、と言う。年末まで指数の反転は見込みにくく、クリスマスセールスが盛り上がることはなさそうとのこと。   

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  FRBはベージュブックを発表した。今回は10月16日から11月19日までの報告で、12月11日に開く次回の定例の連邦公開市場委員会での政策決定の判断材料になる。

<全般>
  経済活動は、10月から11月前半にかけて、軟化が続いている。一部回復に向かう地域もあるものの、ほとんどの地域では後退が強まっている。特に製造業の活動は一段と弱まっており、生産や受注、雇用などで減少が見られる。

<個人消費>
  強弱まちまち。金融インセンティブの提供で、自動車関連は好調だが、旅行業は引き続き弱い。小売業者の今後の見通しは割れている。消費者需要が弱いため、ディスカウントを開始しているところもある一方、大きな期待を寄せているところもある。

<不動産投資>
  居住用は、おおむね堅調。しかし、商業用は需要が後退。空室率は上昇し、賃貸料も下がっている。

<金融>
  企業向け貸し出しは低下つづく。借入れ需要が弱い。また貸し出し基準も厳しくなっている。

<労働市場>
  引き続き軟化。レイオフやダウンサイジングの影響で、賃金は横ばいから低下。

<物価>
  自動車、ガソリン、コンピューターは下落続く。しかし、テロ事件の影響で保険料などは急騰している。

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ムーディーズに追いついたS&P

  米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が28日に日本国債の格付けを「 AA+ 」から「 AA 」に引き下げた。上は、ムーディーズ社とS&P社の過去の格下げの動きを示したもの(縦軸の目盛はS&P社の方式に合わせてある)。

  最初に警鐘を鳴らしたのはムーディーズの方で、98年4月3日に日本国債の格付け見通しを「ネガティブ」にすると発表し、市場を驚かせた。実際に引き下げに動いたのは同年11月17日。格下げ後も、ムーディーズは日本国債の見通しを「ネガティブ」に据え置き、2000年9月8日にはさらに一段階引き下げている。

  この間、S&Pはムーディーズと異なり、今年の2月23日までトリプルA格付けを維持し続けた。米国の2大格付け会社の意見が分かれたのだが、双方の意見が1999年6月30日の日経金融新聞に紹介されている。当時S&Pは、日本が世界最大の債権国であることや産業の競争力が高い点などを挙げ、日本は経済的困難を乗り越えられる、としていた。しかしそのような見方は、今年に入って2度の格下げを実施したことで、大きく修正されたことがわかる。S&P、ムーディーズともに見通しはネガティブとしており、今や、日本国債の格付けがシングルAに下がる日もそう遠くないのかも知れない。

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  上は、格下げの実施時期と国債(10年)の利回り推移を見たもの。最初のムーディーズの格下げ後、国債の利回りは大きく上昇したものの、その後は基本的に1.5%~2.0%の間で安定推移していた。2000年後半から今年の前半にかけて利回りは低下しているが、日銀が量的緩和を進めたことや、小泉新政権の誕生で財政改革が進展するとの期待が大きく膨らんだことが背景。

  しかし、6月に1.2%近辺まで買われた後、金利はじり高基調となっている。国債発行額の増加で需給悪化懸念が払拭されないことや、日本経済の先行き不安が高まっていることが背景。S&Pによる格下げ追い討ちもあり、金利は下がりにくい状況となっていると言えそうだ。

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失業率、過去最悪の5.4%

  総務省が30日発表した労働力調査(速報)によると、10月の完全失業率(季節調整値)は前月より0.1ポイント高い5.4%と悪化した。特に男性の完全失業率は前月の5.4%から5.8%へ急上昇している。男女計および男性の完全失業率は比較可能な1953年以降、最悪の水準となっている。景気の一段の悪化に加え、米国テロ事件と狂牛病による消費後退などが影響したと見られる。女性の失業率は、前月の5.2%から0.4ポイント改善。

  男女間の差が大きいことについて、総務省は、男性は製造業、建設業などを中心に常用雇用者が前年に比べ大きく減少したが、女性は常用雇用者が目立って減少しなかった上、短時間・短期間の就業者が増えたためだと言う。

  完全失業者数は352万人、前年同月比で38万人(+12.1%)増加した。前年同月比の増加は7ヶ月連続。非自発的な離職による完全失業者はこのうち114万人を占め、前年同月比で16万人増えている。

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  今週のドル円相場は週末にかけてドルじり安の展開となった。

  26日(月)は、格付け会社フィッチによる日本国債格下げの報道を受け、124円半ば近辺まで上昇。しかし、FT紙が報じた日銀の外債購入の可能性について、黒田財務官や塩川財務相が否定的な見解を示したことなどから、123円後半へ軟化。その後ドルは買い戻され、結局124円台前半での引けとなった。

  27日(火)は、塩川財務相が一段の円安を希望する発言を行ったことから、いったん124円台半ば近辺まで上昇。その後海外では、大口のユーロ売り円買いが出たことや、11月の米消費者信頼感指数が予想より悪化したことを受け、124円近辺での引けとなった。

  28日(水)は、124円ちょうど近辺で寄り付いたものの、S&Pの日本国債格下げがワンノッチにとどまったため、円買い戻しが優勢となり、123円半ばまで軟化した。海外では、マイヤーFRB理事、プールセントルイス連銀総裁の利下げ示唆発言に米景気早期回復期待が後退、ドルは123円前半まで下落して引けた。

  29日(木)は、エンロンの経営危機やウェルテケ独連銀総裁が円安誘導に否定的な見解を示したことから、一時122円台まで軟化するも、MSCIの銘柄入替え絡みの円売りや金融不安説から123円台後半まで急反発してクローズ。

  30日(金)の東京市場は、123円後半でのもみ合いが続いている。

  今後について見ると、基本的にはドルの一段高を見込む向きが徐々に増えてきているようだ。30日発表の失業率も示すように、日本の景気は悪化が続いており、向こう2年程度は本格的な回復が見込みにくい状況になっている。このため不良債権の増大に伴う金融危機再発懸念は払拭されておらず、円は売られやすい地合いが続こう。120円近辺では、当局が円売り介入に踏み切る可能性が高いことも、円を買いにくくしていると言えよう。

しかし、米景気の先行きも予断を許さない状況となっていることから、125円を超えるドル高を予想する市場参加者も少ない。輸出企業もドル売りもコンスタントに出ており、短期間でのドル上昇は難しそうだ。従って、来週は121円~126円のレンジ内での取引となろうか。G-SECドル円指数(30日、速報値)は60.0となり、前週比1.7ポイントの上昇。ドル高円安を見込む市場参加者が徐々に増えてきている。